心臓カテーテル検査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/11 19:23 UTC 版)
冠動脈造影
冠動脈の解剖と撮影
冠動脈は右冠動脈と左冠動脈に分かれる。左冠動脈は左主幹部より左前下行枝と左回旋枝に分かれる。冠動脈の枝の命名法はAHA分類とCASS分類が知られている。CASS分類のほうが個人差による変化に対応できる命名法だが、簡単のためAHA分類で示す。AHA分類では冠動脈は1~15までの枝で記載される。右冠動脈が1~4であり、左冠動脈本幹が5、左前下行枝は6~10、左回旋枝が11~15である。1は右冠動脈近位部、2は右冠動脈中間部、3は右冠動脈遠位部、4PDは右冠動脈後下行枝、4AVは右冠動脈後側壁枝、右室枝がRV、鋭縁枝がAMである。5は既に述べたように左冠動脈主幹部、6は左前下行枝近位部、7は左前下行枝中間部、8は左前下行枝遠位部、9は第1対角枝、10は第2対角枝、SPは中隔枝である。11は左回旋枝近位部、13は左回旋枝遠位部、12鈍縁枝、14は後側壁枝、15は後下行枝である。虚血性心疾患の場合は壊死心筋との対応が重要となってくる。前壁中隔は主に左前下行枝(V1~V4)、広域前壁も左前下行枝(I,aVL,V1~V6)、側壁は左前下行枝か左回旋枝(I,aVL,V5,V6)、高位側壁も左前下行枝か回旋枝(I,aVL)、下壁は右冠動脈(II,III,aVF)、純後壁は右冠動脈か左回旋枝(V1,V2のpoor R)に対応するといわれている。なお、()は心電図で異常Q波、ST変化が出現する部位である。
これら各種血管を描出するために冠動脈造影(CAG)では様々な条件で撮影される。RAOは右前斜位、LAOは左前斜位、CRは頭側、CAは尾側であるこれらの記号を用いて撮影条件を記述する。なお通常は透視下で行うため、撮影条件は例に過ぎない。
RAO-CAは主に回旋枝を描出する撮影法である。鈍縁枝や後側壁枝まで描出できるが左前下行枝は描出しにくい。RAO-CRは主に左前下行枝を描出できる。対角枝、中隔枝まで描出できるが左回旋枝は描出できない。LAO-CAはスパイダービューといわれ左冠動脈主幹部がよく描出される。LAO-CRは左前下行枝の遠位部がよく描出される。右冠動脈でもRAO、LAOともに用いる。
これらの撮影を駆使して検出できる病変は以下に述べるようなものである。
狭窄
- 狭窄の程度(75%以上の狭窄が有意、左冠動脈本幹のみ50%以上で有意)、狭窄の長さ、場所、局所やびまん性といった範囲、中心性、偏心性といった形態の評価が行える。
拡張
- 動脈硬化では狭窄以外に拡張がみられることがある。局所的な拡大の場合は冠動脈瘤という。
冠動脈解離
血栓
冠攣縮
石灰化
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病変の記載法
狭窄病変が認められた場合、AHAの基準に従い狭窄度を記載する。25%以下の狭窄は25%狭窄とし、26から50%の狭窄は50%狭窄とする。51から75%の狭窄は75%狭窄とする。76から90%の狭窄は90%狭窄、91から99%狭窄は99%狭窄とされる。75%以上の狭窄を有意病変とするが、左主幹部の狭窄は50%以上で有意とする。病変の形態はACC/AHA分類に従い分類される。90%以上の高度狭窄が見られた場合はその末梢の灌流状態、側副血行路の発達度を評価する必要があり、TIMI分類を用いることが多い。
灌流度 (grade) |
TIMI | 側副血行 | レントロープ側副血行路 |
---|---|---|---|
3 | 素早く順行性に造影され、造影剤の消失速度も速い | 良好 | 側副血行路から心外膜側冠動脈が完全に造影される。 |
2 | 末梢まで順向性に造影されるが造影遅延あり | 中等度 | 側副血行路から心外膜側冠動脈が一部造影される。 |
1 | 冠動脈内に造影剤が停滞し、末梢まで造影されない | 不良 | 側副血行路は造影されるが心外膜側冠動脈は造影されない。 |
0 | 病変の末梢へ造影剤が入らない | なし | なし |
再灌流療法を行った後はmyocardial blush gradeを用いて評価する。これは冠動脈の閉塞が解除されても末梢の心筋レベルでの血流が回復しないことがあるからである。
grade | 血流 |
---|---|
0 | 造影剤による心筋染影なし。もしくは心筋が濃染し長時間残存する場合(造影剤の血管外漏出)。 |
1 | 造影剤による心筋染影がわずかにみられる。 |
2 | 造影剤による心筋染影が中等度にみられるが、非梗塞血管領域染影よりは薄い。 |
3 | 造影剤による心筋染影が正常にみられ非梗塞血管領域染影と同等である。 |
病変のマネジメント
虚血性心疾患のマネジメントとしては薬物療法、PTCA(経皮的経管的冠動脈形成術)をはじめとするPCI(冠動脈カテーテルインターベンション)、CABG(冠動脈バイパスグラフト)がある。高度石灰化病変、びまん性狭窄病変ではロータブレータなどを用いてPTCAを行うようになった、またDESによってPTCA後の再狭窄も5%以下に抑えることができるようになった。以上のことから侵襲的治療が必要な場合はPTCAを選択する場合が多い。しかしPTCAできない場合もある。例えば左冠動脈本幹の病変や、冠動脈2枝が完全閉塞している場合の第3枝病変などである。
CABGの適応
- 左冠動脈主幹部病変が50%以上の狭窄例。高度な3枝病変や狭窄部の長さが1cm以上などPTCA施行困難例。冠動脈末梢枝のrun-offが良好(径が1.5mm以上あり、狭窄、不整が認められない)こと。左心機能として駆出率20%以上LVEDP20mmHg以下であるもの。PTCA後の再狭窄などが適応となっている。糖尿病を合併した多枝病変ではPTCAよりもCABGが推奨されている。また異型狭心症ではCABGは原則として行わない。
- ^ a b c “循環器用語ハンドブック(WEB版) 肺体血流比/肺体血管抵抗比 | 医療関係者向け情報 トーアエイヨー”. med.toaeiyo.co.jp. 2023年7月23日閲覧。
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