キーストーン種
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/04/06 02:21 UTC 版)
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キーストーン種(キーストーンしゅ、英: Keystone species)または中枢種(ちゅうすうしゅ)とは、生態系において生物量や個体数が比較的少ないにもかかわらず、不釣り合いに大きな影響を与える生物種を指す生態学用語。生態学者のロバート・トリート・ペインによって提唱された概念。生態系へ大きな影響を与える生物種であっても、生物量が多く群集を占有する優占種とは区別される。
判定
ある生物種がキーストーン種であるか否かという判断は、「少ない生物量」と「大きな影響」という2つの条件を満たす必要がある。具体的には、生物が生物群集に与える影響である群集重要度 (CI: community importance) と、その生物の生物量が群集全体に占める割合を算出し、先述の2条件を満たすかどうか確認することが提示されている (Power et al. 1996)。ただし、実際の生態系において定量的に評価することは容易ではない。
また、群集構造や環境条件が異なると生物と生態系の相互作用も異なるので、生態系ごとにキーストーン種となる生物種は異なる。
キーストーン種と他の概念との違い
キーストーン種は、生物量や個体数が比較的少ないにもかかわらず、生態系に対して不釣り合いに大きな影響を与える種を指すが、その影響の現れ方にはいくつかの類型がある。
キーストーン捕食者
キーストーン捕食者(keystone predator)は、捕食を通じて被食者の個体数や行動を制御し、群集構造や生物多様性に影響を与えるキーストーン種の一類型である。捕食者の存在により、特定の競争優位種の独占が抑制され、複数の種の共存が維持される場合がある。
生態系エンジニア
生態系エンジニア(ecosystem engineer)は、物理的環境そのものを改変することによって他の生物に影響を与える生物を指す。例えば、ダムの構築や巣穴の形成などにより、生息環境の構造を変化させる。これらの種は必ずしもキーストーン種であるとは限らないが、影響の大きさによってはキーストーン種として扱われることもある。
概念の違い
キーストーン種は「影響の大きさ」によって定義される概念であるのに対し、キーストーン捕食者は「捕食による影響様式」、生態系エンジニアは「環境改変による影響様式」に着目した分類である。このため、同一の種がこれら複数の概念に該当する場合もある。
キーストーン捕食者
キーストーン種は捕食行動を通して生態系に影響を与えることが多く、このようなキーストーン種をキーストーン捕食者 (keystone predator) と呼び、その捕食をキーストーン捕食 (keystone predation) と呼ぶ。キーストーン捕食者は、オオカミのように食物連鎖における上位の捕食者であることも多いが、下位の捕食者であることも少なくない。
キーストーン捕食者の例
- 北太平洋岩礁潮間帯のヒトデ (Paine 1966)
- 当該地域の岩礁には、複数の生物が生息している。フジツボとカルフォルニアイガイは、共に同じ固着面を奪い合う同じ生態的地位を占める競争状態にあるが、両者の捕食者であるヒトデが共存している場合は、競争排除は起こらなかった。ヒトデを人為的に排除すると、イガイが岩礁の殆どの面を占有し、他の多くの生物が減少した。このことから、この系ではヒトデがキーストーン捕食者であると考えられる。
- 北太平洋沿岸のラッコ (Estes et al. 1998)
- 北太平洋沿岸では、1990年代にラッコの減少に伴い、その餌となっていたウニの個体数が増加した。ウニがジャイアントケルプの仮根を食い荒らしたため、ジャイアントケルプの海中林が破壊され、生物群集に影響が出た。ステラー海牛が18世紀に発見された当時にすでに個体数と生息範囲が少なかったのも、世界的なラッコ猟の結果として大量増加してしまったウニによるコンブなどへの被害が関与しているという説もある[1]。
トロフィックカスケード
キーストーン捕食者の影響は、被食者のみならず、その下位の栄養段階(被食者の資源生物など)にも連鎖的に及ぶ。このような現象はトロフィックカスケード(栄養段階カスケード)と呼ばれる。例えば、捕食者の存在により草食動物が減少または行動を変化させることで、植物群落が回復することが報告されている。
また、捕食者は被食者を直接捕食するだけでなく、捕食リスクによって被食者の行動や生息場所を変化させる。このような影響は非消費効果(non-consumptive effects)または恐怖効果(fear effect)と呼ばれる。
キーストーン捕食者は必ずしも食物連鎖の頂点に位置するとは限らず、中間捕食者であっても特定の競争関係を制御することで同様の役割を果たす場合がある。
キーストーン種の概念は、生態学者ロバート・ペイン(Robert T. Paine)によって提唱された。ペインは1960年代に潮間帯におけるヒトデの除去実験を行い、特定の捕食者が群集構造に与える影響の大きさを示した。この研究により、特定の種が生物多様性の維持に不可欠であることが示された。
生態学的意義
キーストーン捕食者は、生態系の安定性や生物多様性の維持に重要な役割を果たす。そのため、保全生態学においては、これらの種の保護が生態系全体の維持につながると考えられている。
捕食者以外のキーストーン種
捕食以外の行動を通して生態系に影響を与えるキーストーン種もある。例えば、ビーバーは営巣によるダム作成を通じて生態系に大きな影響を与えるキーストーン種である。植物の種子を運搬する渡り鳥や陸地に栄養塩をもたらす海鳥などもキーストーン種になりうる。
脚注
- ^ Estes, James A.; Burdin, Alexander; Doak, Daniel F. (2016). “Sea otters, kelp forests, and the extinction of Steller's sea cow”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 113 (4): 880-885. Bibcode: 2016PNAS..113..880E. doi:10.1073/pnas.1502552112. PMC 4743786. PMID 26504217.
参考文献
- 宮下直、野田隆史『群集生態学』東京大学出版会、2003年。
関連項目
外部リンク
- EICネット 環境用語集:「キーストーン種」
- 熊本大学合津マリンステーション - 実習・講義 - 環境適応学 5.群集 - ウェイバックマシン(2019年1月1日アーカイブ分)
- Linking Keystone Species and Functional Groups: A New Operational Definition of the Keystone Species Concept
- 宮下直、「キーストーン種、生態系エンジニア、生態系機能(コメント,宮地賞受賞者総説)」『日本生態学会誌』 2010年 60巻 3号 p.321-322, doi:10.18960/seitai.60.3_321, 日本生態学会
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