侵略種
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/26 08:38 UTC 版)
アオナガタマムシは、自生地以外の分布範囲ではトネリコ属の木を破壊する非常に侵略的な種である。アメリカでは2002年にデトロイトに程近いミシガン州のカントン郡区で初めて確認されたが、海外から物品の輸送に使われる梱包材等に紛れて持ち込まれたのではないかと推測されている。 自生地で本種の個体数を抑制する要因が無ければ、個体数は直ぐに有害なレベルに増加する。最初に侵入された後、一切の対策を講じなければ10年以内にその地域の全てのトネリコ属の木が枯れてしまうと言われている。北アメリカ原産のトネリコ属は総じて本種の影響を受け易いが、中国原産のトネリコ属の中には抵抗力のある物もある。 本種はトネリコ属の中でも特にビロードトネリコ(英語版)とニグラトネリコ(英語版)を好む。ホワイト・アッシュも宿主にされると急速に枯れて行くが、通常はその地域のビロードトネリコとニグラトネリコが全滅してからである。ブルー・アッシュ(英語版)は本種に対して高い抵抗性を示す事が知られているが、これは葉にタンニンが多く含まれており、昆虫が葉を食べられなくなるのが原因と考えられている。 アジア原産のトネリコ属の多くは進化を通してこの防御を発達させているが、ブルー・アッシュを除くアメリカ原産のトネリコ属の種には防御力が無い。研究者は本種の攻撃を受けても大きな被害を受けずに生き残った所謂「生き続けるトネリコ属の木」の個体群を、新しい耐性のある株を接ぎ木したり繁殖させたりする手段として調べた。その結果、これらの生き残ったトネリコ属の木の多くは抵抗性を高める可能性のある特異な表現型を持っていると判明した。アジア原産のトネリコ属にはタンニンが多く含まれているのみならず、本種の幼虫を撃退、捕獲、死滅させる防御力が自然に備わっている。アメリカ原産のトネリコ属の研究でも同様の防御メカニズムを持つ事が示唆されているが、木は攻撃されているのを認識していない可能性が高い。 本種の個体群は、1年に2.5 kmから20 km広がると言われている。主に航空貨物又は薪や苗木等のトネリコ属の樹皮を含む製品の輸送を通して拡散し、新たな地域に到達して衛星となる個体群を形成する。 気温が原因で拡散が制限される場合もある。冬季の気温が約−38 ℃になると生息域の拡大が制限されるが、越冬したアオナガタマムシは体内の不凍液と樹皮の断熱効果で平均気温−30 ℃迄生き延びる。幼虫は53 ℃の高熱にも耐えられる。 アジアで本種の個体数の増加を抑えた特殊な捕食者や寄生虫の多くは北アメリカには存在しておらず、北アメリカに生息する捕食者や寄生虫では本種を十分に抑制出来ない為に個体数は増え続けている。キツツキ科等の鳥類は本種の幼虫を食べるが、成虫はアメリカの動物相だと餌として認識されない。北アメリカの捕食者や寄生虫は時折本種の大量の死亡を引き起こすが、一般的には限定的な防除しか出来ない。キツツキ科の鳥類に起因する死亡数は一定ではなく変化し易い。 アメリカ合衆国農務省動植物検疫所(英語版)は、無効性を理由に2020年12月14日に同国内のアオナガタマムシの防除を目的とした検疫を全て終了する規則を発表し、1か月後の2021年1月14日に発効した。その代わりに他の手段、特に後述する生物的防除が用いられる。
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