人質 人質の概要

人質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/19 22:15 UTC 版)

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近世以前の外交関係における人質

ジャン=ポール・ローランス『人質』(1896年)

歴史上しばしば見られる、国交上の必要に応じて要求される、高い身分を持つ人質は単純な被害者とは言い切れない。人質に選ばれるのは王子など有力者の子弟であり、その人物は必然的に将来の指導階級となるだけに、これを厚遇して好印象を持たせることは保護国側に取っても重要な事であった。人質とその一行は現在での大使館にも似た外交使節とも言えるかもしれない。そして最重要国中枢の姿を間近で見て知り尽くすことが出来ることも大きな利点である。

特に古代ローマがそうであった。人質の滞在先は慎重に吟味され元老院議員等の有力者の家でその子弟と共に学友としてローマ式の教育(リベラル・アーツ)を施され、留学生とも似た境遇となる。こうしてローマ・シンパとして育てられた人質が帰国して指導階級となり、親ローマの立場を取ることで円満な外交関係が築かれる事は正にローマの望むところであった。更に人質時代に築かれた人脈はその関係を潤滑にする。

それはローマ以外のどの国、時代でも似たものであったろう。関係断絶の際にその立場は生命の危機も含む困難なものともなるが、平時にはその立場は悪くはないものであった。

古代の東アジアにおける「人質」は約束の証拠である[3]。王権間の特別の修好結縁に際し、「盟」約にともなう国際的儀礼の一環として、王の近親の者を一時期提供する[3]。政治的手段の性質があり戦略的色彩が濃い[3]。人質を送ることは服属を意味するものではない[4]。人質が「保証」の意義をもつことは一般のの目的と共通である[4]

日本の戦国時代、人質は誓約の証とされたが、対象となったのは当主の子息やその母親、妻などで、成人男性は基本、人質となることはなかった[5]。近世においては、大名が公儀への忠誠の証として、自らとその重臣の家族を「証人」として、大坂や江戸、京都の屋敷に住まわせる慣行があった(大名証人制度)。寛文5年(1665年)に重臣については証人制度が廃止され、大名の妻子については幕末の文久2年(1862年)閏8月22日に廃止された。

人質として知られる歴史上の人物

日本

  • 木曽義高
  • 徳川家康 - 今川氏からの支援を受ける見返りとして、当時竹千代と呼ばれた徳川家康が人質となるが、同行していた継母の父が裏切ったことから織田氏の人質となった後、今川氏が織田信広を捕虜とし、織田信広との人質交換で再び今川氏の人質となった[6]
  • 北条氏規
  • 大政所
  • 黒田長政
  • 毛利隆元
  • 伊達秀宗

海外

予防措置としての人質

1936年パレスチナのアラブ反乱 (1936-1939年)英語版の際に取られた、アラブ側の攻撃を避けるためのイギリス軍の人質戦術。装甲列車の前車両に二人のアラブ人が乗せられている。

フランスでは、プレリアル30日のクーデターの後、総裁政府はいわゆる「人質法英語版」の制定に動いた。これは反革命者の身内を拘禁し、官吏や軍人が処罰されるごとに人質を処罰するというものであった。

ナチス・ドイツは占領区域においてこの人質政策をとり、ユダヤ人レジスタンスなどの人質を拘禁した。ドイツ側の人員が殺傷された場合には、これらの人質は殺害された[7]ナチス・ドイツ占領下のフランスではこの措置が頻繁に行われ、マルク・ブロックガブリエル・ペリ英語版など多数の人間が処刑された。これらの行為はハーグ陸戦条約50条で禁止されている。


  1. ^  この記述にはアメリカ合衆国内で著作権が消滅した次の百科事典本文を含む: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Hostage". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 13 (11th ed.). Cambridge University Press. pp. 801–802.
  2. ^ 人質. コトバンクより。
  3. ^ a b c 山尾(2003)
  4. ^ a b 堀(1998)
  5. ^ 『室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』、清水克行、2021年6月発行、新潮社、P151
  6. ^ 家康の誕生|徳川家康ー将軍家蔵書からみるその生涯ー|国立公文書館”. www.archives.go.jp. 2023年10月31日閲覧。
  7. ^ 渡辺和行 1994, pp. 190–191.
  8. ^ 富田与 2005, pp. 149.
  9. ^ 富田与 2005, pp. 151–152.
  10. ^ 中田薫『徳川時代の文学に見えたる私法』岩波書店、1984年、27-32頁。ISBN 9784003316313 






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