ユニバーサルデザイン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/26 02:53 UTC 版)
概説
ユニバーサルデザインという概念は、米ノースカロライナ州立大学ユニバーサルデザインセンター Center for Universal Design)のロナルド・メイス(Ronald Mace 通称 Ron Mace)により、1985年に公式に提唱されたものである[1]。
「年齢や能力、状況などにかかわらず、デザインの最初から、できるだけ多くの人が利用可能にすること」がコンセプトである。デザイン対象を障害者や高齢者に限定していない点が「バリアフリー」とは異なる。これは、バリアフリーが、さまざまな利用者を考慮せずにつくってしまい、結果として生じた障壁(バリア)を「後から除去する」という不合理を、「最初から誰にとっても使いやすいデザインで」解消するというロナルド・メイスの考えが反映されたものである。欧米では、バリアフリーがかなり進んで後にユニバーサルデザインの考え方が提唱されたため、その違いは理解されやすかった。しかしながら、日本国内においては「バリアフリー」が不十分なうちに「ユニバーサルデザイン」の考えが紹介されたため、両者はしばしば混同されており、ロナルド・メイスの考え方が、必ずしも正しく理解されているとは言えない点もある。なお、同様の概念として、ヨーロッパにはDesign for Allという概念があり、英国からは、Inclusive Designも提唱された。現在、提唱されているSDGsの中の”No one will be left behind"(誰も取り残さない)も、考え方としては近い概念といえる。
ユニバーサルデザインの7原則
ノースカロライナ州立大学ユニバーサルデザインセンター[注 1]によるユニバーサルデザインの7原則は以下の通り[2](括弧内は英語の原文表記と和訳)。
- どんな人でも公平に使えること。
(Equitable use / 公平な利用) - 使う上での柔軟性があること。
(Flexibility in use / 利用における柔軟性) - 使い方が簡単で自明であること。
(Simple and intuitive / 単純で直感的な利用) - 必要な情報がすぐに分かること。
(Perceptible information / 認知できる情報) - 簡単なミスが危険につながらないこと。
(Tolerance for error / うっかりミスの許容) - 身体への過度な負担を必要としないこと。
(Low physical effort / 少ない身体的な努力) - 利用のための十分な大きさと空間が確保されていること。
(Size and space for approach and use / 接近や利用のためのサイズと空間)
ユニバーサルデザインの具体例
- 病院等の医療用施設向けに開発されたが、多くの人が心地よいと感じたために普及したシャワートイレ。
- 適切にデザインされた身体的負担の少ないスロープと階段の組み合わせ。状況に応じてエレベーターやエスカレーターとも組み合わせる。
- 絵文字(ピクトグラム)による視覚的・直感的な情報伝達と音声や音響、触覚による情報伝達の組み合わせ。
- ユーザーが自由に選択できる、多様な入力および出力装置(キーボード、マウス、トラックパッド、ジェスチャー、音声など)とそれらの接続、使用ができるプラットフォームとしてのパソコンやスマホ等のハードとソフト。
- 視認性やユーザーの感情に与える効果に配慮した配色計画。
- 複雑なマニュアルがなくても、直感的に使用できる製品のデザイン。
- 読みやすさ、視認性を向上させる目的で開発したフォント[3]。
なお、立ち上がりやすさを優先して「ユニバーサルデザインに配慮している」と謳った座席は座面高が高くなるため、身長の低い人にとって逆に使いづらくなっているケースがあるなど、物によっては一方を立てると一方が不利益を被るため、完全なユニバーサルデザインは難しい。そのため、座席で言えば座面が低いものと高いものを併存させるなど、選べる環境を作ることで誰もが使いやすい環境になることもある[4]。
また、ユニバーサルデザインの市場規模は、2020年現在で40兆円を超えている[5]。
注釈
出典
- ^ a b Ron Mace (1985). “Universal Design: Barrier Free Environments forEveryone”. Designers West 33(1): 147-152.
- ^ “The Center for Universal Design - Universal Design Principles”. projects.ncsu.edu. 2020年7月4日閲覧。
- ^ a b “行方市、全国初 UDフォント一体導入 行政・教育、文書活用に”. 茨城新聞 (2019年3月20日). 2019年4月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年4月15日閲覧。
- ^ あれ、つま先しか届かない! 地下鉄の新型車両、その座席に異論 「立ち上がりやすさ」と「座りやすさ」の両立を神戸新聞NEXT 2021年5月22日
- ^ 障がい者制度改革推進会議 ヒアリング項目に対する意見書 第20回(H22.9.27)
- ^ “長寿社会対応住宅設計指針”. www.mlit.go.jp. 建設省. 2020年7月4日閲覧。
- ^ “移動等円滑化の促進に関する基本方針”. 国土交通省. 2022年7月6日閲覧。
- ^ “オリンピック・パラリンピックを見据えたバリアフリー化の推進に関する調査研究(空港から競技会場までのシームレスな移動の実現に向けた検討)”. 国土交通省. 2020年7月4日閲覧。
- ^ “公共交通機関等における障害者等への対応に係る職員教育の充実に関する調査研究」平成30年3月”. 国土交通省総合政策局安心生活政策課. 2020年7月4日閲覧。
- ^ 障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方に関する意見書https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1298937.htm
- ^ a b c “Kazuo KAWASAKI”. www.kazuokawasaki.jp. 2018年8月27日閲覧。
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