LPG自動車 オートガス

LPG自動車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/01 22:04 UTC 版)

オートガス

LPG自動車用の燃料として販売されるLPGは、オートガス: Autogas)と呼ばれる。規格上はブタンプロパンをブタン8:プロパン2の割合で混合したものであるが、プロパンの割合は地域や季節に応じて30 %から99 %の範囲で混合される[2]常温では1 MPa以下の比較的低い圧力で液化[8]体積が250分の1となることからガス燃料としては可搬性に優れる[9]オクタン価ハイオクガソリン(プレミアムガソリン)並み以上の105程度である。

LPG自動車へのガス充填は、オートガススタンド(または「オートガスステーション」「LPガススタンド」など)と呼ばれる、LPG用の充填施設で行われる。2019年時点で世界の81000か所以上に設置されている[10][11]。欧州では国によりばらつきはあるがガソリンスタンドと併設される例も多い[12]。日本国内においては法規の関係上原則としてセルフ式のオートガススタンドは存在しないが、それらが存在する国・地域もある。充填口および充填ノズルの形状は国・地域によって異なる。

日本の場合、ガソリンスタンドと同様に、主にLPG事業者が元売の看板[注 2]を掲げて運営していることが殆どで、タクシーの密集地域を中心に単独で設置している例、ガソリンスタンドに併設されている例もあるが、大半が中間充填所の内部設備の一部としての設置であり、この場合は建物用とタンクを共有している。また、LPG車を使う事業者自身が自家専用のオートガス充填設備を設置することもある。

日本のオートガススタンドは約1330か所[7]。かつては全国で1900か所あったが[13]、LPGハイブリッド車の普及による燃費向上や、LPG自動車自体の減少といった要因によるLPG販売減から、スタンド数の減少が続いており、特に地方部ではタクシーの燃料供給に難をきたす事態も起きている[14]

販売は1 L単位で行われる。価格は国や地域により異なるが、ほとんどの国でガソリン軽油より安価であり、世界で見た平均では軽油価格の55.1%、ガソリン価格の52.1%となっている(2019年[15])。

日本の場合、1 L = 117.2円(2022年9月10日現在、店頭現金価格全国平均[16]) と他国同様ガソリン・軽油に比べて安価である。価格には国税である石油ガス税の9.8円/L(17円50銭/kg)を含むが、ガソリン税の53.8円/Lより低く、また消費税以外の地方税を課している地域はなく、ガソリンよりも割高になるケースはない。

過去の比較では、一例として、2007年11月時点でレギュラーガソリンは145円、軽油は121円であるのに対し、LPGは84.1円である[17]。2010年3月時点ではレギュラーガソリンは131.3円、軽油は110.5円に対し、LPGは85.0円(店頭現金価格)である[17]。天然ガスと比較すると、道路財源(道路特定財源制度)としての燃料課税は無税で、2007年4月の時点における東京地区の天然ガス価格は71.03-84.68円/Nm3となっている[18]

タクシーに乗った際の臭いは、ガス漏れ検知用の臭い成分が燃焼により化学変化を起こしているためだが、最近は自動車排出ガス規制強化で無臭になりつつある。排出ガス規制の強化前の車両であっても燃焼方式の近いガソリン車より排気の臭いは弱い。これは、ガソリン車は燃焼時にエンジンオイルの成分も取り込んで燃焼されるのに対し、LPガス車はこれが混ざらずに燃焼されるためである。


脚注

  1. ^ 本来の意味での燃費(1 Lあたりの距離)は、元々液体であるガソリンと気体を圧縮して液化させたLPガスという違いがあるため単純な比較はできないものの、少なくとも計算上は概ねガソリンに劣る。
  2. ^ なお、ガソリンや軽油の掛け売りカードはカードの種類にもよるが同じ元売の看板であれば契約店以外でも給油できるものもあるのに対し、オートガスの充填カードは使用者と契約のある店舗でしか充填できないが、契約先が複数の場合は同じカードで複数箇所で充填できる、という違いがある。
  3. ^ バイフューエル車を指してハイブリッド車、LPGハイブリッド車と呼ぶケースもある。
  4. ^ a b ガソリンや軽油の場合、バルブがそれらに晒されることで潤滑に寄与する。

出典

  1. ^ LCA評価における各エネルギーのCO2排出原単位” (pdf). 日本LPガス協会. 2014年1月22日閲覧。
  2. ^ a b WLPGA - The Autogas Market”. World LP Gas Association. 2014年1月22日閲覧。
  3. ^ 日本LPガス協会(Japan LP Gas Association):LPガスの概要:LPガスの環境性”. 日本LPガス協会. 2014年1月22日閲覧。
  4. ^ 平成17年度石油ガス販売事業者構造改善調査事業 先進型LPガス自動車でのCO2削減効果と技術可能性調査結果概要” (pdf). エルピーガス振興センター. 2014年1月23日閲覧。
  5. ^ 日本LPガス協会(Japan LP Gas Association):LPガス機器:運輸用:LPG車の性能”. 日本LPガス協会. 2014年1月23日閲覧。
  6. ^ 日本の排出ガス規制経緯 環境省、2021年11月21日閲覧。
  7. ^ a b c d LPG車の歴史と現在”. 日本LPガス団体協議会. 2022年11月4日閲覧。
  8. ^ 日本LPガス協会(Japan LP Gas Association):LPガスの概要:LPガスの性質”. 日本LPガス協会. 2014年1月22日閲覧。
  9. ^ 日本LPガス協会(Japan LP Gas Association):LPガスの特長:可搬性”. 日本LPガス協会. 2014年1月22日閲覧。
  10. ^ The Autogas Market”. autogas.net. World LPG Association. 2022年12月22日閲覧。
  11. ^ AUTOGAS INCENTIVE POLICIES”. autogas.net. World LPG Association. p. 16. 2022年12月22日閲覧。
  12. ^ LPガス自動車普及促進協議会 (2017年5月16日). “欧州のLPガス自動車事情と日本の課題”. 2022年12月22日閲覧。
  13. ^ LPガススタンドの歴史”. 全国LPガス協会. 2022年11月23日閲覧。
  14. ^ 燃費よすぎて困る… LPGスタンド減 どう維持? タクシー燃料入れられない問題”. 乗りものニュース (2020年11月7日). 2022年11月23日閲覧。
  15. ^ AUTOGAS INCENTIVE POLICIES”. autogas.net. World LPG Association. p. 34. 2022年12月22日閲覧。
  16. ^ 一般小売価格 オートガス”. 石油情報センター. 2022年11月23日閲覧。
  17. ^ a b 石油情報センター”. 一般財団法人日本エネルギー経済研究所. 2014年2月5日閲覧。
  18. ^ 東京ガス : プレスリリース / 天然ガス自動車用燃料(CNG:圧縮天然ガス)の価格改定について”. 東京ガス株式会社. 2014年1月22日閲覧。
  19. ^ LPG conversion tanks and multivalves”. LPGTECH Limited. 2014年1月26日閲覧。
  20. ^ よくあるご質問:LPガス自動車(LPG車)について”. 日本LPガス協会. 2014年1月28日閲覧。
  21. ^ LPGタンクの再検査について”. 一般社団法人全国高圧ガス容器検査協会. 2021年9月27日閲覧。
  22. ^ LPG車の生産体制”. LPガス自動車普及促進協議会. 2021年9月27日閲覧。
  23. ^ a b Fuel Systems for LPG and natural Gas Engines”. Traycana inc.. 2014年1月31日閲覧。
  24. ^ 平成18年度石油ガス構造改善調査事業 次世代LPG軽自動車による2200万台軽自動車のCO2削減効果と技術可能性の実証調査概要”. エルピーガス振興センター. 2014年1月31日閲覧。
  25. ^ システム図‐株式会社ニッキ”. 株式会社ニッキ. 2014年2月3日閲覧。
  26. ^ LPG-Liquid-Inject Ltd”. LPG-Liquid-Inject Ltd.. 2014年2月3日閲覧。
  27. ^ EFI型LPガス自動車用容器再検査要領 一般社団法人 全国高圧ガス容器検査協会(全検協) 2020年6月28日閲覧
  28. ^ LPG車の車種”. 日本LPガス団体協議会. 2022年12月23日閲覧。
  29. ^ Vehicle manufacturers”. autogas.net. World LPG Association. 2022年12月22日閲覧。
  30. ^ a b c LPガス自動車での海外規格容器・付属品での安全性実証調査に関する調査結果” (pdf). エルピーガス振興センター. 2014年1月24日閲覧。
  31. ^ ヒュンダイ、グレンジャー に新世代LPガスエンジンを設定”. 株式会社イード. 2014年1月24日閲覧。
  32. ^ ヒュンダイ グレンジャー LPI 発表 ニューストピックス Car@nifty”. ニフティ株式会社. 2014年1月24日閲覧。
  33. ^ [1][リンク切れ]通常はLPGキット汎用品で使われる切替スイッチがSI-DRIVEセレクターの上に専用で設けられる。
  34. ^ 製品紹介”. ハナエンジニアリングジャパン株式会社. 2014年1月23日閲覧。
  35. ^ 記者懇談会プレゼン資料201011_1.2” (pdf). 日本LPガス協会. 2014年1月23日閲覧。
  36. ^ LPG車の構造|LPガス自動車普及促進協議会”. LPガス自動車普及促進協議会. 2014年1月25日閲覧。
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  41. ^ a b c 平成18年度石油ガス販売事業者構造改善調査事業 LPG業界でのLPG車化に向けたディーゼル改造LPGトラックの実現可能性調査結果概要” (pdf). エルピーガス振興センター. 2014年1月27日閲覧。
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  50. ^ LPG車(専焼車)登録台数推移(業態別)”. 東京都LPガススタンド協会. 2022年11月23日閲覧。
  51. ^ 韓国、LPG車の使用制限廃止…きょうからだれでも購入可能に”. 中央日報 (2019年3月26日). 2022年11月23日閲覧。
  52. ^ ロンドンでのLPG車優遇措置[リンク切れ]
  53. ^ [2][リンク切れ]





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