長さの収縮 磁力

長さの収縮

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/31 04:49 UTC 版)

磁力

磁力は、電子が原子核に対して相対的に運動しているときの相対論的収縮により生じる。通電線の横を運動する電荷にかかる磁力は、電子と陽子の相対論的運動の結果である[11][12]

1820年、アンドレ=マリ・アンペールは同じ方向の電流が流れる平行電線が互いに引き合うことを示した。電子にとっては、電線がわずかに収縮し反対側の電線の陽子が局所的に「密になる」。反対側の電線の電子も同じように運動しているので、(同じくらい)収縮しない。この結果、電子と陽子の間に見かけ上の局所的な不均衡が生じる。一方の電線で運動している電子は、もう一方の電線の余剰な電子に引き寄せられる。逆も考えられる。静止した電子の基準系に対して、電子は運動し収縮しており、同じ不均衡が生じる。電子のドリフト速度は時速1メートルのオーダーと比較的遅いが、電子と陽子の間の力は非常に大きいため、非常に遅い速度でも相対論的収縮が大きな影響を与える。

この効果は電流のない磁性粒子にも電流を電子スピンに置き換えて適用される[要出典]

実験的検証

観測される物体と共に運動している観測者は、観測者が自身と物体を相対性理論の原理に従い同じ慣性系で静止していると判断する(Trouton–Rankine実験で実証されたように)ため、物体の収縮を測定することはできない。よって長さの収縮は物体の静止系では測定することはできず、観測される物体が運動している系でしか測定できない。さらに、このような共に運動しない系においても長さの収縮を直接実験的に確認することは難しい。なぜなら現在の技術では大部分の物体を相対論的速度に加速することはできないからである。さらに要求される速度で運動する物体は原子粒子だけであるが、その空間的広がりが小さすぎるため収縮を直接測定することができない。

しかし、共に運動しない系で間接的に確認されている。

  • 有名な実験の否定的な結果であり、長さの収縮を導入する必要が出たマイケルソン・モーリーの実験(後にKennedy–Thorndike実験)。特殊相対性理論においては次のような説明になる。その静止系において干渉計は相対性原理にしたがい静止しているとみなすことができるため、光の伝播時間は全方向で同じである。干渉計が動いている系では横方向のビームは動かない系に対してより長い対角線の経路を通らなくてはならず、移動時間は長くなるが、縦方向のビームは順方向と逆方向でそれぞれ時間L/(c-v)とL/(c+v)をとるため、遅延する要因はさらに長くなる。それにより縦方向では否定的な実験結果に従い、両方の移動時間を等しくするために干渉計を収縮させることになる。こうすることで2つの経路での光速は一定となり、干渉計の垂直なアームに沿った往復伝播時間はその運動と向きに依存しない。
  • 地球の基準系で測定した大気の厚さを考えると、ミュー粒子の寿命は非常に短いため光速であっても地表に到達することはできないはずであるが、到達している。地球の基準系からはミュー粒子の時間が時間の遅れにより遅くなることによってのみこれが可能になるが、ミュー粒子の系では大気が収縮して移動時間が短くなることでこの効果が説明される[13]
  • 静止時には球形をしている重イオンは光速に近い速度で運動すると「パンケーキ」や平らな円板の形をしていると推測される。また、実際には粒子衝突から得られる結果は長さの収縮による核子密度の増加を考慮しなければ説明できない[14][15][16]
  • 大きな相対速度を持つ荷電粒子のイオン化の能力は予想より高い。相対論以前の物理学では、運動中のイオン化粒子が他の原子や分子の電子と相互作用できる時間が短くなるため、速い速度ではこの能力は下がるはずである。しかし、相対論においては予想より大きいイオン化の能力は、イオン化粒子が運動している系のクーロン場の長さが収縮し、運動線に対して垂直な方向の電場強度が増加することにより説明される[13][17]
  • シンクロトロン自由電子レーザーでは、アンジュレータに相対論的電子を注入することでシンクロトロン放射を発生させている。電子の固有の系では、アンジュレータが収縮し、放射周波数が増加する。さらに、実験室系で測定される周波数を知るには、相対論的ドップラー効果を適用する必要がある。そのため、長さの収縮と相対論的ドップラー効果の助けを借りてのみ、アンジュレータ放射の極めて短い波長を説明することができる[18][19]

長さの収縮の実際

アインシュタインが1911年に行った長さの収縮の思考実験のミンコフスキーダイアグラム。静止長の2つの棒が0.6cで反対方向に移動している。結果としてとなる。

1911年、Vladimir Varićakは、ローレンツによると客観的な方法で長さの収縮を見るが、アインシュタインによると、「われわれの時計制御と長さの測定による生じる唯一の明白な主観的な現象」であると主張した[20][21]。アインシュタインは反証を発表した。

この著者は物理的事実に関するローレンツの考えと私の考えの違いを不当に述べている。長さの収縮が本当に存在するかどうかという疑問は誤解を招く。ともに運動している観測者にとっては存在しない限り「実際に」存在しないが、ともに運動していない観測者による物理的手段により原理的に実証されるような方法では「実際に」存在する[22]
Albert Einstein, 1911

また、アインシュタインはその論文で長さの収縮は単に時計の制御と長さの測定が行われる方法に関する任意の定義の産物ではないと主張した。次のような思考実験を提示した。同じ固有長を持つ2本の棒の端点をA'B'とA"B"とし、それぞれx'とx"と測定する。この2本を静止しているとみなされるx*軸に沿って、これに対して同じ速度で反対方向に動かす。すると、端点A'A"は点A*で重なり、B'B"は点B*で重なる。アインシュタインはA*B*の長さがA'B'やA"B"よりも短いことを指摘したが、これはその軸に対して静止した棒を1本持ってくることにより証明することができる[22]


  1. ^ Dalarsson, Mirjana; Dalarsson, Nils (2015). Tensors, Relativity, and Cosmology (2nd ed.). Academic Press. p. 106–108. ISBN 978-0-12-803401-9. https://books.google.com/books?id=KZOZBgAAQBAJ  Extract of page 106
  2. ^ FitzGerald, George Francis (1889), “The Ether and the Earth's Atmosphere”, Science 13 (328): 390, Bibcode1889Sci....13..390F, doi:10.1126/science.ns-13.328.390, PMID 17819387, https://zenodo.org/record/1448315 
  3. ^ Lorentz, Hendrik Antoon (1892), “The Relative Motion of the Earth and the Aether”, Zittingsverlag Akad. V. Wet. 1: 74–79 
  4. ^ a b Pais, Abraham (1982), Subtle is the Lord: The Science and the Life of Albert Einstein, New York: Oxford University Press, ISBN 0-19-520438-7 
  5. ^ Einstein, Albert (1905a), “Zur Elektrodynamik bewegter Körper”, Annalen der Physik 322 (10): 891–921, Bibcode1905AnP...322..891E, doi:10.1002/andp.19053221004, http://www.physik.uni-augsburg.de/annalen/history/einstein-papers/1905_17_891-921.pdf . See also: English translation.
  6. ^ Minkowski, Hermann (1909), “Raum und Zeit”, Physikalische Zeitschrift 10: 75–88 
  7. ^ a b c Born, Max (1964), Einstein's Theory of Relativity, Dover Publications, ISBN 0-486-60769-0, https://archive.org/details/einsteinstheoryo0000born 
  8. ^ Edwin F. Taylor; John Archibald Wheeler (1992). Spacetime Physics: Introduction to Special Relativity. New York: W. H. Freeman. ISBN 0-7167-2327-1. https://archive.org/details/spacetimephysics00edwi_0 
  9. ^ Albert Shadowitz (1988). Special relativity (Reprint of 1968 ed.). Courier Dover Publications. pp. 20–22. ISBN 0-486-65743-4. https://archive.org/details/specialrelativit0000shad 
  10. ^ Leo Sartori (1996). Understanding Relativity: a simplified approach to Einstein's theories. University of California Press. pp. 151ff. ISBN 0-520-20029-2 
  11. ^ Feynman, Richard P.; Leighton, Robert B.; Sands, Matthew (2013-01-01). he Feynman Lectures on Physics, Desktop Edition Volume II: The New Millennium Edition (illustrated ed.). Basic Books. p. 13–6. ISBN 978-0-465-07998-8. https://books.google.com/books?id=uaQfAQAAQBAJ  Extract of page 13-6
  12. ^ E M Lifshitz, L D Landau (1980). The classical theory of ields. Course of Theoretical Physics. Vol. 2 (Fourth ed.). Oxford UK: Butterworth-Heinemann. ISBN 0-7506-2768-9. http://worldcat.org/isbn/0750627689 
  13. ^ a b Sexl, Roman; Schmidt, Herbert K. (1979), Raum-Zeit-Relativität, Braunschweig: Vieweg, ISBN 3-528-17236-3 
  14. ^ Brookhaven National Laboratory. “The Physics of RHIC”. 2013年1月1日閲覧。
  15. ^ Manuel Calderon de la Barca Sanchez. “Relativistic heavy ion collisions”. 2013年1月1日閲覧。
  16. ^ Hands, Simon (2001). “The phase diagram of QCD”. Contemporary Physics 42 (4): 209–225. arXiv:physics/0105022. Bibcode2001ConPh..42..209H. doi:10.1080/00107510110063843. 
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  18. ^ DESY photon science. “What is SR, how is it generated and what are its properties?”. 2016年6月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年1月1日閲覧。
  19. ^ DESY photon science. “FLASH The Free-Electron Laser in Hamburg (PDF 7,8 MB)”. 2013年1月1日閲覧。
  20. ^ [1]
  21. ^ Miller, A.I. (1981), “Varičak and Einstein”, Albert Einstein's special theory of relativity. Emergence (1905) and early interpretation (1905–1911), Reading: Addison–Wesley, pp. 249–253, ISBN 0-201-04679-2, https://archive.org/details/alberteinsteinss0000mill/page/249 
  22. ^ a b Einstein, Albert (1911). “Zum Ehrenfestschen Paradoxon. Eine Bemerkung zu V. Variĉaks Aufsatz”. Physikalische Zeitschrift 12: 509–510. ; Original: Der Verfasser hat mit Unrecht einen Unterschied der Lorentzschen Auffassung von der meinigen mit Bezug auf die physikalischen Tatsachen statuiert. Die Frage, ob die Lorentz-Verkürzung wirklich besteht oder nicht, ist irreführend. Sie besteht nämlich nicht "wirklich", insofern sie für einen mitbewegten Beobachter nicht existiert; sie besteht aber "wirklich", d. h. in solcher Weise, daß sie prinzipiell durch physikalische Mittel nachgewiesen werden könnte, für einen nicht mitbewegten Beobachter.
  23. ^ Kraus, U. (2000). “Brightness and color of rapidly moving objects: The visual appearance of a large sphere revisited”. American Journal of Physics 68 (1): 56–60. Bibcode2000AmJPh..68...56K. doi:10.1119/1.19373. http://www.tempolimit-lichtgeschwindigkeit.de/sphere/sphere.pdf. 
  24. ^ Weisskopf, Victor F. (1960). “The visual appearance of rapidly moving objects”. Physics Today 13 (9): 24–27. doi:10.1063/1.3057105. https://semanticscholar.org/paper/43697c6c0f27695068e4d017a1f0f9a6878a2bda. 
  25. ^ Penrose, Roger (2005). The Road to Reality. London: Vintage Books. pp. 430–431. ISBN 978-0-09-944068-0 
  26. ^ Can You See the Lorentz-Fitzgerald Contraction? Or: Penrose-Terrell Rotation
  27. ^ Bernard Schutz (2009). “Lorentz contraction”. A First Course in General Relativity. Cambridge University Press. p. 18. ISBN 978-0521887052. https://books.google.com/books?id=V1CGLi58W7wC&pg=PA18&dq=%22lorentz+contraction%22 
  28. ^ David Halliday, Robert Resnick, Jearl Walker (2010), Fundamentals of Physics, Chapters 33-37, John Wiley & Son, pp. 1032f, ISBN 978-0470547946 





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