ペルシャ舞踊 ペルシャ舞踊の概要

ペルシャ舞踊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/01 17:30 UTC 版)

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陶片に描かれた踊り手、Cheshmeh-Ali (Shahr-e-Rey)英語版、イラン、紀元前5000年頃(ルーヴル美術館所蔵)
式典で踊るペルシャの女性たち、17世紀頃、現イラン

アラビア語で「踊り」を指すラクス(Raghs 或いは Raqs)は、ペルシャ語でも「踊り」の意味で用いられる。ペルシャ語には元々 paykubi という踊りを指す言葉があるが、もはや一般には使われていない。アゼルバイジャン語でも「踊り」をラクス(Raqs)と言う。クルド人は「踊り」を Halperkeロレスターン州ロル族Bākhten (或いは Bāzee) と呼ぶ[2]

歴史

イラン高原の人々は、音楽、演劇、ドラマ、宗教儀式の形で舞踊をおこなっており、少なくとも紀元前6世紀以来、マスク、動物や植物の衣装、リズム楽器などを使用していた。舞踊と芝居・演劇が文化的に混合した形式は祝い事、弔い、崇拝といった儀式の際に行われてきており、俳優たちは音楽、舞踊、身体的なふるまい、表現方法に通じていた。

踊り手、演奏家、俳優が描かれた骨董品がイランの多くの考古学的な先史遺跡(Tepe Sabz、Ja'far Abad、Chogha Mish、Tall-e Jari、Cheshmeh Ali、Ismaeel Abad、Tal-e bakun、Tepe Sialk、Tepe Musian、tepe Yahya、Shahdad、Tepe Gian、Kul Farah、Susa、Kok Tepe、Cemeteries of Luristan など)に存在する[3]

イランの歴史上の舞踊について、最も初期に研究されたものは、雄牛を供物にしたミトラ教の崇拝での舞踊であった。この宗教は後にローマ帝国にも広まっており、その踊りは日常生活に活力をもたらすためのものであった[4]。 また、ギリシャの歴史家のハリカルナッソスヘロドトスの作品の歴史 第9巻(カリオペ)が、紀元前478年までのアジアの諸帝国とペルシャ戦争の歴史を記述しており、その中で古代ペルシャの踊りについての有意な研究がなされている[4]。古代ペルシャは、最初にギリシア人、その後はアラブ人そしてモンゴルといった諸外国による占領を経て、政治不安と内戦が起こっていった。 これらの変化を通じて、伝統的なダンスの伝統はゆっくりと消滅していった[4]

ペルシャ帝国が崩壊、分裂していった後、新しい征服者に奴隷にされたイランの女性と少女たちはしばしば奴隷にされ、新しい支配者にエロティックな踊りを求められた。イランにおいて、イスラムの普及に伴ってその教義によって踊りは禁止されていたが、一方で長年にわたり禁止が緩んできていた面もあったが、1979年のイラン革命以後、男女が混ざり合って頻繁に踊ることはもはや許されなかった[4][5]。1979年のイラン革命で、踊りやバレエ芸術はイランでは終焉を迎えた[6]。イランの「文化革命」の原則によれば、踊りは邪悪なもので、大罪で不道徳で堕落していると見做された。イランの国立バレエ団は解散し、才能のあるペルシャの踊り手の多くは欧米へ移住し、 新世代の踊り手がディアスポラの地で成長してきている[6]

踊りの分類

ペルシャの舞踊には4つのカテゴリーがある。

  1. 複数人での踊り
  2. ソロの即興舞踊
  3. 戦争・戦闘の踊り
  4. 儀式・精神的な舞踊

結婚式やノウルーズの祝いのような集まりの機会に踊られる、現代的な社会的な踊りや都会での踊りは、共同体の序列に従ったり輪になって踊るものだけでなく、個人の即興的な形態に焦点を当て、各踊り手自身が独自に音楽を解釈し、 時には他の踊りの様式や要素を融合させて踊っている[1]

複数人での踊り

複数人での踊りは、複数の踊り手で踊るもので、その踊りに関わる地域名や部族名から踊りに名前が付けられている[1]

ソロの即興舞踊

ソロの即興舞踊には、サファヴィー朝ガージャール朝の宮廷舞踊を再構成したものも含む。これらは即興的に踊られることが多く、手首で輪を描くような、手と腕の繊細で優雅な動きを用いる[1]

戦争・戦闘の踊り

戦争・戦闘の踊りは戦いの様を模したもの、あるいは戦士の訓練の一助としたものである。 ズールハーネの儀式とレスリングの訓練の動作は Raghs-e-Pa と呼ばれ、踊りの一つとして知られており、格闘技とも見なすことができる[1][7]

儀式・精神的な舞踊

儀式・精神的な舞踊は、サマーウ英語版ズィクル英語版で知られるスーフィズムとして見られる[1]。イランやその周辺地域では癒しの実践のために忘我状態で踊る様々な種類の踊りがある。音楽や動作、忘我を含む一つの癒しの儀式として、le’b guati と呼ばれるイラン東部のバルーチスターンでの儀式があり、持ち主の魂を取り除くために行われ、エクソシスムと同様の状態が現れる[2]バルーチスターンには、gowati という言葉があり、音楽を癒しに用いて精神的な病(「風に取りつかれている」と表現する)から回復した患者を指す[8]ゲシュム島などのイラン南岸地域には「風」によるとされる同様の憑依現象があり、アフリカ、特にエチオピア帝国エチオピア地域の影響を受けているものと考えられている[9]。 アラビア語起源の「耳を傾ける」という意味のサマーウ英語版という言葉は、音楽を聴き、神性との合一を目指す精神的な修練を指し、トルコ語では、sema と綴られる[2]サマーウ英語版ズィクル英語版等の修行を率いる、スーフィズムの修道僧をダルヴィーシュと呼ぶ。


  1. ^ a b c d e f g h Gray, Laurel Victoria (2007年). “A Brief Introduction to Persian Dance”. Laurel Victoria Gray, Central Asian, Persian, Turkic, Arabian and Silk Road Dance Culture. 2018年9月25日閲覧。
  2. ^ a b c Friend PhD, Robyn C. (2002年). “Spirituality in Iranian Music and Dance, Conversations with Morteza Varzi”. The Best of Habibi, A Journal for Lovers of Middle Eastern Dance and Arts. Shareen El Safy. 2014年7月14日閲覧。
  3. ^ Taheri, Sadreddin (2012年). “Dance, Play, Drama; a Survey of Dramatic Actions in Pre-Islamic Artifacts of Iran”. Tehran: University of Tehran, Honarhay-e Ziba Journal. 2018年9月閲覧。
  4. ^ a b c d Kiann, Nima (2000年). “Persian Dance And It's Forgotten History”. Nima Kiann. Les Ballets Persans. 2014年7月14日閲覧。
  5. ^ a b Friend, Robyn C. (Spring 1996). “The Exquisite Art of Persian Classical Dance”. Snark Records. 2014年7月14日閲覧。
  6. ^ a b Kiann, Nima (2002年). “Persian Dance History”. Iran Chamber Society. 2015年8月26日閲覧。
  7. ^ Nasehpour, Peyman. “A Brief About Persian Dance”. Official Website of Dr. Peyman Nasehpour. 2014年7月14日閲覧。
  8. ^ oakling (2003年5月2日). “Bandari”. everything2. 2014年7月14日閲覧。
  9. ^ a b Sabaye Moghaddam, Maria (2009年7月20日). “ZĀR”. ENCYCLOPÆDIA IRANICA. ENCYCLOPÆDIA IRANICA. 2014年7月14日閲覧。)
  10. ^ Iranian Raqs e-Bandari”. Middle Eastern Dance (2011年). 2014年8月25日閲覧。
  11. ^ 踊りの一例, Bandari (Persian / South Iran) Dance in JAMRA Production 2012 - Arabesque Canada, 2015年10月05日公開, 2018年09月30日閲覧
  12. ^ Basseri tribe history”. Marvdashtnama (Persian). 2015年10月11日閲覧。[リンク切れ]
  13. ^ PERSIAN (IRANIAN) DANCE & MUSIC”. Eastern Artists. 2014年8月25日閲覧。
  14. ^ 踊りの一例, chob bazi part 2-Bakhtiari dance (chob bazi) play with wood in wedding party, 2009年10月13日公開, 2018年10月01日閲覧
  15. ^ Friend, Robyn C.. “Çûb-Bâzî, The Stick-dances of Iran”. The Institute of Persian Performing Arts. Encyclopedia Iranica. 2015年3月6日閲覧。
  16. ^ 踊りの一例, Tarkeh Bazi (chob bazi)-Bakhtiari tarkeh bazi, play with wood, 2009年08月12日公開, 2018年10月01日閲覧
  17. ^ Siegel, Neil (2000年). “Dances of Iran, Robyn Friend”. Neil Siegel. 2014年10月17日閲覧。
  18. ^ Friend, Robyn C. (Winter 1997). “JAMILEH "The Goddess of Persian Dance"”. Habibi, (volume 16, number 1). Snark Records. 2014年10月17日閲覧。
  19. ^ https://ameblo.jp/bellydancelife/entry-11731009120.html, ハリージ(Khaleegy) 長い髪を振り回す!サウジアラビアなどのペルシャ湾沿岸地方の民族舞踊, 2018年10月01日閲覧
  20. ^ http://www.iranicaonline.org/articles/kereshme-musical-term, ENCYCLOPÆDIA IRANICA - KEREŠMA, 2018年10月01日閲覧
  21. ^ Persian Dance (Shahrzad Dance Academy-"Kereshmeh"), 2009年01月24日公開, 2018年10月01日閲覧
  22. ^ https://www.researchgate.net/publication/310517194_Iranian_Music_and_Popular_Entertainment_From_Motrebi_to_Losanjelesi_and_Beyond, Iranian Music and Popular Entertainment: From Motrebi to Losanjelesi and Beyond, 2018年10月01日閲覧
  23. ^ http://robynfriend.com/introduction-to-dance-in-iran-part-i/, DANCE in IRAN, 2018年10月01日閲覧
  24. ^ 踊りの一例 Ghasem Abadi dance, 2009年01月20日公開, 2018年10月01日閲覧
  25. ^ http://www.danceanddance.com/174/Dance_styles_review.php, About Zaboli Style, 2018年10月02日閲覧
  26. ^ http://www.helia.nl/, 2018年10月02日閲覧
  27. ^ http://www.footwork.org/medea
  28. ^ a b c Shay, Anthony (2006). Choreographing Identities: Folk Dance, Ethnicity and Festival in the United States and Canada. McFarland. pp. 150–151. ISBN 078645153X 
  29. ^ https://www.rem.routledge.com/articles/nazemi-abdollah-1937, 2018年10月02日閲覧
  30. ^ a b “Vancouver Pars National Ballet”. Harbourfront Centre. http://www.harbourfrontcentre.com/learntoskate/courses.cfm?id=5114&festival_id=136 2017年12月5日閲覧。 
  31. ^ Mina Saleh ( Arizumi)”. Mediterranean delight festival (2010年). 2015年3月6日閲覧。
  32. ^ https://kimiya-saleh.com/, 国際アラビアンダンス協会, 2018年10月02日閲覧
  33. ^ AVAZ International Dance Theatre”. 2018年10月2日閲覧。
  34. ^ Nowruz Award – Iranian Personality of the Year for Art & Culture” (英語). WorldCulturalHeritageVoices.org (WCHV). 2017年12月5日閲覧。
  35. ^ “OUT OF IRAN / Five extraordinary Iranian Americans love both countries but loathe their leaders' war talk”. SFGate. (2007年7月15日). http://www.sfgate.com/magazine/article/OUT-OF-IRAN-Five-extraordinary-Iranian-2581513.php 2017年3月27日閲覧。 
  36. ^ Mohammed Khordadian”. Whats Up Iran. WhatsUpIran.com. 2014年10月17日閲覧。[リンク切れ]
  37. ^ Vancouver Pars National Ballet”. Vancouver Pars National Ballet. 2014年10月17日閲覧。


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