寄託 (日本法) 寄託の終了

寄託 (日本法)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/20 16:04 UTC 版)

寄託の終了

契約の終了

寄託は継続的契約であるため契約は告知によって終了する[16][17]。無理由告知であり履行を催告する必要はなく662条・663条によって告知すれば足りる[18]。このほか契約一般の終了原因(期間満了や目的物滅失など)によっても終了するが、委任とは異なり当事者死亡・破産・後見開始は終了原因ではない[19]

寄託物の返還の時期

寄託物の返還は先述の告知を前提とする[20]

  • 寄託者による寄託物の返還請求
    • 契約に返還時期の定めがあるか否かにかかわらず、寄託者はいつでも目的物の返還を請求しうる(662条1項)。寄託者に保管の委託の必要がなくなった以上、寄託者の望まない寄託を強いるべきではないためとされる[19][17]
    • 前項に規定する場合において、受寄者は、寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる(662条2項)。2項は2017年改正の民法で新設された規定である。
  • 受寄者による寄託物の返還
    • 契約に寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者はいつでもその返還をすることができる(663条第1項)。
    • 契約に寄託物の返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない(663条第2項)。寄託者の寄託による利益が損なわれるためである[17]

特殊の寄託

混合寄託

2017年の民法改正で実務でよく行われている受寄者が複数の寄託者から同一の種類・品質の物の寄託を受けて混合して保管し、後に同じ数量を返還する類型の寄託について混合寄託として新たな規定が新設された[9]。目的物としては石油穀物などが挙げられる[1]

  • 複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には、受寄者は、各寄託者の承諾を得たときに限り、これらを混合して保管することができる(665条の2第1項)。
  • 前項の規定に基づき受寄者が複数の寄託者からの寄託物を混合して保管したときは、寄託者は、その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができる(665条の2第2項)。
  • 前項に規定する場合において、寄託物の一部が滅失したときは、寄託者は、混合して保管されている総寄託物に対するその寄託した物の割合に応じた数量の物の返還を請求することができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない(665条の2第2項)。

2017年の民法改正前、複数の寄託者が同じ種類・品質の物を寄託し、それを混合する形で受寄者が保管し、契約で定められた返還時期に各寄託者が寄託した割合に応じて返還を受けることとした寄託は混蔵寄託と呼ばれていたものの民法に規定はなかった。混蔵寄託は寄託物の消費が予定されていない点で消費寄託とは性質が異なるとされていた[17][1]

消費寄託

受寄者が寄託物を消費することができることとされ、寄託者により寄託された物と同じ種類・品質・数量の物を受寄者が返還することとした寄託契約を消費寄託という(666条1項)。不規則寄託とも呼ばれる[10][17][4]

消費寄託の典型例として銀行預金(預金契約)があり、主に銀行取引約款や取引上の慣習、行政法規(出資法等)によって規律されている[21][22][23]

2017年改正前の民法では、消費寄託には原則として消費貸借の規定が準用されるとし(旧666条1項)、消費寄託契約に返還の時期を定めなかった場合の返還時期については消費貸借の規定(旧591条1項)を準用せず寄託者はいつでも返還を請求することができるとしていた(旧666条2項)[17]。しかし、消費寄託の場合、返還時期を定めたときでも寄託者はいつでも寄託物の返還を請求できるとするのが合理的であるなど、消費貸借の規定は寄託の性質にそぐわないといわれていた[9]

2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)では、消費寄託にも原則として寄託の規定が適用されることとなった[9]。そして寄託物の担保責任について消費貸借の規定を準用すると改めた(666条2項)[9]。さらに預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合(預貯金)については、受寄者による期限前の返還を可能にする規定が設けられた(666条3項)[9]

商法上の寄託

商事寄託

商事寄託については商法593条以下に条文がある[24]。商事寄託は社会上重要な役割を果たしている[4]。商人が他人のために寄託をしたときは報酬請求権が認められ有償寄託となる(商法512条[14]

  • 善管注意義務
    商人がその営業の範囲内において寄託を受けたときは報酬を受けないときであっても善管注意義務を負う(商法593条)。その趣旨は商人の信用を高める点にある[25]
  • 寄託を受けた物品の滅失・毀損の責任
    場屋の主人は、客より寄託を受けた物品の滅失または毀損について、その不可抗力によって生じたことを証明しなければ責任を免れることができない(商法594条1項)。
  • 寄託されなかった物品の滅失・毀損の責任
    場屋の主人は、客が特に寄託しなかった物品であっても場屋中に携帯した物品が場屋の主人・使用人の不注意によって滅失・毀損したときは場屋の主人は損害賠償の責任を負う(商法594条2項)。客の携帯品につき責任を負わない旨を告示したときであっても場屋の主人はこれらの責任を免れない(商法594条3項)。
  • 高価品の滅失・毀損の責任
    高価品については客がその種類・価額を場屋の主人に明示して寄託したのでなければ、場屋の主人は物品の滅失・毀損によって生じた損害賠償責任を負わない(商法595条)。

倉庫営業

他人のために物品を倉庫に保管する営業を倉庫営業という(商法第597条以下)。倉庫営業は実質的には有償寄託であり、沿革的には民事寄託とは別個に発達してきたもので、本来、民法の適用の余地はないとされる[24]。ただ、実際には商法の倉庫営業に関する規定の多くは倉庫証券に関する規定であり、商法学では倉庫寄託契約も寄託の一種であるとして民法の寄託規定の適用があると解されている[26][27]。なお、倉庫寄託契約が諾成契約か要物契約かという点については論争がある[28][29]


  1. ^ a b c d e 川井健 2010, p. 320.
  2. ^ a b c 遠藤浩ほか 1997, p. 250.
  3. ^ a b c 近江幸治 2006, p. 269.
  4. ^ a b c d e f g 川井健 2010, p. 319.
  5. ^ a b c d 遠藤浩ほか 1997, p. 251.
  6. ^ 我妻栄ほか 2005, p. 288.
  7. ^ 我妻栄ほか 2005, p. 368.
  8. ^ 遠藤浩ほか 1997, p. 255.
  9. ^ a b c d e f g h i j k 寄託の成立要件の見直し” (PDF). 法務省. 2020年3月16日閲覧。
  10. ^ a b 遠藤浩ほか 1997, p. 252.
  11. ^ 内田貴 2011, p. 305.
  12. ^ 近江幸治 2006, p. 270.
  13. ^ 川井健 2010, p. 322.
  14. ^ a b 落合誠一ほか 2006, p. 141.
  15. ^ 内田貴 2011, p. 306.
  16. ^ a b 遠藤浩ほか 1997, p. 256.
  17. ^ a b c d e f 近江幸治 2006, p. 272.
  18. ^ 遠藤浩ほか 1997, pp. 256–257.
  19. ^ a b 遠藤浩ほか 1997, p. 257.
  20. ^ 我妻栄ほか 2005, p. 370.
  21. ^ 内田貴 2011, p. 307.
  22. ^ 遠藤浩ほか 1997, pp. 252–253.
  23. ^ 我妻栄ほか 2005, pp. 372–373.
  24. ^ a b 遠藤浩ほか 1997, p. 253.
  25. ^ 落合誠一ほか 2006, p. 143.
  26. ^ 江頭憲治郎 2005, p. 337.
  27. ^ 落合誠一ほか 2006, p. 240.
  28. ^ 江頭憲治郎 2005, p. 338.
  29. ^ 落合誠一ほか 2006, pp. 240–241.


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