ジョゼフ・ド・メーストル
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影響
メーストルが亡くなった時、彼の著作の大部分は公刊されておらず、後年におけるほどは独特な思想家としての評価はほとんど受けていなかった。息子のロドルフ・ド・メーストル伯爵を中心とする人々が全集を編集し出版したのは1850年代から1860年代にかけてのことであった。これ以降メーストルは保守主義者、カトリック右派から実証主義者、反文化主義者といった広い範囲の人々にかけて、徐々に熱烈な読者を獲得していった。
メーストルの思想はアンリ・ド・サン=シモン、オーギュスト・コント、シャルル・モーラスなどに影響を与えており、また彼の著作集の序文は有名なルーマニアの作家エミール・シオランによって書かれている。
他に、彼に注目した後の思想家としてはカール・シュミットやアイザイア・バーリンなどがいる(後段参照)。
スタンダールはメーストルを「死刑執行人の友」と呼び、フェリシテ・ド・ラムネーは、メーストルには二つの現実、すなわち犯罪と処罰しかない、「彼の著作は絞首台の上で書かれたかのようである」と語っている。
メーストルを魅力的な反文化主義者として評価する人々もいる。例えばシャルル・ボードレールは、メーストルは彼に「どのように考えるか」を教えたと語り、自身をサヴォワ人の反革命家の弟子であると言っている。
また後に「アメリカ版メーストル」と呼ばれたのは、第7代アメリカ合衆国副大統領ジョン・カルフーンである。彼は南部の権益を代表し、徹底的保守主義者として、奴隷制の擁護を行った。
著作の日本語訳ほか
21世紀の今日まで、日本語訳されたのは、1885年に刊行された『主権原論』(陸実(羯南の本名)訳、博聞社、『主権についての研究』の訳書)。後年に刊行された『陸羯南全集』第1巻(みすず書房、1968年)に収録された。他に1948年に刊行された『サン・ペテルスブルクの夜話(仏蘭西カトリック思想家選2)』(岳野慶作訳、中央出版社、『サンクト・ペテルブルク対話篇』の訳書、現在は聖パウロ修道会が運営するカトリック出版社・サンパウロ)のみと思われる。
メーストルの英訳版は、主な作品は全訳が多く出版されており、近年は1994年にケンブリッジ大学出版の英訳『Considerations on France』(リシャール・ルブラン訳)の序文は、アイザイア・バーリンによる、それ以外は抄訳であったり、未訳が多い。
フランス語版は「メーストル全集」が出版されており、その序文はすでに述べたがシオランによる。
メーストルを扱った日本語書籍
メーストルについて言及する日本語の書籍の中で、現在最も有名で入手しやすいのはカール・シュミットの『政治神学』、そしてアイザイア・バーリン『ハリネズミと狐-戦争と平和の政治哲学』、『反啓蒙思想 他二篇』(各・岩波文庫)である。他に「バーリン選集」岩波書店にも、メーストルについて触れられている論文がいくつかある。
日本の保守系論客の著作の中にメーストルの名前が登場することがあるが、ほとんど重要でないものしか確認していない。保守主義一般についての古い概説書などには、メーストルが比較的詳しく取り扱われているものもある。
フランス哲学史、啓蒙思想史の本などに彼の名前がルイ・ガブリエル・ド・ボナールと共に「反革命家、反動家」として挙げられていることがある。また『フランス革命事典』や『カトリック事典』の類に彼の項目が載っているものもある。
近年になり、それら評論書や概説書の一部のみならずメーストルを主題にした学術書がされている。アントワーヌ・コンパニョン『アンチモダン 反近代の精神史』(松澤和宏監訳、名古屋大学出版会 2012年)では「反啓蒙思想・反革命・崇高・原罪・悲観主義・罵詈雑言」を必要条件とする「反近代主義」の作家の始祖としてメーストルが挙げられ、繰り返しメーストルの著作引用がされている。
他に慶應義塾大学の川上洋平『ジョゼフ・ド・メーストルの思想世界』(創文社 2013年)で、初めて専門書が出版された。長年の著者のルソー研究による独自な見解が顕われた著書である。
この流れを引き受け、オピニオン雑誌「表現者」に於いても平坂純一『フランスの保守思想 ジョゼフ・ド・メーストル』が7回連載[2] されるなど、これまで吾が国で主流だった英国流のバークの保守思想に加えて、その根源的な意義を確かめる為の思想家として見直されている。
- ^ Joseph de Maistre French moralist Encyclopædia Britannica
- ^ 表現者60号から66号まで連載された。
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