嘘 心理学的研究

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/11 06:50 UTC 版)

心理学的研究

統計的な文献分析(メタ分析)によれば、人は相手の嘘を見破ることができると、その人を無能と判断する傾向があるが、そもそも人は嘘を見破るのが苦手であることは、何十年にもわたる学問の研究から常に示されている。専門家でさえ、嘘を見破る能力は一般人より優れていないのだから、嘘を簡単に見破れると思い込んで、相手に誤った非難で汚名を着せることは慎むべきである[13]。また、Valerio (2018)によれば、悪意のある嘘をつくのは女性より男性のほうがはるかに多いという結果が出ている[14]。とはいえ、嘘をつく人がより否定的な用語を使い、出来事から距離を置き、感覚や知覚に関連する言葉をあまり使わず、認知負荷が重く、認知プロセスへの言及が少ないという傾向は、統計的文献分析でも示されており、質の高い証拠と考えられる[15]

嘘発見技術の嘘

「嘘をつくとき人は(その人から見て)右上を見る」という嘘を見破るテクニックが広く知られており、右利きの人が右を向いた場合、脳の創造的な部分である右半球が活性化し、嘘を作っていることがわかり、一方、左を向いた場合は、理性的な左半球の活動を示しており、話し手が真実を語っていることを示しているため、眼球の動きで嘘を見抜けると言われる[16]。この考えは、警察の取調べの訓練に使われたと言われるほど常識として定着しており、ウェブ上でもあちこちで見かけるようになった[17]。しかし、複数の実験的検証により、完全に誤りであることが分かっており、研究者の一人のハートフォードシャー大学心理学教授リチャード・ワイズマンは、この考えは「狂気の沙汰である」と述べている[17][16]。この間違った心理学風の理論は、1970年代-80年代に作られたセルフヘルプ哲学のNLP(神経言語プログラミング)の文献に端を発していると言われ[16]、NLPでアイ・アクセシング・キューと呼ばれるテクニックに起因する。ワイズマンは、元々NLPの文献では、再構築された記憶と生成された記憶、つまり想像と実際に起こった出来事の違いについての話であったが、これが時間をかけて、嘘と事実に関する話にすり替わっていったと指摘している[16]。この考え方が広まるにつれ、厳密な検証もされないまま、研修のマニュアルに組み込まれ、多くの組織で面接官は、採用志望者が自分の過去について話す際には、嘘を見抜くために、眼球運動のパターンに注意するように指導されていた[16]

文学・娯楽と嘘

フィクションであることを前提とする小説映画漫画漫才など、芸術娯楽の分野では、表現技法の一つとして嘘が用いられる。

一例として、NHK大河ドラマなどの時代劇においては、実在した歴史上の人物や史実をドラマに取り入れると共に、台詞を現代口語に近づけたり、殺陣効果音などを専用のスタジオで収録する、といった「表現技法の一つとしての嘘」が用いられている。また、文学の分野では、嘘をつく事「そのもの」を、ストーリーとして描いた『ほら男爵の冒険』などの作品がある。

他にも、漫才コントでは、「表現技法の一つとしての嘘」を、あたかも事実かのように披露することで、作品の効果を高める方法が用いられる。

これらを鑑賞する際には、悪意を伴わない「表現技法の一つとしての嘘」が作品に含まれている事を論理的に理解し、楽しむ姿勢(いわゆるメディア・リテラシー)が必要である。


注釈

  1. ^ 以下、便宜上、「嘘つき」と呼ぶ。
  2. ^ 事実に反することが聞き手にあらかじめ了解されている場合は、嘘ではなくフィクションや冗談といったものに分類される。
  3. ^ 心理学者の研究では、患者がかわいそう、と言いつつ実は、本当のことを伝えないことで、患者の残された人生まで支配してしまおうとする動機、最後まで本人の好きなようには絶対にさせないようにしようとする動機が、家族の側に無意識に潜んでいることがあるという。
  4. ^ 「ある高僧がガンになった際、あれほどの高僧なら大丈夫だろうとガンを告知したところめっきり気落ちして予想より早く死去した」というお話、お噺、がしばしば引き合いにだされた。

出典

  1. ^ a b 大辞泉
  2. ^ 和泉悠『悪い言語哲学入門』筑摩書房、2022年2月10日、155-156頁。ISBN 978-4-480-07455-3 
  3. ^ Aurelius Augustinus (2014/3/27) [395] (ラテン語). De Mendacio. Createspace Independent Pub. ISBN 978-1497472334 
  4. ^ Aurelius Augustinus (2014/3/26) [410] (ラテン語). Contra Mendacium. Createspace Independent Pub. ISBN 978-1497460010 
  5. ^ 香内三郎『「読者」の誕生:活字文化はどのようにして定着したか』 晶文社 2004年、ISBN 4794966407 pp.427-428.
  6. ^ a b 長池健二 日本口承文芸学会(編)「ウソと鼻歌」『うたう』 <シリーズ ことばの世界> 三弥井書店 2007 ISBN 9784838231591 pp.82-83.
  7. ^ 「ウソと子供」柳田國男 筑摩書房より
  8. ^ 柳田國男「ウソと子供」筑摩書房 より
  9. ^ 広辞苑 第6版「サバを読む」
  10. ^ 永岑光恵、「嘘 ・だましの神経科学的研究の現在と展望:虚偽検出の観点から」 『科学基礎論研究』 2008年 35巻 2号 p.93-101, doi:10.4288/kisoron1954.35.93
  11. ^ 正直と嘘、脳の側坐核が関係 京大研究結果 8/6 12:06 読売テレビ
  12. ^ 時事ドットコム:うそつき、脳で分かる?=活動領域で解明-京大
  13. ^ Hartwig, Maria; Bond, Charles F. (2011). “Why do lie-catchers fail? A lens model meta-analysis of human lie judgments.” (英語). Psychological Bulletin 137 (4): 643–659. doi:10.1037/a0023589. ISSN 1939-1455. http://doi.apa.org/getdoi.cfm?doi=10.1037/a0023589. 
  14. ^ Valerio Capraro (2018). “Gender Differences in Lying in Sender-Receiver Games: A Meta-Analysis”. Judgment and Decision Making英語版 13: 345-355. doi:10.2139/ssrn.2930944. 
  15. ^ Hauch, Valerie; Blandón-Gitlin, Iris; Masip, Jaume; Sporer, Siegfried L. (2015-11). “Are Computers Effective Lie Detectors? A Meta-Analysis of Linguistic Cues to Deception” (英語). Personality and Social Psychology Review 19 (4): 307–342. doi:10.1177/1088868314556539. ISSN 1088-8683. http://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1088868314556539. 
  16. ^ a b c d e Joseph Stromberg (2012年7月12日). “Myth Busted: Looking Left or Right Doesn’t Indicate If You’re Lying(壊れた神話:左または右を見ても、嘘をついているかどうかはわからない)”. Smithsonian Magazine. 2022年4月4日閲覧。
  17. ^ a b 越智 2021, pp. 248–249.


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