オルタナティブ教育
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 23:55 UTC 版)
歴史
教育学者の間での論争は古くからあるが、「オルタナティブ(代替、選択)教育」と言うからには、オルタナティブ主義者が反対している何らかの一般的な概念が存在することを前提にしている。そのため「オルタナティブ教育」は、通常、教育の標準化が起こり初等・中等教育が義務となった19世紀の間に生じた考えで、古くとも18世紀以前に遡ることはない。
過去の批判者の多くも現代の批判者と同じく、若者の教育は既存の方法とは徹底的に異なるものであるべきだと主張していた。19世紀には、スイス人の人道主義者ヨハン・ハインリヒ・ペスタロッチ、アメリカ人の先駆論者ラルフ・ウォルド・エマーソン、ヘンリー・デイヴィッド・ソロー、アモス・ブロンソン・オルコット (Amos Bronson Alcott)、また教育進歩主義を作り上げたジョン・デューイやフランシス・ウェイランド・パーカー (Francis Wayland Parker)、そして教育界のパイオニアであるマリア・モンテッソーリやシュタイナー学校を設立したルドルフ・シュタイナーなどは皆「教育というものは成長する子どもの道徳観、感情面、身体面、精神面、スピリチュアルな面を磨く芸術とみなされるべきだ」と主張した。
一方、レフ・トルストイやフランセスク・フェレル・イ・グアルディア (Francesc Ferrer i Guàrdia) といったアナーキスト達は、「教育とは政治的自由を得て、宗教と分離し、階級差を取り除くものである」と強調した。
もう少し近代になってからは、ジョン・ホルト、エバレット・ライマー、イヴァン・イリイチ[注 1]、ポール・グッドマン(Paul Goodman)、フレデリック・マイヤー、ジョージ・デンソン (George Dennison)といった社会評論家達が、教育というものを個人主義、アナキズム、自由意志論といった観点から考察し、慣例化している既存の教育法は若者の見識を型にはめることによって民主主義を堕落させていると非難している。同時に、教育理論革命がブルデューの再生産論、アルチュセールのイデオロギー国家装置論を機にして、フーコーの監獄の誕生におけるディシプリン権力批判が加わり、バジル・バーンステインの言語社会学、マーティン・カーノイ、ヘンリー・ジルー、さらにマイケル・アップルやゲオフ・ウィッティらの「教育知」・カリキュラム批判へと深化されたことが、オルターナティブ教育の動きに並走していたことを見逃してはならない。理論転換と実際教育の双方からの動きである。教育革命を起こしたパウロ・フレイレたちから、アメリカの教育者であるジョナサン・コゾルやハーバート・コール(Herbert Kohl)に至るまで、様々な者が左翼リベラルおよび急進的な政治観点から、西洋の主流教育法を批判した[注 2]。
注釈
- ^ ラーマーとイリイチが、メキシコの研究所CIDOCにて「deschooling(脱学校(化)、非学校化)」を提起し、フレイレもそこに参画し、世界中へ広がった。
- ^ 日本では周郷博がオルターナティブ教育にいち早く関心を示し(『周郷博教育著作集』柏樹社)、イリイチに師事した山本哲士が教育批判を徹底して理論化している。山本哲士『教育の幻想 学校の幻想』(ちくま学芸文庫)、『教育の政治 子どもの国家』『<私>を再生産する共同幻想国家・国家資本』(共に文化科学高等研究院出版局)、山本は大学教師になる前に「オルターナティブ学習塾」を実行している(『学ぶ様式』新曜社)。フレイレは、小沢有作、里見実らが翻訳導入し、シュタイナーは子安美知子らが紹介した。
出典
- ^ Dictionary.com: alternative school(英文)
- ^ Amazon.co.uk Alternative Approaches to Education: A Guide for Parents and Teachers: Introduction P.3(英文)
- ^ "Alternative Schools Adapt," by Fannie Weinstein. The New York Times, June 8, 1986, section A page 14.(英語版記事の参考文献)
- ^ Massachusetts Department of Education: About Alternative Education(英文)
- ^ 国立教育政策研究所 社会教育実践研究センター:社会教育主事講習 生涯学習概論『外国の社会教育の歴史と動向』澤野由紀子
- ^ ノルウェー国公式サイト:教育と研究『ノルウェーのフォルケホイスコーレ』
- ^ 国立特殊教育総合研究所 知的障害教育研究部 平成13年度「生涯学習施策に関する調査研究」報告書 『ノルウェーにおける障害のある人の生涯学習』(pdf)
- ^ 韓国の代案教育の歩みと今後の課題 ―日本の代案教育との交流を通して―
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