五式中戦車 機動力

五式中戦車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/13 20:19 UTC 版)

機動力

エンジン

原型となったBMW VIエンジン

エンジンは大馬力空冷ディーゼルエンジンを開発出来なかったため、航空機用九八式軽爆撃機に搭載)としては旧式化して余剰となっていた、ハ9-II乙川崎九八式八〇〇馬力発動機」(液冷V型12気筒)を550hpにデチューンして(もしくは、デチューンではなく、元の航空機用エンジンから、機械式過給機を取り外したことと、戦車用のインタークーラーの駆動に差分出力のいくらかを消費することによる、出力低下の可能性もある)流用している。「BM機」とも呼称される。

五式戦車開発第1回会議時に「発動機は航空機用のハ9(九五式800馬力発動機(※注:実際に用いられたのは同系統の九八式である))を戦車用に改造したものを使用することが決定している」と説明され、第2回会議時に「発動機はヂーゼル(ディーゼル)を用いたいのだが500~600馬力の手頃な物が無いのでBMWを用いることにした」と追加説明されている。

ディーゼルエンジンよりも小型化が図られたために、燃料の携行能力が増加した。行動能力は180kmから200kmである。

ハ9の先祖はドイツのBMW製航空ガソリンエンジンBMW VIであり、ソ連のBT-7T-28T-35で使われた450hpのM-17Tや500hpのM-17Mと同系統といえる。

本車の車体後面はハッチ(ドア)になっており、後面上部は観音開き、後面下部は下方に開き、エンジンを後方に引き出して簡単に整備できるようになっていた。これはM3軽戦車に倣ったものであった。因みに、このリアハッチは、M2軽戦車から始まり、M2中戦車M3中戦車M4中戦車にも付いている、当時のアメリカ戦車の標準仕様である。

操向装置

設計の検討段階で三菱は無クラッチ操向変速機を提案した。これはオートマチック変速機と同様の構造を持ち、操縦性、整備性、資源節約が期待された。実車は乾式クラッチ変速機にはシンクロメッシュ、操向装置には油圧サーボを導入し、これらを合わせて本車は軽快に走行したという。最高速度は42km/hを目標とした。

サスペンション

設計検討段階では従来のシーソーバネ方式、トーションバー方式、垂直置きのコイルバネ方式などが検討された。最終的に実車には技術の蓄積が有り、生産設備の整っているシーソーバネ方式が用いられた。転輪は片側8個である。これは直径58cmの車輪を複列に組んで、ひとつの転輪を作ったものである。上部転輪は3個配置された。

サスペンションはトーションバーを製造できなかった為、水平コイル・スプリングを使用した日本戦車伝統の平衡式連動懸架装置を片側に2組設置していた。外形としてはバネを内蔵した筒を、車体側面に地面と水平に取り付けており、この筒の両端からは転輪へとつながるアームが伸びている。アームは転輪2個と接続し、走行時の衝撃を伝達する。緩衝機能は転輪2個を1組として作動し、バネを内蔵した筒の両端から接続した転輪4個が懸架の1ブロックとなった。懸架装置の技術はドイツと比べ古いものであったが、信頼性は高く、自重37t程度の車体を支えるには充分であった。ただしスプリングが破損すると、構造上1ブロック全てのサスペンションが機能しなくなる弱点があった。

履帯は35tの重量を支え、また主砲発砲の衝撃を吸収するために幅広のものが用いられた。履帯幅は600mmであり、設計当初、接地圧は0.6から0.7kg/cm2が目指された。最低地上高は40cm、超壕能力は3.0m、徒渉水深は1.2m、登坂能力は2/3であった。


  1. ^ a b c d e f ファインモールド社 「FM28 五式中戦車 実車解説」(協力:国本康文)の記述による.
  2. ^ a b 『機甲入門』 p571.
  3. ^ 『帝国陸軍 戦車と砲戦車』学習研究社、67頁。
  4. ^ 佐山二郎『機甲入門』光人社NF文庫、508頁、509頁。
  5. ^ 『帝国陸軍 戦車と砲戦車』学習研究社、110頁
  6. ^ https://www.youtube.com/watch?v=4mkS8EodQbA
  7. ^ 佐山二郎「日本陸軍の火砲 歩兵砲 対戦車砲 他」p367。
  8. ^ a b 白井明雄 『日本陸軍「戦訓」の研究』 94頁、107頁
  9. ^ 陸戦学会 「近代戦争史概説 資料集」 p93。野戦砲兵学校に於て1回試射、細部不明。徹甲弾の弾種は記載されず不明。射撃対象の防弾鋼板は、陸軍の他の対戦車火砲の試験資料の表記に従えば、「1種」は第一種防弾鋼板、「2種」は第二種防弾鋼板のことを指すと思われる。また、「近代戦争史概説 資料集」 p92の別資料の記述から、「1種」は弾頭に被帽のある試製APCであり、「2種」は通常弾頭のAPであるとして、「1種・2種」は徹甲弾の弾種を指す、とする推測もある。
  10. ^ 『重速射砲敎育ノ參考』、近代デジタルライブラリー。書誌ID:000000675992。
  11. ^ 『対戦車戦闘の参考(戦車関係)補遺』、アジア歴史資料センター。Ref:C14060869100。
  12. ^ 佐山二郎『日本陸軍の火砲 歩兵砲 対戦車砲 他』 546頁
  13. ^ 佐山二郎「日本陸軍の火砲 高射砲」266頁
  14. ^ 砲と機関銃の双連となっているのは一〇〇式三十七粍戦車砲も同様である。
  15. ^ US Naval Technical Mission to Japan - Japanese Navy Diesel Engines - INDEX No. S-42 - December 1945, p34






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