枯れた技術の水平思考
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/06 15:35 UTC 版)
横井は「枯れた技術の水平思考」という独自の哲学を持ち、自作に反映していた。 「枯れた技術」は、「すでに広く使用されてメリット・デメリットが明らかになっている技術」のことで、「水平思考」(エドワード・デボノ提唱)は、「既存の概念に捉われず新しい角度から物事を見る」ということであり、要は「既存の技術を既存の商品とは異なる使い方をしてまったく新しい商品を生み出す」。結果的に開発コストを低く抑えることができるのが特徴。 射撃玩具『光線銃SP』が代表的な存在で、太陽電池を電池としてではなく、光に反応する性質に着目しセンサーとして使用。一方その光の発信源はというと豆電球といった次第である。 開発第一部が手掛けていた携帯ゲーム機においてもその哲学は反映されているが、その一方で前述の横井のコンピュータ嫌いがあり、「ハイテクが必要なわけではない。むしろ高価なハイテクは商品開発の邪魔になる」とローテク路線も取っていた。枯れた技術の水平思考とローテク路線が完全に噛み合ったのは『ゲームボーイ』においてであり、『ゲームギア』や『リンクス』といった他社の高性能の携帯ゲーム機を次々と葬っていった(なお、両者ともゲームボーイのローテクさを揶揄する比較広告を行っていた)。 低コスト路線は任天堂の据え置きゲーム機の開発でも取られ、開発第二部が手掛けていた据え置き型ゲーム機『ファミコン』や『スーパーファミコン』もこの方式で作られていた。しかし1990年代中盤、所謂「次世代ゲーム機戦争」において他社のハードが3D機能を目玉に大きくシェアを伸ばした頃から風向きが変わり始める。任天堂も他社ハードに対抗すべく3Dに対応した次世代機『NINTENDO64』を開発する事になる。3D対応に際して、当時の最新技術を投入せざるを得なくなり、ファミコンカセットの特殊チップなどを開発していた開発第三部が64の開発に当たることになる。結果、64の開発は枯れた技術の水平思考やローテク路線という横井の開発方針から離れていくことになった。当時、横井は『NINTENDO64』を推進する宮本茂に対して「お前もそっちへ行くのか」とこぼしていたという。 横井は同時期にひとつの答えとして、枯れた技術の水平思考とローテク路線を貫いた3Dゲーム機『バーチャルボーイ』を開発したが、商業的に失敗に終わる(しかし、枯れた技術の水平思考→低コストが幸いして任天堂の業績にほとんど影響がなかった)。横井はその後、任天堂を退社した。
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