ニュースピーク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/27 09:31 UTC 版)
ニュースピーク(Newspeak、新語法)はジョージ・オーウェルの小説『1984年』(1949年出版)に描かれた架空の言語。作中の全体主義体制国家が実在の英語をもとにつくった新しい英語である。その目的は、国民の語彙や思考を制限し、党のイデオロギーに反する思想を考えられないようにして、支配を盤石なものにすることである。
注釈
- ^ 日本語訳がウェブ上に公開されている[1]。
- ^ このエッセイはニュースピークの諸原理を過去のものとして普通の英語(オールドスピーク)で書いている。この文章が1984年よりさらに未来に書かれたこと、ニュースピークは一旦は完成または完成間近になったが、この文章の書かれた時点ではすでにイングソック体制が崩壊しニュースピークも過去のものとなっていることが示唆されている。
- ^ 例えば、「think」(考える)が名詞(思想)にも使えるため、「thought」という語は廃止された。また、「rapid」(素早い)は「speedful」(速度+形容詞接尾語)に、「quickly」(素早く)は「speedwise」(速度+副詞接尾語)に、それぞれ置き換えられた。
- ^ もっとも、ニュースピークでも「ビッグ・ブラザーはアングッドである」と表現できなくもないが、これは矛盾した文章であり、これを論証するための語彙は存在せず、正統的思想からは単なるナンセンスな虚構にしかとれない。
- ^ こうしたアヒルがガアガアとけたたましく鳴くようにまくし立てる話し方は「duckspeak」、「ダックスピーク」と呼ばれている。ダックスピークという語は、敵に対して使われる際は敵の演説に対する非難の用語となり、味方に対して使われる際は素晴らしい演説者であるという賞賛の用語となる。
- ^ 具体的には、「ナチ」、「ゲシュタポ」、「コミンテルン」、「アジプロ(アジテーションプロパガンダの略)」、「インプレコル(コミンテルン機関紙「インターナショナル・プレス・コレスポンデンス」)」の5つ。
- ^ サピア=ウォーフの仮説を参照。ただし、この観点については異論や反駁がある。たとえば、「自由」という言葉がなくなっても概念はなくならず、何らかの形で「自由」という概念を表すための言葉が登場するはずという意見である。ジーン・ウルフは新しい太陽の書シリーズの中の架空言語 Ascian language を通じてニュースピークのような観点に異論を唱えている。
- ^ もっとも、オーウェル本人は英語を含む、様々な言語にまつわる複数のエッセイを著しているが、特定言語を名指しで批判した内容は存在していない。
- ^ 語彙面は英語をもとにした人工言語Basic Englishが元になっている。造語法に関してはエスペラント語との共通点が数多くみられるものの、個々の接辞や語幹の定義に無視できない差異があるため一対一では対応しない。
- ^ オーウェルは1927年にパリに在住していたころに叔母のネリーことエレン・ケイト・リムージンと愛人のユジェーヌ・ランティらを通じてエスペラントと接する機会があったが、エスペラントでは「アングッド」と同様の形容詞の組み立て方がある[独自研究?]。 ——この指摘はミスリードである。エスペラントの対義語をつくる接頭辞「mal-」は英語の「un-」のような通常の打ち消しの意味を持たない点で「アングッド ungood」等とは異なっている。mal- は語幹の品詞性を問わず意味を反転させた対義語をつくり、単純否定のニュアンスはない。例えば、形容詞「ボーナ bona(良い)」の対義語である「マルボーナ malbona」はストレートに「悪い」を指す単語であり、「良くない」という意味合いを伴う婉曲法などではない(この場合は語幹の打ち消しを意味する接頭辞 ne- を用いた「nebona(良くない)」という別の派生語がある)。前置詞「malantaŭ(~の後ろ)」、動詞「malfermi(開ける)」、副詞「maldekstre(左に)」等も同様である。このように、英語のそれとは対応関係の異なる造語要素を指して、前述のように「同様の形容詞の組み立て方」と言うのは誤解を招く不正確な表現であり、初歩的な知識不足に基づいた偏見を助長しかねない。
- ^ 田中克彦は著書『エスペラント…異端の言語』のなかで、この作品は『言語的に拘束する目的があるという、偏見に満ちた反エスペラントのキャンペーン』であると指摘している。
- ^ 接辞や膠着を用いた造語や複合語に関しては、そもそもエスペラント語やBasic Englishなどの一部の計画言語に限らず、ドイツ語等の印欧語や日本語等の多くの自然言語でみられる一般的な造語法だが、歴史的経緯により文法の簡略化や借用語による類義語の増加など、孤立語的な発展を遂げると共に造語能力が低下した現代英語においては不自然で作為的に見えやすい。
- ^ たとえば、スウェーデン軍には「ofred」(「平和でない」:戦争の意味)や「obra」(「良くない」:悪いの意味)などの俗語がある。またオーウェルはインドで警察に、イギリスでは軍隊での勤務経験がある。
- ^ エスペラント自体も弾圧され、多数のエスペランティストが殺害されていた。
- ^ 中華人民共和国など一党支配の国家や、権威主義体制国家だけでなく、アメリカやロシアのように強力な軍力を有する国家や、官僚主義的な国家、企業も同様である。
出典
- ^ ジョージ・オーウェル; H. Tsubota(訳) (2011年6月4日). “ニュースピークの諸原理”. Open Shelf. 一九八四年. 2019年7月3日閲覧。
- ^ a b オーウェル 1972, p. 394
- ^ オーウェル 1972, p. 398
- ^ オーウェル 1972, p. 399-400
- ^ オーウェル 1972, p. 406-407
- ^ オーウェル 1972, p. 404
- ^ オーウェル 1972, p. 403
- ^ オーウェル 1972, p. 69 より引用。
- ^ オーウェル 1972, p. 407-408
- ^ ピンカー 1995, pp. 38–49, 73–111.
- 1 ニュースピークとは
- 2 ニュースピークの概要
- 3 脚注
- 4 外部リンク
ニュースピーク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 01:54 UTC 版)
「1984年 (小説)」の記事における「ニュースピーク」の解説
詳細は「ニュースピーク」を参照 ニュースピーク (Newspeak、新語法)は、思考の単純化と思想犯罪の予防を目的として、英語を簡素化して成立した新語法である。語彙の量を少なくし、政治的・思想的な意味を持たないようにされ、この言語が普及した暁には反政府的な思想を書き表す方法が存在しなくなる。 付録として作者によるニュースピークの詳細な解説が載っている。これによるとニュースピークにはA群B群C群に分けられた語彙が存在し、A群には主に日常生活に必要な名詞や動詞が含まれ、その意味は単純なものに限定され文学や政治談議には使用しにくいもののみがイングソックによる廃棄をまぬがれる。B群には政治に使用される用語が含まれ少なからずイデオロギーを含んだ合成語が含まれる(例: goodthink(正統性)、crimethink(思想犯罪))。C群にはほかの語群の不足を補うための科学技術に関する専門用語が含まれる。 またニュースピークは現代英語を必要最小限にまで簡略化することを目指しており、現在では別々の言葉が似たような意味を持つという理由で統合され名詞や動詞の区別も接尾語により変化する。たとえばニュースピークの文法では、名詞の thought(思想[名詞])を動詞の think(考える)で代用でき、名詞の speed(速さ)に形容詞をあらわす -ful や副詞をあらわす -wise を加えることで、それぞれの品詞へ自在に変化する。bad をあらわすには good に否定の接頭語 un- をつけた ungood でこと足り、強意表現は plus- や doubleplus- といった接頭語をつけることで表現される。また、Minipax などのように略語を極端に採用しているが、これによって本来の語源を考えることなくまったく自動的に単語を話すことができる。これには、ナチスドイツやソ連が「ゲシュタポ」や「コミンテルン」などの略語を多用したことが影響している。なお、speak という単語に本来名詞としての用法はないため、「ニュースピーク」という言葉自体がニュースピークに分類される。 新語法(ニュースピーク)辞典が改定されるたびに語彙は減るとされている。それにあわせシェークスピアなどの過去の文学作品も書き改められる作業が進められている。改訂の過程で、全ての作品は政府によって都合よく書き換えられ、原形を失う。free の意味も「free from-(〜がない)」の意味しか残らず「政治的自由」や「個人的自由」の意味は消滅しているなど変化しており、原文の意味を保って自由や平等を謳う政治宣言などをニュースピークに翻訳することは不可能になる。
※この「ニュースピーク」の解説は、「1984年 (小説)」の解説の一部です。
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