心臓カテーテル検査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/11 19:23 UTC 版)
血行動態検査
圧力
CVP(中心静脈圧)
- 正常値は5~10cmH2O(4~8mmHg)である。起座位における測定では右房の高さをもって測定する。中心静脈圧は右房圧(RAP)、胸腔内代静脈圧に等しいとされている。三尖弁狭窄症などがない限り、右室拡張末期圧(RVEDP)にも等しいとされている。CVPが上昇する病態としては循環血液量の増加、右心不全、心タンポナーデでありCVPが減少する病態としては循環血液量の減少、大量出血や熱傷などがあげられる。中心静脈カテーテルからの測定が可能なため、病棟では重宝する。
RAP(右房圧)
- 平均圧は2~8mmHgである。
RVP(右室圧)
- 15~30/2~8mmHgが正常である。
PAP(肺動脈圧)
- 15~30/3~12mmHgである。目安としては大動脈圧の20%~25%である。
PCWP(肺動脈楔入圧 はいどうみゃくせつにゅうあつ)
- 左房圧を反映するといわれている。僧帽弁狭窄症などがない限り左室拡張末期圧(LVEDP)に等しいとされている。平均圧は正常では2~15mmHgである。PCWPが増加する病態としては左房への流入血液量が増加する病態、具体的には僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症、動脈管開存症などがあげられる。左室の収縮力低下でも増加し、左心不全、拡張型心筋症、虚血性心疾患などもあげられる。限界があるもののPCWPは心臓の前負荷の指標の一つである。PCWPの平均圧が22mmHgを超えると肺水腫が出現し始めるといわれている。PCWPが減少する病態としては循環血流の低下があり、大量出血や熱傷などがあげられる。
LAP(左房圧)
- 平均圧で2~12mmHgが通常である。PCWPで代用することが多い。
LVP(左室圧)
- 100~140/2~12mmHgが正常である。
AP(大動脈圧)
- 100~140/60~90mmHgであり平均大動脈圧は70~105mmHgである。
LVEDP(左室拡張末期圧)
- 前負荷の指標の一つである。本来の前負荷の指標はLVEDV(左室拡張末期容積)であるが、測定が難しいためLVEDPで代用することが多い。正常な循環器であればLVEDPとPCWPとCVPは等しくなる。そのためCVPを用いた体液管理が良くされるのだが左心機能が低下するとCVPとLVEDPの乖離が大きくなる。そのためPCWPを用いてLVEDPを推定することが肺動脈カテーテルを用いる根拠の一つとなる。
圧較差
収縮期、拡張期の圧較差
- 収縮期では通常では動脈弁の前後で圧較差は存在しない。圧較差がある場合は大動脈弁狭窄症や肺動脈弁狭窄症が考えられる。拡張期では房室弁の前後で圧較差は存在しない。圧較差が存在する場合は僧帽弁狭窄症や三尖弁狭窄症が考えられる。閉塞性肥大型心筋症では心尖部と左室流出路関で圧較差がある。
左室・右室の圧較差
- RVP=LVPとなるのは病気であるときである。具体的にはファロー四徴症や大血管転位症の一部などでは大きな心室中隔欠損症があり起こりえる。また総動脈幹症でも起こりえる。RVP≧LVPとなるのはさらに重篤な疾患であり、肺動脈狭窄症やアイゼンメンゲル症候群である。心不全では左心不全はPCWP、LVEDPが反映し、右心不全はCVPが反映すると考えられている。
SaO2のstep up
動脈血が存在する左心系では通常はSaO2は95%以上でありPaCO2は40mmHg 程度である。静脈血が存在する右心系ではSaO2は75%程度でありPaCO2は45mmHg 程度である。左→右シャントが存在すると、右心系で急激なSaO2の増加がみられSaO2のstep upといわれている。
step upの高値 | 有意なstep up値の目安 | 代表的疾患 |
---|---|---|
右房レベル | 10%以上 | 心房中隔欠損症、心内膜床欠損症、バルサルバ洞動脈瘤破裂 |
肺動脈レベル | 5%以上 | 肺動脈管開存症、AP window、冠動脈肺動脈瘻 |
右室レベル | 7.5%以上 | 心室中隔欠損症、バルサルバ洞動脈瘤破裂、冠動脈右室瘻 |
血流の評価
心拍出量、心係数
- 心臓カテーテル検査では心拍出量、心係数の測定を行うことができる。方法はフィック法、熱希釈法と数多くあるが右心カテーテルで行うのが通常である。熱希釈法では10ml程度の生理食塩水や5%ブドウ糖液(冷水)をスワンガンツカテーテルより注入しカテーテルの先端にあるサーミスターで温度を測定し熱希釈曲線を用いて心拍出量を算出する。体表面積で割ると心係数となる。重要なことはスワンガンツカテーテルで心係数と肺動脈楔入圧を測定できるため、心不全のフォレスター分類に基づいて治療が行えることである。
肺体血流比
- 肺体血流比(Qp/Qs比)は先天性心疾患の手術適応を決めるのに重要である。正常は1である[1]。右→左シャントがあれば肺血流が減少するので<1となり左→右シャントならば≧1となる。肺高血圧が進行すると、手術が不可能となる。≧2となったら手術を行う場合が多い。重症度、手術適応は疾患によって異なる。
- 算出方法; Qp/Qs = (体動脈血酸素含量(ml/min)- 混合静脈血酸素含量(ml/min))/ (肺静脈血酸素含量(ml/min)- 肺動脈血酸素含量(ml/min))[1]。
- 体動脈酸素含量は、体動脈血の酸素飽和度(SAoO2)で、肺静脈血酸素含量は、右→左シャントがなければ体動脈酸素飽和度(SAoO2)で代替できる。
- (右→左シャントがあれば、肺静脈酸素含量=98%x酸素結合能となる)。
- 肺動脈血酸素含量は、肺動脈血の酸素飽和度(SPaO2)。
- よって、Qp/Qs = ( SAoO2(%) - VO2(%) ) / ( SAoO2(%) - SPaO2(%) )となる[1]。
- 混合静脈血酸素飽和度(VO2)は、心房中隔欠損症の場合、(3x上大静脈酸素飽和度+下大静脈酸素飽和度)÷4、心室中隔欠損症の場合は、右心房内サンプルの平均酸素飽和度、動脈管開存などの場合は、右心室内サンプルの平均酸素飽和度となる[要出典]。
抵抗の評価
体血管抵抗、肺血管抵抗を計算することができる。
心血管造影
左室造影(LVG)によって局所壁の異常運動や左室駆出率を計算できる。左室の局所的な壁異常運動はAHA segment分類に基づいて行われる。1は前壁基部、2は前壁、3は心尖、4は下壁、5は後壁基部、6は中隔、7は側壁である。1~5はRAOでみる、そして6と7はLAOでみる。LVGでは心筋梗塞の合併症の検出もできる。具体的には左室瘤、壁在血栓、中隔穿孔、僧帽弁閉鎖不全症(乳糖筋断裂)などである。もちろん、その他の弁膜症の診断も行うことができる。
- ^ a b c “循環器用語ハンドブック(WEB版) 肺体血流比/肺体血管抵抗比 | 医療関係者向け情報 トーアエイヨー”. med.toaeiyo.co.jp. 2023年7月23日閲覧。
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