当用漢字
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/21 04:16 UTC 版)
問題点
交ぜ書き
当用漢字以前に書かれていた熟語には「牽引」のように熟語を構成する漢字に当用漢字とそれ以外の漢字とが混在するものが多数存在した。これらの熟語は「けん引」のように当用漢字だけを漢字にしそれ以外(表外字)を仮名で書く交ぜ書きが行われることとなった。こうして一つの語の内部で字種の不統一を招いた。活版印刷の定着以降、分かち書きをしなくなった日本語においては、字種の変化が単語境界を示すマークとなっており、それを見つけにくくした。
単語族の断絶
中国文学者の高島俊男は、新字体の導入によって、例えば、同じ「專」が、專は専、傳・轉は伝・転、團は団となってしまい、「まるい」・「まるい運動」という共通義をもった家族(単語族)の縁が切れてしまったと指摘している[9]。
古典および他の漢字使用国からの隔絶
当用漢字は日本独自の新字体を採用しているため、当用漢字だけの知識では古典を原典のままでは読めなくなってしまった[10]。そこで、新字体に書き換えた古典が登場するようになったが、新字体では複数の字種を一つにまとめたので、例えば辨・辯・瓣は弁にまとめてしまったために、序文という意味(「弁」はかんむり)の「弁言」と、口達者という意味の「辯言」が新字体では「弁言」になって区別がつかなくなるという事態が発生するようになった[11]。
当用漢字字体表告示の時点では、日本以外の漢字文化圏で、手書き文字として略字が民間で使われていたものの、公式に漢字を簡略化した国はなかった。これ以降、同じ意味の漢字であっても公式な字体や活字の字体が大きく異なるというものが出現した。中華人民共和国では1956年漢字簡化方案により簡体字が実施された。台湾、香港では漢字の系統的・政策的な簡略化は行われず、繁体字(概ね康煕字典体)を維持しているが、特に1980年代以降漢字の標準字体を示す際に整理が行われ、従来活字で見られたものとは異なる字体が標準とされた字も少なくない。朝鮮半島では漢字の字体の変更は行われていないが、ハングル専用政策により北朝鮮では漢字自体が全廃され、大韓民国では漢字の使用が激減した。
- ^ 大辞林第3版、大辞泉、他。
- ^ 漢字に関する主査委員会 第14回 議事録.
- ^ 国語審議会において「当用漢字表」の名称が提案された際、「当用」は「日常の使用にあてる」の意味であると説明された[2]。
- ^ 朝日新聞2008年12月5日夕刊
- ^ 阿辻哲次『戦後日本漢字史』(新潮選書)40ページ〜
- ^ a b “第86回 「𠮷」と「吉」 | 人名用漢字の新字旧字(安岡 孝一) | 三省堂 ことばのコラム”. 三省堂WORD-WISE WEB -Dictionaries & Beyond- (2011年5月19日). 2023年9月27日閲覧。
- ^ 『昭和を騒がせた漢字たち : 当用漢字の事件簿』128ページ〜
- ^ 『昭和を騒がせた漢字たち : 当用漢字の事件簿』144ページ
- ^ 『漢字と日本人』 219ページ。
- ^ 『漢字と日本人』 223ページ。
- ^ 『漢字と日本人』 224-225ページ。
- ^ a b 1958年(昭和33年)4月21日、自丙行発第7号 各都道府県知事宛 自治庁行政局長通知
当用漢字と同じ種類の言葉
- 当用漢字のページへのリンク