ジャガイモ
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保存
低温に弱い性質で、4度以下になるとデンプン質が変質することから、冷蔵庫には入れないで、紙で包んだり紙袋に入れたりして、日の当たらない風通しのよい場所で保存をする[62]。
品種の影響
品種により貯蔵性が異なり、加工業者は使用時期別にいくつかの品種を組み合わせて使う場合がある。たとえば、長期貯蔵性に優れる「スノーデン」種(ポテトチップスの原料の一つ)は、4月から6月頃の原料として使われる。
茹でた場合
茹でた場合は、冷蔵庫に入れておけば、およそ4 - 5日程度もつ[62]。茹でた場合、水分が分離してスカスカした食感になることから、冷凍庫には決して入れてはならない。しかし、マッシュポテトや水分が比較的少ないフライドポテトなどは冷凍しても問題ない。
貯蔵中の発芽抑制
収穫後2か月から3ヶ月は休眠期であり、好適な温度や湿度条件下でも発芽しない。しかし、その後、本来繁殖器官である塊茎は発芽を始める。発芽することにより、生食用品種として商品価値を失い、加工用やデンプン原料用では減耗や歩留まりの低下、品質の劣化が起こる。そのため、貯蔵中の発芽の抑制のためいくつかの方法を用いる。
低温貯蔵
3℃から10℃の低温で貯蔵することにより発芽を防ぐ方法が一般的である。最適な貯蔵温度は品種によって異なる。低温保存により、可溶性糖の含量が増える。
CA貯蔵
CA貯蔵 (Controlled Atmosphere) は、貯蔵する空間の気体の組成・湿度・温度を制御して鮮度を保持する方法[81]。青森県のリンゴの長期貯蔵において一般的な方法で、ジャガイモでも実用化されており、8か月から10か月の長期貯蔵が可能である[82][83]。
発芽防止剤
アメリカ合衆国などでは、収穫後にクロロプロファムという薬品を散布して発芽を抑制する方法をとる[84]。日本では除草剤として登録する農薬で[85]、ジャガイモの発芽防止目的の使用は許可されていない。この薬品はカナダ、米国、オランダその他の主要ジャガイモ生産国では、フライドポテトやポテトチップスなどの加工用ジャガイモに普通に使用される薬品なので、これらの国から輸入するジャガイモ加工製品には普通に検出される[86]。
放射線照射
放射線であるガンマ線を照射する方法がある。収穫後のジャガイモに微弱な放射線を当てることにより、長期保存をしても有害な芽が出ない[49]。コバルト60から放出されるガンマ線により、芽の組織の細胞分裂を阻害することで発芽を抑制する。ジャガイモへの放射線照射は1972年に厚生省(現厚生労働省)により認可されたが、1974年1月から道の許可を得て北海道の士幌町農業協同組合が実施しているのみである。放射線を照射されたジャガイモから放射線が発生することはなく、またそのジャガイモを食べた人も健康を害することはない[49]。なお、日本において放射線の食品照射が認められている食品はジャガイモだけである。
ジャガイモの発芽防止のために行う放射線照射の認知度は28%と低く、安全性や必要性など食品への放射線照射に関する基本的事項についての分かりやすい情報提供の不足を指摘する声が多い[87]。
エチレンガス噴入
暗冷所にリンゴと一緒に保存すると発芽しにくくなるといわれてきた。これには異論も多く、効果がないという報告も多かったが、近年、欧米での研究によりリンゴなどから発生するエチレンガスがジャガイモの芽の伸びを抑制する効果を持つことが証明され、工業的に生産されたエチレンを用いて正しく濃度コントロールをして発芽を抑制する技術が確立された。しかし、リンゴとの共存によるエチレンガスの濃度コントロールは困難であり、エチレンガスの濃度や保存期間が充分でないと、逆に芽の伸びを助長することも立証されている。ジャガイモは通常5℃以下の冷暗所で保存するといつまでも芽は伸びないので、そのような場所で保存することが最も重要である。ただし、一度高温にさらして芽が伸び始めたものは長い期間の保存には適さないので、もともと芽が伸びていないジャガイモを選ぶことがこつである。リンゴと一緒に保存する方法については、濃度や時間・温度のコントロールが困難で失敗の確率が高く、勧められない。
注釈
- ^ あるいは「ジャガイモ」を転じた「ジャイモ」「ジャガライモ」「ジャガタイモ」「ジャガタロ」「ジャガタ」「ジャカタ」「ジャガトライモ」[10]。
- ^ あるいは「馬鈴薯」を転じた「バレンショ」「バレーチョ」「バレージョ」[10]。
- ^ トウモロコシは温暖な気候に適した作物であり、3500 mを超える高地での栽培跡が確認できていない一方、ジャガイモは4000 m級の場所でも栽培跡が確認されている。
- ^ インカ人の人骨に含まれるたんぱく質から生前の食生活を解析した結果、主要な食料源はイモ類、豆類であったことが判明した。
- ^ 観葉植物として楽しまれていたが、16世紀の後半にエリザベス1世がジャガイモの若芽を食べてしまい、それに含まれている有害物質のソラニン中毒になったことなどもあり、普及が遅れた。
- ^ JAたんの(現:JAきたみらい端野支所)による、独自ブランド名。
- ^ 系統名から1972に交配が行われた可能性が高い。
- ^ 育成者等は「ネオデリシャス」と呼んでいたが、原採種栽培での名称は「アンデス赤」となっており、一般には「アンデス赤」「レッドアンデス」、「アンデスレッド」「アンデス」等の名称で販売されている。
出典
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