N-1問題とは? わかりやすく解説

N-1問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/13 06:28 UTC 版)

経済学において、N−1問題(えぬまいなすいちもんだい、: N − 1 problem あるいは Redundancy problem)とは、国際経済の政策手段と政策目標の整合性に関する問題である。

概要

例えば、世界にNヵ国の国が存在するとする。このとき、Nヵ国がそれぞれ独自の通貨を持っているとすると、この世界にはN種類の通貨が存在する。すると、この世界にはN-1個の独立的な為替レートおよび国際収支が存在する[1][2]。為替レートに関しては、基本的に中心国通貨(例えばアメリカドル)との対比で決定されるため、この世界では独立的な為替レートはN-1個しかない。独立的でない残りの為替レートはクロスレートとして算出される。また、国際収支に関しては、定義上、全世界の国際収支(資本収支・経常収支)の黒字・赤字を合計するとゼロになるため、N-1ヵ国の国際収支が決定されれば、おのずとN番目の国の国際収支は決定される[3][4]。通常、自国の為替レートが減価すると、ほかの条件が変わらないならば、自国の国際収支は改善することになる[注 1]。しかし、この世界にはNヵ国が存在するのに対し、独立的な為替レートおよび国際収支はN-1個しかないため、すべての国が同時に国際収支の目標を達成することはできない[4]。すべての国が国際収支の目標(たとえば経常収支の黒字化)を達成しようとすれば、達成できない国が発生するか、もしくは通貨安競争に陥る可能性すらある[5]。このような国際的な政策手段と政策目標の整合性の問題をN-1問題という。

現実世界におけるN-1問題

ブレトンウッズ体制

N-1問題はもともとロバート・マンデルRobert Mundell (1969))がRedundancy problem(政策手段の過剰問題)として取り上げたものである[5]。後にロナルド・マッキノン英語版がN-1問題とブレトンウッズ体制とを結びつけた[5]。ブレトンウッズ体制下では各国が自国通貨をアメリカドルに固定した。N番目の通貨としてドルが選ばれたことで、アメリカは整合的な為替レート体系を維持するため、為替レートについての目標も外国為替市場への直接介入も放棄し、残りの国であるN-1ヵ国が設定する政策目標を受け入れ、為替レート・国際収支に関して受動的にならなければならなかった[6]。これはアメリカのビナイン・ネグレクト(Benign neglect, 優雅なる無視)政策と呼ばれる。

なお、ブレトンウッズ体制はすでに崩壊したが、現代にブレトンウッズ体制が再来しているという説が存在する(ブレトンウッズ2仮説)。

EMS

かつてヨーロッパに存在したEMSでは、ヨーロッパ諸国の複数の通貨のバスケット通貨であるECUが共通の計算単位として用いられていたが、実際にはドイツマルクが介入通貨・準備通貨ともに中心となっており、実質的にはマルクが「N番目の通貨」としての役割を果たしていた[7]

脚注

注釈

  1. ^ 輸出国通貨建てで貿易をしているとすると、自国の輸出品の、貿易相手国通貨建て価格が下落するため、貿易相手国は自国の輸出品を買いやすくなる。すると、自国の輸出が増え、自国の経常収支が改善する。

出典

  1. ^ Maria Cristina Marcuzzo, Lawrence H. Officer, Annalisa Rosselli. 2002. Monetary Standards and Exchange Rates -Routledge History Explanation-. Routledge. p.38.
  2. ^ 河合正弘 1989, p. 39.
  3. ^ Giancarlo Gandolfo. 1995. "International Economics Two." Springer Science & Business Media. p.227.
  4. ^ a b Alan Professor Winters. 2002. International Economics. Routledge. p.397.
  5. ^ a b c 河合正弘 1989, p. 42.
  6. ^ 松浦一悦「「ドル本位制」に関する一考察」『東京経大学会誌(経済学)』第273巻、東京経済大学経済学会、2012年、87頁、hdl:11150/780 
  7. ^ 藤田誠一「EMSにおける非対称性」『国民経済雑誌』第166巻第2号、神戸大学経済経営学会、1992年8月、16頁、doi:10.24546/00174854hdl:20.500.14094/00174854ISSN 03873129CRID 1390853649855077632 

その他

  • Robert Mundell (1969). Robert Mundell and Alexender. K, and Swoboda.. ed. “The Redundancy problem and the World price level”. Monetary problems of International Economy (Chicago university): 379–382. 
  • 河合正弘「国際通貨システム:「n-1問題」,国際通貨,クレディビリティ」『金融研究』第8巻第1号、日本銀行金融研究所、1989年、37-84頁、ISSN 02875306CRID 1520010380506068480 

関連項目


N-1問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/01/24 03:55 UTC 版)

グローバル・インバランス」の記事における「N-1問題」の解説

詳細は「N-1問題」を参照 世界にNカ国が存在するとする。このとき、独立した為替相場目標N-1通りしか存在せず、Nヵ国すべてが為替相場目標達成しようとすると非整合発生してしまうという問題をN-1問題(英:N-1 problem)と呼ぶ。つまり、通貨当局がN個あるならば、独立した金融政策はN個あるにもかかわらず独立した為替相場の数はN-1個である。例えば、N=3のとき、独立した為替相場2組だけであり、残り1組為替相場は他の2組クロス・レートとして算出される。このとき、全ての国が国際収支黒字にしようとしたり、全ての国が為替レート切り下げようとすると、近隣窮乏化政策となってしまう。これを解決しようとするならば、N番目の国が中心国となり、自らは為替相場目標国際収支目標持たず、(周辺国為替相場国際収支目標に対して受動的な立場にならなくてはならない後述ブレトン・ウッズ体制アメリカがこのN番目の中心国になるという体制であった。このブレトン・ウッズ体制下のアメリカ中心としての受動的な政策はビナイン・ネグレクト政策(英:benign neglect)と呼ばれる

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