人格権と財産権の関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/08 09:03 UTC 版)
「著作者人格権」の記事における「人格権と財産権の関係」の解説
一般的には、著作者の「心」を守るのが著作者人格権であるのに対し、「財布」を守るのが著作財産権だと分類される。とは言え、第三者による著作物の利用が、著作者人格権と著作財産権の両方を侵害することもあり、両者は密接に関係している。たとえば、個人的に綴っていた非公開の日記を第三者が無断でコピーして配れば、著作者人格権の公表権と、著作財産権の複製権の両方を侵害したことになる。また、著作者人格権の同一性保持権 (著作物を改変されない権利) と、著作物の翻案権や二次的著作物の利用権 (著作物を改変する権利) など両立の困難な領域もある。 誰が権利を持てるかについても、著作者人格権と著作財産権では異なる。著作財産権は土地や建物のように権利を譲渡、相続、貸与できるが、一方で著作者人格権は一般的に譲渡が認められていない。これは、著作者人格権が著作者本人の心を保護することを目的としているためである。換言すると、複製権や出版権などの著作財産権を第三者に売却した後でも、著作者人格権だけは消滅せず著作者本人を守り続ける。これを「一身専属性」と呼ぶ。 ただし、この一身専属性を著作者本人の意志で否定する、つまり著作者人格権を自ら放棄したり、不行使にする契約を結べるのかについては、一部の国で認められている。著作者人格権を守ることを優先しすぎた結果、著作財産権の面で著作者が経済的に不利な立場に追い込まれてしまうリスクを回避する必要性があるためである。たとえば、著作物利用のライセンス契約を締結する際に、著作者人格権をライセンス先に譲渡できないとなると、著作者人格権侵害による訴訟リスクを考慮して、契約そのものが破談になってしまったり、リスク分を加味して著作者が不利な契約の立場に追い込まれるといった副作用が考えうる。 さらに原著作物だけでなく、それを用いて創作された二次的著作物に対しても、原著作物の著作者は著作者人格権を有していることになる。たとえば、イギリス人作家が執筆した「未発表」の英語の小説を基に、翻訳出版権を正式に獲得した日本人翻訳家が日本語化したとする。このように著作財産権的には何ら問題ないケースでも、仮にイギリス人作家から承諾を得ずに日本語版小説のみ出版すると、著作者人格権のうちの公表権を侵害したことになる。 著作者の死後の扱い 国によっては著作者人格権の譲渡は認めないが、相続は認めることがある (詳細は#各国の対応を参照)。生前に名誉棄損などの行為が禁止されて人格が守られてきたように、安心して死ねる権利が著作者には必要だとの考えである。没後の著作者に対する名誉棄損がその遺族にまで影響を及ぼす場合には、遺族分の人格権侵害に限定して、損害賠償や差止などの具体的な法的措置が取られることがある。
※この「人格権と財産権の関係」の解説は、「著作者人格権」の解説の一部です。
「人格権と財産権の関係」を含む「著作者人格権」の記事については、「著作者人格権」の概要を参照ください。
- 人格権と財産権の関係のページへのリンク