キメララクネ 生態

キメララクネ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/27 01:58 UTC 版)

生態

キメララクネは他のクモのように、昆虫などを捕食する肉食動物であったと思われる[7]琥珀天然樹脂化石)に閉じ込められていたことから、おそらくの幹かその周辺に生息していたと考えられる[7]。また知られる化石標本は全てがオス成体であることから、これらの個体は、交接対象のメスを探すために外を徘徊する途中で、天然樹脂に囚われたものだと推測される[10]。キメララクネは発達した糸疣をもつためは出せるが、その用途は不明で、少なくとも派生的なクモのような、空中の昆虫を獲るためのは作れなかったと考えられる[7]。鞭状体になった尾節は同じ特徴をもつ他のクモガタ類と同様、感覚器の役割を担ったと推測される[7][10]

分類と発見の意義

他のクモガタ類(非単系統群

四肺類

コスリイムシ

脚鬚類

ウデムシ

有鞭類

サソリモドキ

ヤイトムシ

†ウララネイダ類

広義のクモ

キメララクネ

狭義のクモ

中疣類

後疣類

Araneae
Araneida
Wang et al. (2018)、Wunderlich (2019, 2020)、Wunderlich & Müller (2022) に基づいた、クモガタ類におけるキメララクネの系統的位置[1][3][4]

キメララクネが発見される以前では、かつて原始的なクモと考えられ、のちにクモの起源に近いものと区別されるようになった化石クモガタ類がいくつかあり、おもに Idmonarachne とウララネイダ類(Uraraneida)か挙げられる[2]。これらのクモガタ類は疑いなくクモに近いものの真のクモとして認められないのは、不完全な糸疣しか持たないことと、化石証拠の不足により触肢器の有無も不明であることが主要な原因となり、特にウララネイダ類は、クモとして異質であるサソリモドキのような鞭状体も備わっていた[9]。このような尾節はクモとこれらのクモガタ類の共通祖先から受け継いだ祖先形質で、クモに至る系統で退化していたと考えられる[3]

基盤的な現生クモ中疣類のハラフシグモ属の側面図。尾節を欠くが、発達した背板(5)と糸疣(3と4)が見られる。

しかしキメララクネは前述のウララネイダ類のように鞭状の尾節をもつと同時に、クモとして最も重要な共有派生形質である触肢器と発達した糸疣を兼ね備えており[1]、その糸疣と背板の形態も最も基盤的な現生クモである中疣類(ハラフシグモ類)を思わせる[10]。そのため、キメララクネは現生クモと前述のクモガタ類を繋げたミッシングリンクとされ[7]、クモに至る系統は尾節の退化以前に既に触肢器と発達した糸疣を進化させていたことを示し、従来のクモの定義を覆しかねないほどの情報を与えていた[1][3]。クモは3億19万年前の石炭紀後期で既に他のクモガタ類と分岐していたため、1億年前の白亜紀に生息したキメララクネはクモの共通祖先ではなく、代わりにその祖先形質を2億年以上も色濃く受け継いだ基盤的な系統群の生き残りと考えられる[1][7][10]

キメララクネに対して最初の記載を行った Wang et al. (2018) と Huang et al. (2018) はいずれもキメララクネのクモとの深い関わりを認めるが、それ以降の分類、主にキメララクネはクモに含めるか否かについて意見が分かれており[2][1][6][3]、前者はキメララクネをクモであると認め[1]、後者はキメララクネをウララネイダ類と見なしている[6]。従来のクモの定義は主に触肢器と発達した糸疣を有することに基づいたが、キメララクネの発見によって、尾節の有無もその基準の1つとして検討がなされている(尾節のあるクモはありえる、もしくは尾を欠くこともクモの定義の1つとなる)[1][3]。例えば Wunderlich (2019) や Wunderlich & Müller (2022) はクモ目(Araneida)をキメララクネが所属するキメララクネ科(後述)と残り全てのクモ(狭義のクモ目、Araneae)を含んだ分類群と再定義し、キメララクネ科をキメララクネ亜目(Chimerarachnida)に含めて現生のクモ(Araneae)と区別した[3][4]

近縁と下位分類

キメララクネ(サソリオグモ属 Chimerarachne)はキメララクネ科(Chimerarachnidae)の模式(タイプ属)である[3][4]。本科は創設当初では単型としてキメララクネ・インギ(Chimerarachne yingi)のみ含んでいたが[3]、Wunderlich & Müller (2022) では Wunderlich によって2つ目の属パラキメララクネ(Parachimerarachne longiflagellum)が記載され、体長の倍以上に長い尾節で本属から区別されている[4]。なお、Wunderlich (2023) では P. longiflagellum がキメララクネ属として再分類されると同時に、3種(C. alexbeigelC. patrickmuellerC. spiniflagellum)が新たに記載された[5]

脚注


  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak Wang, Bo; Dunlop, Jason A.; Selden, Paul A.; Garwood, Russell J.; Shear, William A.; Müller, Patrick; Lei, Xiaojie (2018-04). “Cretaceous arachnid Chimerarachne yingi gen. et sp. nov. illuminates spider origins” (英語). Nature Ecology & Evolution 2 (4): 614–622. doi:10.1038/s41559-017-0449-3. ISSN 2397-334X. https://www.researchgate.net/publication/322938021. 
  2. ^ a b c d e f Dunlop, J. A., Penney, D. & Jekel, D. 2023. A summary list of fossil spiders and their relatives. In: World Spider Catalog. Natural History Museum Bern, online at http://wsc.nmbe.ch, version 23.5. Accessed on 02 May 2023.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n J. Wunderlich. 2019. What is a spider?. Beiträge zur Araneologie 12:1-32
  4. ^ a b c d e f g h i j k l Wunderlich, Joerg & Müller, Patrick (2022). “Some fossil spiders in Cretaceous amber from Myanmar (Burma) (Araneida: Chimerarachnida and Araneae)”. In: Wunderlich, Joerg (ed). Five papers on extant spiders (Araneida) as well as on fossil spiders and Ricinulei. Beiträge zur Araneologie (Beitr. Araneol.). Vol. 15. Joerg Wunderlich. pp. 119–173.
  5. ^ a b c d e f g Wunderlich, J. (2023). “Contribution to the spider (Araneida: Araneae and Chimerarachnida) fauna in Upper (Mid) Cretaceous Burmese (Kachin) amber”. Beiträge zur Araneologie 16: 162-215. http://www.joergwunderlich.de/Downloads/Beitr._Araneol._Band_16_(2023).pdf. 
  6. ^ a b c d e Huang, Diying; Hormiga, Gustavo; Cai, Chenyang; Su, Yitong; Yin, Zongjun; Xia, Fangyuan; Giribet, Gonzalo (2018-04). “Origin of spiders and their spinning organs illuminated by mid-Cretaceous amber fossils” (英語). Nature Ecology & Evolution 2 (4): 623–627. doi:10.1038/s41559-018-0475-9. ISSN 2397-334X. https://www.nature.com/articles/s41559-018-0475-9. 
  7. ^ a b c d e f g h i Remarkable Tailed Arachnid Found in Burmese Amber | Paleontology | Sci-News.com” (英語). Breaking Science News | Sci-News.com. 2020年9月2日閲覧。
  8. ^ Norman I. Platnick, Gustavo Hormiga, Peter Jäger, R. Jocqué, Martín J. Ramírez, Robert J. Raven 著、西尾香苗 訳、ノーマン・I・プラトニック 編『世界のクモ 分類と自然史からみたクモ学入門』奥村賢一・小野展嗣 監修、グラフィック社、2020年11月、26, 40頁。ISBN 978-4-7661-3399-8OCLC 1227249501https://www.worldcat.org/oclc/1227249501 
  9. ^ a b Dunlop, Jason A.; Lamsdell, James C. (2017). “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3): 395. ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  10. ^ a b c d e Why This Ancient Spider Had a Tail” (英語). National Geographic News (2018年2月6日). 2020年9月2日閲覧。


「キメララクネ」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  キメララクネのページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「キメララクネ」の関連用語

キメララクネのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



キメララクネのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのキメララクネ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS