ナスカの地上絵 立地と環境

ナスカの地上絵

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/18 14:21 UTC 版)

立地と環境

ナスカの地上絵が立地する場所は、ペルー南海岸地方の北から南へ走る丘陵と東方のアンデス山脈の麓との間にあるパンパ=コロラダ、パンパ=インヘニオと呼ばれる細長い盆地である。長い年月の間に、西方や東方の比較的高い場所からの水の流れが浸食した土砂を盆地に運び続けた。このような土砂は細かくて明るい色、黄白色をしている。この土の上に時々大洪水によって多量の石を含んだ土砂が運ばれる。細かい土は、南風によって吹き飛ばされ、比較的大粒の礫や岩石が残される。岩石は早朝は露に濡れるが、日中は焼け付くような砂漠の太陽に照らされることを繰り返すうちに、表層の岩石はやがて酸化して暗赤褐色になる。岩石が日中の太陽で熱をもつので、その熱の放射で地表に対して暖かい空気層をつくり出し、南風による表面の浸食を防ぎ、雨もほとんど降らない気候環境から雨による浸食もほとんどない状況をつくり出した。

ナスカの地上絵は、このような盆地の暗赤褐色の岩を特定の場所だけ幅1m~2m、深さ20~30cm程度取り除き、深層の酸化していない明るい色の岩石を露出させることによって「描かれて」いる。規模によってはもっと広く深い「」で構成されている。地上絵の線は最初に線の中心から外側へ暗赤褐色の砂利を積み上げる、それから線の中心部分に少し残った暗赤褐色の砂や砂利も取り除いて明瞭になるようにしたと推定される。

地上絵のマッピングと学術研究

ナスカの地上絵の制作方法,意図解明や地上絵の分布図作成、出土品のカタログ化を含む研究は、米国の大学(文化人類学部,考古学部)で主に進められているが、現地調査がペルー政府によって認められているのは坂井正人率いる「山形大学 ナスカ研究所」のみである。

2019年9月18日、山形大学はIBMワトソン研究所と地上絵の共同研究を行なうための学術協定を締結した。IBM Cloud上で提供される「PAIRS Geoscope」といった3次元時空間地理データ統合解析システムや、IBMのAIプロダクトであるWatsonを利用し、航空レーザー測量、衛星写真、合成開口レーダー、ドローン(多波長センサー)、地上型3Dスキャナー等で得られた全てのデータを整理して分析できるようにする。[6]

山形大学では2018年から日本IBMと共同で、高解像度の空撮写真などの大容量データをもとに、高速に処理できるAIサーバー「IBM Power System AC922」上に構築された深層学習プラットフォーム「IBM Watson Machine Learning Community edition」を使用し、地上絵を自動検出できるAIモデルを開発し、それを地上絵の発見に活用している。

具体的には、山形大学が所有していたナスカ台地の東西5kmの範囲に渡って撮影された線や面の地上絵の航空写真を、教師データとして学習させたという。現在、精度の向上が課題となっている。[7]

今後、気候変動や都市開発の拡大などによって地上絵そのものが消えてしまう可能性が高くなる。そのような危機に備えて山形大学は保存作業を進めている。

描かれた年代

地上絵の航空写真(ハチドリ、一筆書きに注意)

ナスカの地上絵が描かれた年代は今からおよそ2000年前、パルパの地上絵は更に古く今から3000年ほど前に描かれたものと言われている。

地上絵にはサルリャマシャチ、魚、爬虫類海鳥類が描かれ、ナスカ式土器の文様との類似点が指摘されてきた。

1953年、コロンビア大学のストロング (W. Duncan Strong) は、パンパ=コロラダに描かれた直線のうち、土中に打ち込まれた木の棒で終わっているものがあるのに気づいた。こうした棒のうち一本をC14法で年代測定を行ったところ、西暦525年頃、誤差前後80年程度と判明した。

また、1970年代のはじめ、G.S.ホーキンズ (Gerald S. Howkins) は、パンパ=コロラダでたくさんの土器の破片を採集し、ハーバード大学ゴードン・R・ウィリー (Gordon R. Willey) とカリフォルニア大学バークレー校のジョン・H・ロウ (John H. Rowe) に鑑定を依頼したところ、そのうち、85%がナスカ様式の土器だと判明した。残りの土器はそれ以後の時代、10〜14世紀のものだった。

同じ頃、ペルー文化庁のラビーネス (Rogger Ravines) も、パンパ=コロラダの周辺の遺跡から土器片を収集して、観察した結果、全てナスカ様式だった。これは、地上絵の近隣の遺跡は地上絵を描くための一時的な労務者集団の野営地とも考えられている。これらの結果から、時期的には、先行するパラカス文化の終わる紀元前200年頃から西暦800年頃のナスカ文化の時代に描かれたものだとほぼ確定されている。


注釈

出典

  1. ^ a b 地球の歩き方 2010, p. 72.
  2. ^ 山形大学ナスカ研究所 所長挨拶 at the Wayback Machine (archived 2013年5月3日)
  3. ^ 143 New Geoglyphs Discovered on the Nasca Pampa and Surrounding Area”. Yamagata University (2019年11月15日). 2019年11月21日閲覧。
  4. ^ 未発見の「ナスカの地上絵」をIBMのAIが見つけ出すことに成功、見つかった143点の地上絵はこんな感じ”. GIGAZINE (2019年11月20日). 2019年11月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月21日閲覧。
  5. ^ グリーンピースが聖地に残した爪痕”. ギズモード (2014年12月23日). 2022年11月19日閲覧。
  6. ^ 株式会社インプレス (2019年11月15日). “日本IBMのAI技術により、「ナスカの地上絵」の発見速度が向上”. PC Watch. 2022年12月18日閲覧。
  7. ^ Archaeologists Seek to Unearth Mysterious Geoglyphs in Peru Using IBM AI and Geospatial Data” (英語). IBM Research Blog (2019年11月18日). 2022年12月18日閲覧。
  8. ^ 本城達也. “神々や宇宙人へのメッセージか?「ナスカの地上絵」”. 超常現象の謎解き. 2021年9月9日閲覧。
  9. ^ TECTONICS BLOG Rev”. www.impacttectonics.org. 2022年12月18日閲覧。
  10. ^ はやし浩司のホームページ★★★ここが子育て、最前線★★★Hiroshi Hayashi's Website”. www2.wbs.ne.jp. 2022年12月18日閲覧。
  11. ^ http://www.digibook.net/d/87d4853f815f9b342411e712b07d9982/?viewerMode=fullWindow[リンク切れ]
  12. ^ a b c d e f g h 毎日新聞 2012年02月22日 東京朝刊:歴史・迷宮解:現代のナスカ地上絵 種まきの距離感覚[リンク切れ]
  13. ^ 中南米デスティネーションガイド”. Air Canada. 2013年4月14日閲覧。 “近年では、探査衛星ランドサットが撮影した画像に、全長50kmにも及ぶ巨大で正確な矢印が発見され、ナスカの地上絵の謎は深まるばかりです。”[リンク切れ]
  14. ^ 高久, 克也; 小川, 進 (2008), “ALOS によるナスカ地上絵の同定”, 地球環境研究(紀要) (立正大学地球環境科学部) 10: 1-9, http://es.ris.ac.jp/~es/kiyou/p001_ron01_takaku.pdf 
  15. ^ 図6の解説より。阿子島, 功 (2009), 科学研究費補助金研究成果報告書, 東北地理学会, p. 4, http://kaken.nii.ac.jp/d/p/18401004/2008/8/ja.ja.html [リンク切れ]
  16. ^ "ナスカとフマナ平原の地上絵". 講談社「世界遺産詳解」. コトバンクより2022年11月19日閲覧






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