寄託 (日本法)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/20 16:04 UTC 版)
概説
寄託の意義
民法に規定する寄託(民事寄託)は、当事者の一方(寄託者)がある物を保管することを相手方に委託し、相手方(受寄者)がこれを承諾することによって成立する契約である(657条)。寄託において目的物の所有者が寄託者である必要はない[1]。
寄託は物を保管するために労務の提供がなされる点で他の契約類型とは異なる(通説)[2]。コインロッカー、貸金庫、貸駐車場など物を保管するための場所を提供するにすぎない場合には、寄託ではなく場所の賃貸借契約ないし提供契約となる[2][3][4]。他方、単に物の保管にとどまらず目的物の管理(改良・利用)や運営に及ぶ場合には寄託ではなく委任契約となる[2][4]
寄託には委任類似の関係が認められるため、民法は寄託に委任の規定を準用する(665条)。
委任と寄託との区別は困難な場合もあり[4]、そもそも寄託は物の保管を内容とする事務処理を委託するもので実質的には委任の一種にすぎないとみる学説もある[5]。
寄託の性質
- 片務契約
- 寄託契約は原則として片務契約であり同時履行の抗弁権(533条)や危険負担(434条以下)の適用はない。特約があれば受寄者は保管料を受け取ることができ、この場合は双務契約かつ有償契約となる(後述の有償寄託となる)[4][6]。
- 無償契約
- 寄託契約は原則として無償契約である(無償寄託という。665条・648条)。先述のように特約により受寄者が保管料を受け取る場合には有償契約となる(有償寄託という。665条・648条)、現実には有償寄託がほとんどであるとされる[3][4][5][7]。なお、委任契約と同様に当事者の関係から有償寄託と推定される場合が少なくないとされる[8]。
- 諾成契約(2020年4月1日以降)
- 2017年改正の民法で物の交付を必要とする要物契約から合意のみで成立する諾成契約に変更された[9](2017年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)[1]が成立し、同年6月2日に公布された。同改正により、2020年4月1日以降、寄託契約は諾成契約とされる)。書面によることも必要ではない[9]。
- 改正前の657条では要物契約とされていた(旧657条の「それを受け取ることによって」の文言)。目的物の受け取りは引渡しによるが、占有改定(183条)については認められないとされていた[1]。改正前の657条では要物契約とされていたが、これはローマ法以来の沿革的な理由にすぎず、寄託の予約や諾成的寄託を結ぶことも認められていた(通説)[1][5][3]。また、要物契約は無償寄託の場合に限られ、有償寄託の場合には諾成契約となるとする有力説もあった[5]。
- なお、2017年改正の民法で受寄者が寄託物を受け取るまでの解除権の規定を新設した(民法657条の2)[9]。
- 寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、受寄者は、その契約の解除によって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる(民法657条の2第1項)。
- 無報酬の受寄者は、寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による寄託については、この限りでない(民法657条の2第2項)。書面によらないことによる軽率な契約や紛争の防止のためである[9]。
- 受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては、書面による寄託の受寄者に限る。)は、寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず、寄託者が寄託物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは、契約の解除をすることができる(民法657条の2第3項)。保管場所を確保している受寄者の負担を考慮した規定である[9]。
- 2017年の改正前にも寄託の予約や諾成的寄託が締結された後、寄託者において引渡前に物の保管の必要なくなり契約を解除する場合には、損害賠償は認められるとしても目的物の引渡しまで命じることは妥当でないとされていた[10]。
- ^ a b c d e 川井健 2010, p. 320.
- ^ a b c 遠藤浩ほか 1997, p. 250.
- ^ a b c 近江幸治 2006, p. 269.
- ^ a b c d e f g 川井健 2010, p. 319.
- ^ a b c d 遠藤浩ほか 1997, p. 251.
- ^ 我妻栄ほか 2005, p. 288.
- ^ 我妻栄ほか 2005, p. 368.
- ^ 遠藤浩ほか 1997, p. 255.
- ^ a b c d e f g h i j k “寄託の成立要件の見直し” (PDF). 法務省. 2020年3月16日閲覧。
- ^ a b 遠藤浩ほか 1997, p. 252.
- ^ 内田貴 2011, p. 305.
- ^ 近江幸治 2006, p. 270.
- ^ 川井健 2010, p. 322.
- ^ a b 落合誠一ほか 2006, p. 141.
- ^ 内田貴 2011, p. 306.
- ^ a b 遠藤浩ほか 1997, p. 256.
- ^ a b c d e f 近江幸治 2006, p. 272.
- ^ 遠藤浩ほか 1997, pp. 256–257.
- ^ a b 遠藤浩ほか 1997, p. 257.
- ^ 我妻栄ほか 2005, p. 370.
- ^ 内田貴 2011, p. 307.
- ^ 遠藤浩ほか 1997, pp. 252–253.
- ^ 我妻栄ほか 2005, pp. 372–373.
- ^ a b 遠藤浩ほか 1997, p. 253.
- ^ 落合誠一ほか 2006, p. 143.
- ^ 江頭憲治郎 2005, p. 337.
- ^ 落合誠一ほか 2006, p. 240.
- ^ 江頭憲治郎 2005, p. 338.
- ^ 落合誠一ほか 2006, pp. 240–241.
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