気温減率 気温減率の概要

気温減率

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/18 15:50 UTC 版)

ここで「減率」とは、高度が上がるにつれて「気温が下がる割合」(高度がいくら上がると気温が何度下がる)という意味であり、単純な気温の「変化率」(高度がいくら上がると気温が何度変わる)とは符号が逆になる。

地球大気に対して使われることが最も多い用語であるが、この概念は重力によって支えられている球形の気体であれば、どのようなものにでも適用できる。

定義

『気象科学事典』[1]によれば、気温減率の定義は次のようなものである。

  • 高度と共に気温が低くなる割合。

この用語は、

  1. 空気塊を上昇させたときの、その空気塊の温度が高度上昇とともに低くなる割合
  2. 現にある大気環境の、鉛直方向の気温の勾配

の2つの意味になりうる。単に気温減率という場合、2. の意味であることが多いが、読解には注意が必要である。

数式による定義

一般的に、気温減率は高度の変化に伴って起こる気温の変化に負の記号を付けたものとして、次の式で定義される:

エマグラム。気温と気圧に対して、乾燥断熱減率(実線)と湿潤断熱減率(破線)が示されている。

乾燥断熱減率は、乾燥している(つまり未飽和の)空気塊が断熱的に高度が上昇したとき、高度の上昇につれてその空気塊の気温が下がる割合である。

なお、空気が未飽和であるとは、

その空気塊の相対湿度が 100% よりも低い

あるいは

その空気塊の実際の気温がその空気塊の露点よりも高い

ということを意味する。

また、断熱とは、その空気塊は周囲と熱のやりとりを全くしない、ということである。空気の熱伝導率は小さく、また空気塊の体積はとても大きいので、熱伝導による熱のやりとりは無視できるほどに小さい。

さて、空気塊が(例えば対流などによって)上昇する場合、高度の高い場所ほど気圧は低いため、上昇した空気塊は膨張する。空気塊が膨張するとき、空気塊はその周辺にある空気を押して、仕事をする。空気塊は仕事をした一方で、周囲から熱をもらってはいないため、内部エネルギーを失う。したがって空気塊の気温は下がる。この場合の気温減率は9.8 ℃/1,000 mである(空気が下降する場合は、逆のことが起こって昇温する)[5]

熱力学では、外部から与えられる熱量変化量を⊿Q、仕事量を⊿W、内部エネルギー変化量を⊿uとすると、⊿Q=⊿W+⊿uと表現できる(熱力学第一法則)。断熱変化の場合、⊿Q=0なので、⊿W+⊿u=0、すなわち膨張によって仕事をした分の⊿Wは内部エネルギーの⊿uで補われる。

理想気体について、断熱過程における気温 T と気圧 p を関連付ける式は次のとおりである[6]

ここで 比熱比(空気の場合、=7/5)、z は高度である。

気圧と気温を関連付ける二つ目の関係式は静水圧平衡の式である[7]

ここで、 g標準重力加速度R気体定数mモル質量である。

これら二つの方程式を使って p を消去すると、乾燥断熱減率が求められる[8]

.

湿潤断熱減率

空気塊が上昇する過程で、その気温が露点に等しくなるまで下がり、その空気塊が飽和に達すると、それ以降は湿潤断熱減率が適用される。湿潤断熱減率は気温によって大きく異なるが、典型的な値としては約5 °C/km (1.51 °C/1,000 ft) である。

乾燥断熱減率と湿潤断熱減率が異なるのは、湿潤断熱過程では上昇して空気が冷えるにつれて水が凝結する際に潜熱が放出されるからである。潜熱の放出により、高度が上がるにつれて気温が下がる割合は湿潤断熱減率の方が小さくなるのである。また、潜熱の放出は雷雨を発生させる雲の発達にとって重要なエネルギー源となっている。

ある気温・高度・混合比の未飽和の空気塊が上昇するとき、高度が上昇するにつれて乾燥断熱減率で気温が下がっていく。一方、空気塊の混合比は、その空気塊が未飽和である限り一定の値に保たれる。エマグラム上で、空気塊の混合比の線と気温の線が交わったら、そこで空気中の水蒸気が凝結をはじめる。それ以降も更に高度が上昇する場合は、湿潤断熱減率で気温が下がっていくことになり、それまでの乾燥断熱減率よりはゆるやかに気温が下がっていく。

湿潤断熱減率は近似的に次の式で与えられる[9]:

where:
= 湿潤断熱減率, K/m
= 地球の標準重力加速度 = 9.8076 m/s2
= 水の気化熱, J/kg
= 乾燥空気の質量に対する水蒸気の質量の比, kg/kg
= 気体定数 = 8,314 J kmol-1 K-1
= ある気体のモル質量, kg/kmol。乾燥空気の場合28.964、水蒸気の場合18.015。
= ある気体の気体定数。と表記する
= 乾燥空気の気体定数 = 287 J kg-1 K-1
= 水蒸気の気体定数 = 462 J kg-1 K-1
= 乾燥空気の気体定数と水蒸気の気体定数の比(無次元量) = 0.6220
= 飽和した空気の気温, K
= 乾燥空気の定圧比熱, J kg-1 K-1

  1. ^ 日本気象学会 『気象科学事典』東京書籍、1993年。ISBN 4-487-73137-2 
  2. ^ Salomons, Erik M. (2001). Computational Atmospheric Acoustics (1st ed.). Kluwer Academic Publishers. ISBN 1-4020-0390-0 
  3. ^ Stull, Roland B. (2001). An Introduction to Boundary Layer Meteorology (1st ed.). Kluwer Academic Publishers. ISBN 90-277-2769-4 
  4. ^ Adiabatic Lapse Rate, IUPAC Goldbook
  5. ^ Danielson, Levin, and Abrams, Meteorology, McGraw Hill, 2003
  6. ^ Landau and Lifshitz, Statistical Physics Part 1, Pergamon, 1980
  7. ^ Landau and Lifshitz, Fluid Mechanics, Pergamon, 1979
  8. ^ Kittel and Kroemer, Thermal Physics, Freeman, 1980; chapter 6, problem 11
  9. ^ アメリカ気象学会用語集 Glossary of Meterology
  10. ^ 筑波大学プレスリリース(2021/5/17 )


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