悪魔の詩訳者殺人事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/30 18:36 UTC 版)
犯人と動機
刺殺後、イスラーム新聞サラームは、イスラーム教徒にとって朗報とのコメントを掲載しており、シーア派イスラーム教徒によって殺害されたという見方が一般的となっている[4]。CIAの元職員ケネス・ポラックは、イスラム革命防衛隊の対外工作・テロ活動などを行う特殊部隊「ゴドス軍」による犯行を示唆している[6]。目撃されやすいエレベーターホールで襲撃したのも見せしめのためと判断した。
また、『週刊文春』1998年4月30日号は「『悪魔の詩』五十嵐助教授殺人に『容疑者』浮上」との記事を掲載。同誌が入手した「治安当局が『容疑者』を特定していた極秘報告書」によると、事件当時、東京入国管理局は筑波大学に短期留学していたバングラデシュ人学生を容疑者としてマークしていたという。この学生は五十嵐の遺体発見当日の昼過ぎに成田から帰国しているが、イスラーム諸国との関係悪化を恐れる日本政府の意向により、捜査は打ち切られたとしている[3][7]。
捜査中、学内の五十嵐の机の引き出しから、殺害前数週間以内と思われる時期に書いたメモが発見された。これには壇ノ浦の戦いに関する四行詩が日本語およびフランス語で書かれていたが、4行目の「壇ノ浦で殺される」という日本語の段落に対し、フランス語で「階段の裏で殺される」と書かれていた。このため、五十嵐は自身に身の危険が迫っていた事を察知していたのではないかとする憶測が生まれた。
一方、五十嵐の「『悪魔の詩』は文学的価値が素晴らしいので翻訳する」という説明がイスラーム世界に通用しなかった点、在日パキスタン人協会の長[8]からの死刑宣告を単なる脅しと理解してしまった可能性がある点、警察の保護を断った点など、五十嵐自身の甘さも指摘される[4]。
- ^ “「悪魔の詩」を訳し惨殺された大学助教授、自分の死を予言?意外な犯人の噂【未解決事件ファイル】newspaper=エキサイトニュース”. (2019年6月1日) 2020年7月10日閲覧。
- ^ 立花書房編『新 警備用語辞典』立花書房、2009年、14-15頁。
- ^ a b c d “迷宮入りの「悪魔の詩」訳者殺人、問題にされた2つのポイント【平成の怪事件簿】”. デイリー新潮 (2019年4月29日). 2019年9月29日閲覧。
- ^ a b c 長島平洋「諷刺の笑いとその応答 : 不敬罪を軸にII」『笑い学研究』第18巻、日本笑い学会、2011年、3-13頁、doi:10.18991/warai.18.0_3。
- ^ 2020年(令和2年)3月2日に、つくば北警察署と統合し、つくば警察署となっている。
- ^ 『ザ・パージァン・パズル』小学館、2006年
- ^ 麻生幾「「悪魔の詩」殺人 国家が封印した暗殺犯」『文藝春秋』2010年10月号
- ^ 悪魔の詩出版記者会見襲撃事件を起こしたパキスタン人の男性は、五十嵐事件の前年に既に強制送還されている。
固有名詞の分類
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