蟬しぐれ一冊抜けば傾けり
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季 語 |
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季 節 |
夏 |
出 典 |
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前 書 |
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評 言 |
本棚から気になった本を何気なく手に取ろうとする。ぎっしりと詰まった本棚から本が抜けた瞬間、まるで古い扉の鍵が開いたかのように、コトッと隣の本が反対側の本に凭れ掛かる。手に取った本のどちら側の本が倒れるかなんて誰も気にするはずもなく、そこにはただ、傾いた本が背表紙に書かれたタイトルを少し可愛らしく見せているだけである。薄暗い部屋の外では、たくさんの蟬が一斉に鳴き始める。とても静かなこの部屋の寂しさを壁にしみ込ませるように。 掲句の作者である中山奈々は、五感のうちいくつを研ぎ澄まして俳句をつくるのだろうか。彼女の作品において、感覚的な部分はあくまでもスパイス。むしろ直感的とも思えるスピードで、彼女は句作に必要な技術のほとんどを身につけてしまったのかもしれない。季語と切れの持つ絶対的な力を信じることによって、着想は繊細でありながら大胆な省略と、流行り廃りとは無縁のどっしりとした句柄を手に入れている。1986年生まれ。現在「百鳥」「里」所属。これからも中山奈々にしか鳴らせない楽器を奏で続けて欲しいと願う。 |
評 者 |
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備 考 |
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