出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/13 02:05 UTC 版)
強制電流と磁化の両方が既知のとき(一般論)
全系の磁束密度
強制電流ifc (forced current)と磁化Mの両方が既知とし、これら以外に磁束密度の原因となるものがないとした場合、
全系の磁束密度Btot
は、強制電流ifcに起因する磁束密度の成分(式(1-2)から求められる)
Bfcと、磁化Mが作り出す磁束密度の成分(式(2-2-8)から求められる)
BMによって、
- Btot=Bfc+BM (3-1-1)
と表される。
ここで、よく注意しておかないといけないことは、「強制電流ifcと磁化Mの両方が既知」という言葉の意味であるが、
仮に、強制電流ifc(や、他の磁化)がない状態での磁化Miniが既知したとして、
(磁化Miniが作り出す磁束密度BMini がどうなるかは(2-2-8)から計算できるが)
- Btot=Bfc+BMini (間違った式)
は、よほど特殊な場合を除き成り立たない。要は間違いである。
式(3-1-1)より正確に書くならば、「外場の影響等により磁化が変化した後の磁化
Mcon
が作り出す磁束密度」
BMconを用いて、
- Btot=Bfc+BMcon (正しい式)
である。結局以下の難所は残ったままである。
- (難所)元々磁化Miniを帯びている物質に、外部から磁束密度を印加したとき、最終的に、物質がどのようなMconを得るか?
この問題が、実のところは難しい。つまり、強制電流が作った磁束密度や、磁化自身が作り出す磁束密度により、物質の磁化が最初の磁化から変化してしまうという問題がある。
一般には。B-H曲線等の実測結果と、上記の拘束条件を考え合わせ、数値計算によって磁束密度や磁化が計算されるのである。但し、線形物質に関して言えば、上の難所は比較的簡単である。このような特殊な物質に関する問題については、次章で述べることにする。
再び式(3-1-1)について考えよう。ベクトル解析の公式から
- (3-1-2a)
- (3-1-2b)
- (3-1-2c)
であることが判る。即ち、磁束保存の式が満たされることが判る。
B=μ0(H+M)について
前節同様に、強制電流ifcと磁化Mの両方が既知とし、これら以外に磁束密度の原因となるものがないとした場合
について考える。式(3-1-1)のBtotに対し、新たな場Htotを、
- (3-2-1)
と定める。式(3-2-1)は、所謂”B=μ0(H+M)”に他ならない。
さらに、強制電流が作る磁束密度は、式(1-2)に
より、(周辺の物質の有無にかかわらず)定まるが、式(1-3)に倣い
「強制電流が作る磁場」を、
- (3-2-2)
によって定め、磁化による磁場HMを式(2-2-10)のように定めると、
式(3-2-1)と式(3-2-2)、式(2-2-10)より、
が得られる。従って、
- (3-2-4)
が得られる。これは、即ち(静磁場の)アンペールの法則である。
式(3-2-4)を示そう。式(2-2-9) 及び以下の式(3-2-5)より、
- rot grad=0 (3-2-5)
に対し、回転微分を作用させると、
- (3-2-6)
が判る。従って、磁化に起因する磁場は、
- (3-2-7)
を満たす。
式(3-2-7)と式(1-5)より、式(3-2-4)が示された。
透磁率の導入
透磁率なる概念を、新たに導入する。
即ち、3次正方行列に値を取る行列値関数(透磁率)を用いて、
- (3-3-1)
と書けるものとする。この透磁率は、磁化の概念の”すり替え”に過ぎない概念である。
尚、通常は、透磁率は、スカラー値関数と考えてよい場合が多いのだが、その場合は、
「対角成分が全部同じ値で、それ以外の成分が0の行列値関数と、スカラー値関数が同一視できる」ことを思い起こせばいい。
さらに、式(3-3-1) で見たような、透磁率(透磁率テンソル)を用いて、
- (3-3-2)
と書き表せ、かつ、μが全点で正則行列(逆行列を持つ)とする。(そう考えても、”あまり”一般性を失わない)逆に言えば、
- (3-3-3)
である。ここで、
- ν:=μ-1 (3-3-4)
は、各点でμの逆行列を与えるような行列値関数である。即ち、
- μ(s) ν(s)=μ(s) μ-1(s)=E3 (3-3-5)
を充たすような行列値関数である。(ここでE3は3次の単位行列)である。
これまでの議論では、電流素片や磁気双極子モーメントが作り出した磁束密度/磁場について論じてきたが、
式(3-1-2),式(3-2-4)より、このようにして作られた全系の磁場が、磁束保存の式と、アンペールの法則を
充たすことが判った。
ここからは、逆に、磁束保存の式(3-3-6)と、アンペールの法則(3-3-7)、即ち、
- (3-3-6a)
- (3-3-6b)
- (3-3-6c)
- (3-3-7)
を出発点とし、全系の磁気ベクトルポテンシャルが充たす微分方程式を導出する。
まず、磁束保存の式 (3-3-6c)は、強制電流に起因する成分 (3-3-6a)、磁化に起因する成分 (3-3-6b)
それぞれについて成り立つため、(ポアンカレの補助定理より)それぞれがベクトルポテンシャルを持ち、
- (3-3-8a)
- (3-3-8b)
をみたすようなベクトル場と、が存在する。
このようなベクトル場と、は、ゲージ不定性を除き一意に定まるが、
本記事では、強制電流に起因する成分は、式(1-1)のものを採用し、
と、磁化に起因する成分式(2-1-5)を採用することにする。
全系のベクトルポテンシャルを、
- (3-3-9)
と定めると、
- (3-3-8c)
が成り立つ。これは、(3-3-6c)の、磁束保存の式をベクトルポテンシャルを用いて書いたものに他ならない。
さらに、式(3-3-8c)に、式 (3-3-2)と、アンペールの法則(3-3-7)を考え併せると、
- (3-3-10)
が得られ、未知のベクトル場BやHが消え、未知のベクトル場はAのみとなる。これを
「ベクトルポテンシャルによる静磁場の方程式」(静磁場の支配方程式)という。
静磁場の境界条件
物質の境界において、式(3-3-6a)、式 (3-3-7)に、ガウスの発散定理や、ケルビンストークスの定理を適用すると、
磁場および磁束密度の境界条件が得られる。
静磁場のエネルギーと停留値関数
前節の前提条件において、
全系の磁気ベクトルポテンシャルは、以下の汎関数Fの停留関数となることが判る。[4][8]
次元解析をすると、式(3-5-1)は、エネルギーの次元を持つことが判るが、実際に、式(3-5-1)は、全系のエネルギーとなっている。
ここで、は、内積を表す。νの定義は、式(3-3-4)に記載のとおりである。
式(3-5-1)が、本当に、「磁気ベクトルポテンシャルの停留汎関数」ことを検証しよう。
Aに対し、微小な摂動δA[注釈 8]
を与えた際の第一変分δF[注釈 8]、即ち、
- δF=F[A+δA]-F[A] (3-5-2)
を求める。
F[A+δA]は、以下の被積分関数を、全空間でsについて積分したものである。
- (3-5-3)
一方、F[A]は、以下の被積分関数を、全空間でsについて積分したものである。
- (3-5-4)
したがって、δFは、以下の(3-5-5)を、全空間でsについて積分したものである。
- (3-5-5)
式(3-5-5)から、二次の微小項を無視すると、Fの第”一”変分
- (3-5-6)
を得る。
式(3-5-6) に、ベクトル解析の公式を適用する。
- (3-5-7)
において
を代入すると、
式(3-5-10)の第一項については、式(3-4-6)と、「真空中ではdiv[H]=0であること」を考え併せると、
結局物質Ω内の効果しか寄与しないことが判る。さらにガウスの発散定理を考慮すると、式(3-5-10)の第一項は、
- (3-5-11)
となる。従って、式(3-5-10)の第一項が、任意の摂動δAに対して0になるためには、ノイマン条件即ち、
- (3-5-12)
が満たされればよい。さらに、式(3-5-10)の第二項が、任意の摂動δAに対して0になるためには、
- (3-5-12)
であればよい。これは、「ベクトルポテンシャルによる静磁場の方程式」(静磁場の支配方程式)に(式(3-3-10))他ならない。以上から、ノイマン条件下での、静磁場の支配方程式の解は、汎関数Fの停留関数となること判る。