破局噴火
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/10 08:56 UTC 版)
語源
「破局噴火」という言葉は、もともと石黒耀が2002年に発表した小説『死都日本』のために考案した用語である。作中の設定では、南九州の加久藤カルデラが約30万年ぶりの超巨大噴火を起こし、火山噴火予知連絡会はこれを「じょうご型カルデラ火山の破局“的”噴火」と発表したが[2]、NHKの臨時報道番組のキャスターが「破局噴火」と間違えて連呼したことにより[3]、日本国内のみならず海外においても「近代国家が破滅する規模の爆発的巨大噴火」をHakyokuhunkaと呼ぶようになった[4]と設定されている。
『死都日本』は現実の火山学者からも超巨大噴火をリアリティーを持って描いた作品と高く評価され、「破局噴火」は作中用語という枠を越えて、実際に起きた(そして将来起きるであろう)そのような大噴火を表す言葉として一部の火山学者やマスコミ報道で使われるようになった[5]。ただし小説中と違って、国際的あるいは学術的な用語としてHakyokuhunkaが通用するには至っておらず、日本でのみ使用される用語である。英語では類似する用語として「Supervolcano」が該当する。
定義
2015年現在、世界的な統一された定義は無いとされている[6]。
メカニズム
地下数kmにあるマグマ溜まりのマグマには地圧によって様々なガスが溶け込んでいる。特に珪長質マグマにはその傾向が強い。なんらかの原因によってマグマが急に減圧されるとマグマは発泡し大量のガスを噴出し、マグマ溜まり自体が爆発して地殻表層部を吹き飛ばす大噴火となる。
通常の噴火と異なり、噴火の破壊力は壊滅的な威力となり、火砕流も放射状360度の方向に流走し広大な面積を覆う。半径数十kmの範囲で生物が死滅するばかりでなく、大量の噴出物が成層圏界面(高度約50 km)やその上の中間圏にまで達する結果[7]、地球の気温が下がったり、種族の絶滅の原因になることもある。爆発の後は、地表は大きく陥没しカルデラが形成される[8]。
破局噴火を起こすマグマ溜まりは扁平な形で存在することが多く、噴火せずに地下で固結した珪長質火成岩体の形状が扁平であるという最近の地質学的知見も、それを裏付けている[9][10]。
第四紀を通じてこのような噴火は九州や北海道をはじめ本州でも何度も起こってきた。姶良カルデラ(錦江湾北部)、阿蘇カルデラ、摩周カルデラ、鬼界カルデラ、十和田カルデラなどがその例である。とりわけ阿蘇カルデラは過去四回にわたって巨大噴火を起こしている。
通常の噴火との比較
火山噴火の規模を表す火山爆発指数(VEI)は、噴出物(テフラなど)の量によって決定され、破局噴火はVEIは7から最大の8に相当する。例えば1990年から1995年にかけて噴火した雲仙普賢岳では、火砕流1回あたりのマグマ噴出量としては10 - 1000m3(VEI=0)、5年余りに渡る活動期間中の噴出物の総量では0.2 km3(VEI=4)程度、また20世紀最大の火山噴火とされる1991年のピナトゥボ山噴火はVEI=6であったが、北米のラ・ガリータ・カルデラ[11]、サンフアン火山地域、イエローストーンなどでは1,000 km3の規模となり、火砕流の規模だけでも雲仙普賢岳の1000万倍程度となる。このように破局噴火は火砕流堆積物に代表される噴出するマグマの量が途方も無く多いのが特徴である。
- ^ 例えば、トバ湖の噴火と同時期にヒトDNAの多様性が著しく減少する「ボトルネック(遺伝子多様性減少)」が見られることから、この噴火で当時の人類の大半が死滅したという説もあるくらいである(トバ・カタストロフ理論)
- ^ 『死都日本』文庫版275p
- ^ 『死都日本』文庫版 421, 431p
- ^ 『死都日本』文庫版 490 - 491p
- ^ 現代社会は破局災害とどう向き合えばよいのか 小山真人(静岡大学教育学部総合科学教室) 『月刊地球』2003年11月号掲載
- ^ a b c 高橋正樹(2012)、超巨大噴火と「火山の冬」 エアロゾル研究 Vol.27(2012) No.3 秋 p.278 - 283
- ^ 実際にピナトゥボ山の火山噴出物は中間圏に達している。大気のてっぺんの名前は?(名古屋大学太陽地球環境研究所) (PDF)
- ^ 「総特集:大規模カルデラ噴火-そのリスクと日本社会」海洋出版(株)発行、『月刊地球』2003年11月号
- ^ 「死都日本」シンポジウム―破局噴火のリスクと日本社会―講演要旨集
- ^ 藤田 崇(大阪工業大学名誉教授)「深成岩の特性とその見方」 社団法人斜面防災対策技術協会
- ^ ラガリータ・カルデラで、2800万年前の噴火が起きた際には5000 km3ものマグマの噴出があった。「いつか必ず発生する「超巨大噴火」」『ニュートン』2010年11月号(2010年9月25日発売)
- ^ 高橋正樹『破局噴火-秒読みに入った人類壊滅の日』祥伝社(2008年9月26日)ISBN 9784396111267
- ^ Shimizu, et al. (2024). “Submarine pyroclastic deposits from 7.3 ka caldera-forming Kikai-Akahoya eruption”. Journal of Volcanology and Geothermal Research (108017). doi:10.1016/j.jvolgeores.2024.108017.
- ^ a b Shinji Takarada; Hideo Hoshizumi (2020). “Distribution and Eruptive Volume of Aso-4 Pyroclastic Density Current and Tephra Fall Deposits, Japan: A M8 Super-Eruption”. Frontiers in Earth Science. doi:10.3389/feart.2020.00170.
- ^ a b c “平成31年度原子力規制庁委託成果報告書 巨大噴火プロセス等の知見整備に係る研究(1)”. nsr.go.jp. 原子力規制委員会 (2019年). 2020年12月8日閲覧。
- ^ 町田洋『日本人 はるかな旅(2) 歴史を変えた火山の大噴火.巨大噴火に消えた黒潮の民』2001年 NHKスペシャル「日本人」プロジェクト編、NHK出版、p161 - 184
- ^ 便宜上、領土問題が発生している地域は実効支配しているしている国側で扱う
- ^ VOGRIPA -Search. 2019年11月18日閲覧。
- ^ 「超巨大火山 イエローストーン」『ナショナルジオグラフィック』2009年8月号
- ^ “映画『2012』の大災難は現実となるか スーパー火山が噴火周期に”. 大紀元 (2010年8月23日). 2012年9月10日閲覧。
- ^ “巨大噴火:100年で1% 神戸大チーム、発生確率を解析”. (2014年10月22日) 2014年10月23日閲覧。
- ^ “巨大噴火「予知困難」=火山学者、審査疑問視-160キロ圏カルデラ五つ・川内原発”. 時事通信. (2014年7月16日) 2014年10月23日閲覧。
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