フェルミエネルギー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/28 18:38 UTC 版)
バンド構造
固体のバンド理論では、電子のエネルギー固有状態はバンド構造を形成する。結晶中の電子のエネルギーはバンド構造を形成する。電子はバンド構造中の1粒子エネルギー固有状態 ε を占有する。この1粒子描像は近似ではあるが、電子のふるまいの理解を容易にし、正しく適用すれば一般的に正しい結果を与える。
物質のバンド構造中の EF の位置は、電子のふるまいを決定する上で重要となる。フェルミ準位は現実のエネルギー準位に必ずしも対応しておらず(絶縁体でのフェルミ準位はバンドギャップの中にある)、バンド構造の存在も必要としない。
金属中の電子
金属中の自由電子模型では、金属中の電子はフェルミ気体を作ると考えることができる。金属のフェルミエネルギーは、絶対零度の金属中の電子をバンドの底から詰めていき、その数が系の全電子数になったところの電子のエネルギーである。
金属や半金属、縮退半導体では、 EF は非局在バンドの中にある。 EF 近くの多数の状態は熱的に活性で、容易に電流を運ぶ。
金属の伝導電子の数密度はおよそ1028から1029 electrons/m3であり、通常の固体物質での原子の典型的な密度でもある。 この数密度からフェルミエネルギーを求めると、次のオーダーになることがわかる。
半導体・絶縁体中の電子
半導体や絶縁体の場合、フェルミエネルギーが伝導帯と価電子帯の間のバンドギャップの中にあり、エネルギー準位が存在しない。よって金属などでは成り立っていた「フェルミエネルギー = フェルミ粒子が占有している最も高いエネルギー準位」は、半導体・絶縁体では成り立たない。またフェルミエネルギーでのフェルミ分布関数の値1/2に、占有数の期待値という意味は無い。
真性半導体のフェルミエネルギーは、伝導帯のエネルギー、価電子帯のエネルギー、有効状態密度、を用いて次のように表される。
この第2項目は小さく、バンドギャップのほぼ中央に位置する。
非縮退半導体のフェルミエネルギーEFは、真性キャリア密度、伝導帯の電子密度、価電子帯の正孔密度を用いて次のように表せる[6]。
ドープ量が多いほど、フェルミエネルギーの位置はバンド端の近くになる。
絶縁体では、 EF は大きなバンドギャップの中にあり、電荷担体の存在しうる(有限の状態密度を持つ)バンドから遠く離れている。
半導体や半金属においてバンド構造に対する EF の位置は、ドーピングやゲーティングによってかなりの程度コントロールすることができる。これらのコントロールは電極によって固定されている EF を変えるわけではなく、全体のバンド構造を上下している(時にはバンド構造の形も変える)。半導体のフェルミ準位についての詳細は、[7] などを参照。
- ^ Kittel, Charles. Introduction to Solid State Physics, 7th Edition. Wiley
- ^ 例:Electronics (fundamentals And Applications) by D. Chattopadhyay, Semiconductor Physics and Applications by Balkanski and Wallis.
- ^ Kittel, Charles; Herbert Kroemer (1980-01-15). Thermal Physics (2nd Edition). W. H. Freeman. p. 357. ISBN 978-0-7167-1088-2
- ^ タウア・ニン 最新VLSIの基礎 第2版, Yuan Taur・Tak H. Ning・芝原健太郎・宮本恭幸・内田建, 丸善出版, 2013年1月.
- ^ 第8版 キッテル固体物理学入門, Charles Kittel・宇野良清・津屋昇・新関駒二郎・森田章・山下次郎, 丸善出版, 2005年12月.
- ^ B.L.アンダーソン、R.L.アンダーソン 著、樺沢宇紀 訳『半導体デバイスの基礎』 上巻(半導体物性)、丸善出版、2012年。ASIN 462106147X。ISBN 9784621061473 。
- ^ Sze, S. M. (1964). Physics of Semiconductor Devices. Wiley. ISBN 0-471-05661-8
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- ^ Ashcroft, Neil W.; Mermin, N. David (1976). Solid State Physics. Holt, Rinehart and Winston. ISBN 0-03-083993-9
- ^ Fermi level and Fermi function, from HyperPhysics
- ^ Sommerfeld, Arnold (1964). Thermodynamics and Statistical Mechanics. Academic Press
- ^ “3D Fermi Surface Site”. Phys.ufl.edu (1998年5月27日). 2013年4月22日閲覧。
- ^ I. Riess, What does a voltmeter measure? Solid State Ionics 95, 327 (1197) [1]
- ^ Sah, Chih-Tang (1991). Fundamentals of Solid-State Electronics. World Scientific. p. 404. ISBN 9810206372
- ^ Datta, Supriyo (2005). Quantum Transport: Atom to Transistor. Cambridge University Presss. p. 7. ISBN 9780521631457
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