クレジット・デフォルト・スワップ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/25 08:07 UTC 版)
会計上の取扱い
CDSの会計上の取扱いについては日本では明確な基準がなく、実務上では保証として扱う場合とオプションとして扱う場合がある。
保証と解する場合、保証料(フィー)は発生主義(デフォルト発生時)に基づき貸借対照表に計上される。デフォルトのさいCDSの売り手は通常の保証と同様に契約額を貸借対照表上に計上する必要はないが、偶発債務として開示が求められる。銀行の場合は保証に貸借対照表能力が与えられており、偶発債務を「支払承諾」、偶発債権たる求償権を「支払承諾見返」として両建処理する。
デリバティブとして扱う場合、オプションと解されればフィーが権利行使時または消滅時まで資産ないし負債に計上され、スワップと解されれば発生主義に基づき損益に計上される(銀行が特定取引勘定であつかう場合には時価評価する)。CDSの契約額面は貸借対照表に計上されないがデリバティブに関する注記をおこなう必要がある[2]。
価格の設定(プライシング)
プレミアムの決定には金融工学的手法が利用される。それは単に買い手が、両者の期待値を一致させる価格を支払えばよいのではなく、売り手が引き受けるリスクに対する対価(リスクプレミアム)をも支払う必要があるからである。リスクプレミアムは通常、同じ参照企業Aが発行する社債などに織り込まれたものを使う。
CDSの売り手がデフォルトしないという仮定の下ではプレミアムの算出は容易である。しかし、売り手もデフォルトする場合には買い手のリスクが増大する。さらに参照企業Aと売り手のデフォルトに相関がある場合には、プライシングは容易ではない。
CDSのプレミアムを単純化して数式に表すと
s:1年間のCDSプレミアム、d:1年デフォルト確率、r:デフォルトした際の回収率
と表せる。左項は期待損失率、右項は期待収益率といえる。ただし、この理論値は、カウンターパーティーリスクや流動性リスクなどを含んだプレミアムではないことに注意すべきである。上式では、左項の方が大きく、等式ではなかった。
およそ、1000bpsを超える一部の銘柄について、UP front取引がなされていた。計算は、ディールスプレッドを500bpと仮定し、その満期までの各キャッシュフローに対して累積生存確率とディスカウントファクターを掛け合わせたものの合計を、通常のフラットカーブのスプレッドで計算した満期までの各キャッシュフローに対して累積生存確率とディスカウントファクターを掛け合わせたものの合計から減じた金額を想定元本で割ることで求められる。現在ではCDS取引の標準化に伴いほぼすべての銘柄がUP front取引されている。
ISDA Japan Credit Derivatives Committee Research Working Group の解説によれば、日本企業を対象としたCDSの固定プレミアムは25bp、100bp、500bpの3通りである。市場実勢プレミアムは当然その3つと一致しないこともあるが、その場合の、固定プレミアムと市場実勢プレミアムとの差については、契約締結時(アップフロント)の支払で調整する[4]。
マーケット
日本では、1999年から個別銘柄のCDSが開始された。2013年現在、主に日本の主要金融機関(みずほ証券など)と外資系証券会社(ゴールドマン・サックスなど)の合計15社程度がマーケットで値付けを行い、数社のブローカー(東短、GFIなど)を経由して取引を行っている。
ISDAが提供しているISDA Master Agreementと呼ばれる基本契約を相対で事前に締結することで、Confirmationと呼ばれる差入書のみを利用して取引を行うことができる。
各個別企業の信用リスクを取引する通常のCDS・インデックスCDSとして、流動性が高い主要企業50社の信用リスクを参照としたiTraxx Japan 50(アイフルやソニーなど)、プレミアムが高い企業を参照としたiTraxx Hivol(ソフトバンクや日本航空など)がある(しかしながら、Series 10以降はHivolインデックスは消滅した[5])。
インデックスのライセンスはMarkit Groupがライセンスを保有し、6カ月ごとにインデックスの見直しをおこなっている[6]。通常、シングルのCDSについては期間が5年で5億円単位、インデックスについては5年10億円単位で取引されている。
また、日本では取引されていないが、レバレッジローンを参照にしたLCDXや、ABSを参照にしたABXなどが海外マーケットには存在し、日本マーケットにおいてもリスクヘッジ手法として今後の発展が見込まれる。
新国際会計基準導入後は、日本においてもCDSのヘッジ対象となるローンの時価会計化に伴い、CDSのヘッジ取引の拡大が見込まれている。
東京金融取引所(TFX)
東京金融取引所は、大手12金融機関からの情報提供を受けて、CDSの相場(気配値・参照値)を毎日公表していた(現在は行われていない)[7]。
- ^ https://web.archive.org/web/20190715161243/https://www.shigeru-sato.com/entry/2018/07/21/224028
- ^ この項目『デリバティブ類似取引の会計処理』秋葉賢一日本銀行金融研究所/金融研究/2000.3)[1]から起筆。pdfでP.6
- ^ “CDS Q&A”. 2019年7月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年10月18日閲覧。
- ^ 資料PDF[3] P.18
- ^ Markit社発表、2008年9月24日付。
- ^ en:iTraxxを参照。
- ^ 【J-CDS】CDS参考値(東京金融取引所)
- ^ ISDA Market Survey Notional amounts outstanding, semiannual data, all surveyed contracts, 1987-present
- ^ [2]
- ^ [2008年11月7日日本経済新聞 7面 損失肩代わり商品「CDS」、残高上位1000銘柄公表 米機関]
- ^ Table6:Top 1000 Reference Entities (Gross and Notional)
- ^ [日経ヴェリタス][要文献特定詳細情報]
- ^ J-CDS
- ^ 米リーマンのCDS清算、支払額52億ドルにとどまる=決済機関
- ^ “米ワシントン・ミューチュアルのCDS清算値は57%、推定値下回る”. ロイター. (2008年10月24日) 2011年2月15日閲覧。
- ^ 日本経済新聞2008年10月24日 リスク見えぬ金融保証商品・金融サミットでも議論へ
- ^ ソフトバンク、最大750億円損失の恐れ 債務担保証券への投資で=HP上は未開示、30日夜9時
- ^ Markit CDX Series9
- ^ “日本航空のCDS清算値は20%、国内2件目の入札を実施”. ロイター. (2010年4月22日) 2011年2月15日閲覧。
クレジット・デフォルト・スワップと同じ種類の言葉
スワップに関連する言葉 | エクイティースワップ コンスタントマチュリティスワップ クレジットデフォルトスワップ 環境スワップ(かんきょうスワップ) スワップ(すわっぷ) |
- クレジット・デフォルト・スワップのページへのリンク