ヴィジョナリーアート ヴィジョナリーアートの概要

ヴィジョナリーアート

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/04/01 17:16 UTC 版)

アレックス・グレイ英語版による聖なる鏡の礼拝堂英語版

幻想芸術英語版トが幻想文学サイエンス・フィクションとの相互影響を含むニュアンスがあるのに対し、ヴィジョナリーアートはサイケデリック・アートやアウトサイダー・アートあるいはシャーマニズムから生まれたアートも広く意味している。  

語源

ヴィジョナリーアートという言葉が初期の段階で使用された例としては、ポール・ラフォリー1967年に参加したニューヨークの展覧会 "The Visionaries" がある。この展覧会の企画者であるチャールズ・ジュリアーノ (Charles Giuliano ) がヴィジョナリーアートという言葉を主張した理由はポール・ラフォリーが ドラッグと無縁なアーティストであるためサイケデリック・アートという言葉は展覧会の方向性に相応しく無かったからである。

ギルバート・ウィリアムズ (Gilbert Williams ) によるインターネット上でのインタビューで確認できることは、1960年代後半にアメリカ西海岸におけるサイケデリックなファンタジーアートムーブメントを指すためにヴィジョナリーアートという言葉が使われたということである。基本的に「ヴィジョナリーアート」はアメリカを発端とした言い方であるが、幻想的な芸術分野に対する呼称として現在ではヨーロッパを含め広く国際的に使用されている。

アウトサイダー・アートとヴィジョナリーアート

しばしばアウトサイダー・アートとヴィジョナリーアートは相互に言い換えられる場合があり、そのためウィーン幻想派のように伝統技術を重視する芸術と、障害者の芸術を含むアウトサイダー・アートとの歴然とした違いに対する認知が不明瞭になりうるという問題がある。そのためウィキペディア英語版では、「ヴィジョナリーアートは独学の芸術家(アウトサイダー)と専門教育を受けた芸術家の双方によって制作が続けられている。」という記述によって誤解を避けようとしている。

アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアに所在するアメリカン・ヴィジョナリー・アート・ミュージアム英語版におけるヴィジョナリーアートの定義は、

「正式な教育を受けない独学の個人によって生み出された芸術作品であり、それは内なる個人のヴィジョンの中から現われた、とりわけ創造的な活動そのものを最大限に楽しむものである。」

といったものである。しかしながら多くのヴィジョナリー・アーティスト達は正式な教育を受けており、なおかつ彼らの多くは西洋美術史の中核をなしてきた伝統技術や想像力を重視している。そのため、アメリカン・ヴィジョナリー・アート・ミュージアムの活動趣旨と多くのヴィジョナリー・アーティスト達との方向性が必ずしも一致しているわけではない。

アメリカン・ヴィジョナリー・アート・ミュージアムにおいて、著名なヴィジョナリー・アーティストのアレックス・グレイの作品が展示された記録はあるものの、ウィーン幻想派やH・R・ギーガーズジスワフ・ベクシンスキーをふくむ現代の幻想的なリアリズムを積極的に紹介する活動は今のところ確認できていない。つまりこの美術館はアウトサイダー・アートの方向性を基本としていることが伺われる。

現代の動向

欧米におけるヴィジョナリーアートの言葉の定義はいまだ曖昧であるにもかかわらず、現代のヴィジョナリーアートの動向そのものはインターネットという新しいメディアを手段の一つとして国際的な広がりと輪郭を形成しつつある。そしてどのような芸術家が影響力があるのかも次第に明らかになってきている。抽象表現主義、ミニマリズム、コンセプチュアル アート、ポップアートといった欧米における戦後の現代美術が上流階級による経済支援と公的な美術館によって大規模に喧伝されてきたのに対して、ヴィジョナリーアートの動向の多くは一般庶民によって支援されてきている。

アーティスト達は公的な美術館や出版の領域に対して新たな参入の余地を見いだすために活動を続けている。彼らはヨーロッパの古典芸術や象徴主義超現実主義あるいはサイケデリック・アートなどを自らの先駆とみなし、ヴィジョナリーアートの美術史的な意義を主張している。現代のヴィジョナリーアーティストにとって影響力のある過去の巨匠はヒエロニムス・ボスウィリアム・ブレイクギュスターヴ・モローといった画家達であり、また神話や民族芸術、あるいはアーティスト自身の霊的体験などがヴィジョナリーアートを創造するための源泉になっている。

エルンスト・フックスエーリッヒ・ブラウアールドルフ・ハウズナーらによって構成されたウィーン幻想派は、現代のヴィジョナリーアーティスト達にとって重要である。それは彼らにとって技術的、哲学的に強い影響力のある触媒となっているからである。無数のヴィジョナリー アーティスト達がウィーン幻想派のもとで学んでいる。アブドゥル・マチ・クラーラインロバート・ヴェノーサローレンス・カルアーナ、アンドリュー・ゴンザレス (A. Andrew Gonzalez ) 、フィリップ・ルビノブ・ジェーコブソン (Philip Rubinov-Jacobson ) らは、北アメリカにおいて、入れ替わり立ち代り、ウィーンでの研鑽をもとに後進を教えている。

また、1960年代初頭にブリジッド・マーリンによって設立された幻想芸術のための組織、AOIはヴィジョナリーアートに関わるための重要な入り口を提供している。さらに最近ではLilaといったウェブマガジンや、Beinartが代表するオンラインギャラリーがインターネットや自主出版を手段としてヴィジョナリーアーティスト達をサポートしている。




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幻視芸術

(ヴィジョナリーアート から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/01 17:01 UTC 版)

幻視芸術(げんしげいじゅつ、英語: Visionary art, フランス語: L'art Visionnaire)は、幻視(ヴィジョン)で見たこと、あるいはそれを基とした芸術である[2][3]瞑想で見たヴィジョンや[4]、通常の知覚を超越した幻視の状態が反映されている[5]


  1. ^ 聖なる鏡.
  2. ^ a b c d e f g Sylvia Thtssen (2003-05). “Examining "Visionary Art" (Boundaries in Question)”. Erowid Extracts 4: 18-19. https://erowid.org/culture/art/art_article1.shtml. 
  3. ^ a b c d 『現代パリの幻想画家たち』朝日新聞社、1994年。 
  4. ^ a b c d e Philip Rubinov Jacobson. “A Little Known Brief History of Visionary Art”. 2017年4月12日閲覧。
  5. ^ a b L. Caruana (2001). The First Draft of Manifesto of Visionary Art. Recluse. http://visionaryrevue.com/webtext/manifesto.contents.html 2017年4月12日閲覧。 
  6. ^ a b デイヴィド・マクラガン 著、松田和也 訳『アウトサイダー・アート―芸術のはじまる場所』青土社、2011年、47, 205頁。ISBN 978-4-7917-6593-5  Outsider Art: From the Margins to the Marketplace, 2009.
  7. ^ a b c d e パラレル・ヴィジョン 1993, §序文(モーリス・タックマン).
  8. ^ a b c d 聖なる鏡, §芸術家の眼に見えるもの:芸術と永遠の哲学(ケン・ウィルバー).
  9. ^ a b ヴィクトル・I・ストイキツァ.
  10. ^ a b c ヴィクトル・I・ストイキツァ, p. 7.
  11. ^ ヴィクトル・I・ストイキツァ, pp. 34–35.
  12. ^ ロバート・カミング、日本語版監修・岡部昌幸『世界美術家大全』日東書院本社、2015年。ISBN 978-4-528-02001-6  ART a visual history.
  13. ^ R.カスナー 著、春山清純 訳「幻視芸術」『ウィリアム・ブレイク』牧神社、1977年。 
  14. ^ Kenneth Clark (1973). Blake and visionary art. University of Glasgow Press 
  15. ^ 聖なる鏡, §闇から光へ(カルロ・マコーミック).
  16. ^ C. G. Jung (2015). On Psychological and Visionary Art: Notes from C. G. Jung's Lecture on Gerard de Nerval's "Aurelia". Princeton University Press. p. 1-2. ISBN 0691162476 
  17. ^ Stuart, R (2004). “Modern Psychedelic Art's Origins as a Product of Clinical Experimentation”. The Entheogen Review 13 (1): 12-22. https://erowid.org/culture/art/art_article2.shtml. 
  18. ^ a b c d 今福, 竜太「アートの民族植物学的起源 - パブロ・アマリンゴと幻覚のヴィジョン」『Collage』第2号、1999年4月、8-11頁、NAID 40005217912 
  19. ^ a b Martina Hoffmann, Robert Venosa (2012). “Robert Venosa and the Visionary Art World” (pdf). MAPS Bulletin 22 (1): 22-23. http://www.maps.org/news-letters/v22n1/v22n1.pdf. 
  20. ^ Raw Vvision 25 years of publishing outsider art”. Raw Vision Magazine. 2017年7月31日閲覧。
  21. ^ What is Outsider Art?”. Raw Vision Magazine. 2017年7月31日閲覧。
  22. ^ パラレル・ヴィジョン 1993.
  23. ^ 田中弘子「誰もが楽しめる創造力の美術館 アウトサイダーアートの拠点」『AREA』1997年4月、47-49頁。 
  24. ^ アレックス・グレイ、Hamaguchi Mariko訳「The Mission of Art」『zavtone』第10号、1998年、57-61頁。 
  25. ^ L. Caruana (2010). The First Manifesto of Visionary Art. Recluse. ISBN 978-0-97826373-7 


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