核抑止 拡大抑止

核抑止

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/11 08:19 UTC 版)

拡大抑止

自国に対する武力攻撃の抑止を「基本抑止(英: basic deterrence)」といい、同盟国に対する武力攻撃の抑止を「拡大抑止(英: extended deterrence)」という[9]。拡大抑止の中で通常戦力を用いたものを「拡大通常抑止(英: extended conventional deterrence)」、核戦力を用いたものを「拡大核抑止(英: extended nuclear deterrence)」または「核の傘(英: nuclear umbrella)」という[10]。拡大核抑止は、アメリカまたはロシア(1991年以前はソ連)が、同盟国に対する第三国からの武力攻撃には報復核攻撃を行うという威嚇によって、第三国の武力攻撃の意図を挫折させる試みであり、冷戦が終わった現在でも存在している。

拡大抑止の信頼性への疑問

一般に基本抑止に比べ、拡大抑止には信憑性が伴いにくいとされ[要出典]、信頼性の論議は米ソ冷戦時代から存在する[11]。冷戦時代に米ソ両国から「報復をしない」という言質を取れる国家は存在しなかった。アメリカ政府は公式には同盟国への拡大抑止を一度も否定したことは無く、今後も拡大抑止を維持することを再三明言している[要出典]。しかし、それは同盟国や仮想敵国に対する外交戦略としての政治的アピールであるとされる[要出典]。特に拡大核抑止の場合、もし同盟国が核攻撃を受けた際に、アメリカが自国の損害と全面戦争の危険性を覚悟して、実際に報復核攻撃を選択するのかについて「ニューヨークを犠牲にしてパリを守るのか」[9]と実効性に疑問がしばしば提起される[12]

湾岸戦争においてパトリオットミサイルが政治的に大きな効果を上げ、アメリカがそれ以来ミサイル防衛に熱心なことも「アメリカは報復義務を怠り、その代わりパトリオットミサイル派遣で済ますつもりではないか?」という疑念を増幅させている[要出典]

  • アメリカの核の傘に対する否定的な考えは、アメリカの政治家や学者からも出ている[13][誰?]。アメリカの核の傘への否定意見の根拠は、直接アメリカ政府高官にインタビューした経験や、意見交換した経緯などを基にしている[要出典]
  • アメリカ国務長官ヘンリー・キッシンジャーは「超大国は同盟国に対する核の傘を保証するため自殺行為をするわけはない」と語った[要出典]
  • CIA長官を務めたスタンスフィールド・ターナー[14]は「もしロシアが日本に核ミサイルを撃ち込んでも、アメリカがロシアに対して核攻撃をかけるはずがない」と断言した[要出典]
  • 元国務次官補のカール・フォードは「自主的な核抑止力を持たない日本は、もし有事の際、米軍と共に行動していてもニュークリア・ブラックメール(核による脅迫)をかけられた途端、降伏または大幅な譲歩の末停戦に応じなければならない」といった[要出典]
  • 以下のアメリカの要人が、アメリカの核の傘を否定する発言をしている[要出典]
  • 核報復を想定してもなお自国の被害を顧みない独裁者が存在することも想定される。
  • 1970年代、欧州においてアメリカの拡大抑止の信頼性に対する論争があった。1972年、ソ連は中距離弾道ミサイルSS-20を配備し、これは欧州にとって脅威となった。アメリカが「欧州が核攻撃されても、ソ連に対し復核報攻撃を行う」と説得したものの、欧州諸国はこれまでより強い核のプレゼンスと、同等の中距離弾道ミサイルを欧州に配備するよう求め、パーシングIIが欧州各国に配備され[11]、米国は拡大核抑止の信頼性を上げようとした[15]
  • 2016年に行われたアメリカ国家安全保障会議の机上演習において、ロシアがバルト三国への侵攻で核兵器を使用した場合、1度目の演習では通常戦力で報復を行い、2度目の演習ではロシアの同盟国であるベラルーシに核攻撃を行ったとされ、非核戦力での報復も実際に選択された[16]

これに対し、アメリカによる「核の傘」の提供は、アメリカを盟主とする一大同盟の存続理由でもあり、たとえニューヨークが消えようがワシントンが吹き飛ばされようが、アメリカが「核の傘」を提供すると明言した以上、報復核攻撃は行われるとする説もある[要出典]。なぜならば、アメリカが報復核攻撃を行わなかった場合には、アメリカの国際社会における権威が失墜し、アメリカを盟主とする同盟が事実上解体の危機に晒されるなど、アメリカの政治的利益の損失が甚大だからである。言い換えれば、同盟国に対する核攻撃はアメリカの国際社会における覇権に対する挑戦であるので、アメリカは同国の利益のために報復核攻撃を行うであろうとする説である。しかし、このような覇権維持のための軍事報復は核兵器によらずとも可能であり、核による直接報復の必要性は無いとも言える[要出典]


  1. ^ 後瀉 2015, pp. 37–38.
  2. ^ スコット・セーガン、ケネス・ウォルツ 著、川上高司、斎藤剛 訳『核兵器の拡散:終わりなき論争』勁草書房、2017年5月20日、30頁。ISBN 4326302577 
  3. ^ 阿久津博康. “日本への核攻撃の可能性を考える:「核の三正面」時代のシミュレーションの観点より”. 秋山アソシエイツ 安全保障・外交政策研究会. 2023年9月7日閲覧。
  4. ^ 秋山、高橋 2019, p. 85、神保 謙.
  5. ^ “「戦略的に核兵器を発展させる」と豪語する中国紙 ネットユーザーは冷ややか”. ロイタ―. (2018年7月25日). https://jp.reuters.com/article/idJP00093300_20180725_00920180725 
  6. ^ “台湾は核心的利益の核心、中国国防相が米国防長官に伝達”. ロイタ―. (2022年11月22日). https://jp.reuters.com/article/asean-defence-china-idJPKBN2SC0ET 
  7. ^ "Foreign Ministry Spokesperson's Statement on Tsai Ing-wen's "Transit" Through the United States" (Press release). The Consulate General of The People's Republic of China in Los Angeles. 5 April 2023. 2023年9月7日閲覧
  8. ^ a b c 高井三郎著 『日本の自前核兵器整備の徹底研究』 軍事研究2007年7月号 p.10-p.52
  9. ^ a b 小川 2016, p. 28.
  10. ^ 小川 2016, pp. 28–29.
  11. ^ a b 中西輝政編著『「日本核武装」の論点』参考
  12. ^ 高橋浩祐 (2022年11月21日). “「米国の核の傘は日本を果たして守るのか」河野前統合幕僚長が問題提起 冷静な国民的議論の必要性強調”. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/58b214a03e4568c158b3b70b378ba5f32a751fc4 2023年9月6日閲覧。 
  13. ^ 伊藤貫著『中国の「核」が世界を制す』参考
  14. ^ 英語版:Stansfield Turner。元海軍大将。
  15. ^ 山下愛仁「スナイダーの抑止理論と冷戦期NATOの抑止戦略」『エア・パワー研究』第6巻、航空自衛隊幹部学校、2019年、74-75頁、ISSN 2188790X 
  16. ^ 太田清 (2022年5月2日). “ロシアが核攻撃に踏み切ったらアメリカはどこに報復するか?米政権内で行われていた机上演習の衝撃的な中身”. ノアドット株式会社. 2022年5月7日閲覧。
  17. ^ フランスの核抑止力政策
  18. ^ 防衛省防衛研究所主任研究官へのインタビュー記事
  19. ^ 福田恵介 (2023年4月20日). “核兵器しか選択肢にない北朝鮮という危険な存在”. 東洋経済オンライン. p. 1. 2023年4月20日閲覧。
  20. ^ a b 福田恵介 (2023年4月20日). “核兵器しか選択肢にない北朝鮮という危険な存在”. 東洋経済オンライン. p. 2. 2023年4月20日閲覧。
  21. ^ 北朝鮮軍参謀部、核保有国間の「核軍縮」を主張 聯合ニュース 2009/02/02






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