磯撫で
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2022/07/01 06:54 UTC 版)
磯撫で（いそなで）は、肥前松浦をはじめ西日本近海に伝わる怪魚[1][2][3]。江戸時代の奇談集『絵本百物語』に記述がある[3]。古書『本草異考』では巨口鰐（おおぐちわに）と呼ばれている[1]。
概要
外見はサメに似ており、尾びれに細かい針がおろし金のように無数にある[1][2]。
北風が強く吹くと現れ、近くの海を通りかかる船を襲う。その襲い方は実に巧みで、水を蹴散らして泳ぐのではなく、あたかも海面を撫でるかのように近づき[2]、人を襲うまでは決して姿を見せない。そして尾びれの針で人を引っ掛けて海中に落とし、食べてしまう[1][3]。
船に乗っている人は、磯撫での接近にまず気づくことはない。何となく海の色が変わったと思った時点で既に手遅れであり、仰ぐような風を感じると、それが海面から浮かび上がった磯撫での尾の起こした風である。磯撫でが現れたと気づいた頃には、既に尾びれで捕えられている結果となる[2]。
船乗りにとっては決して防ぐことのできない恐るべき存在であり、また魚を釣るはずの人間が逆に魚に釣り上げられてしまうという、皮肉な存在でもある[2]。
「磯撫で」の名の由来は、海面を撫でるかのような現れ方が由来という説や、尾びれで人を襲う様子が撫でるように見えるという説がある[1]。
三重県熊野市では、海辺に死人がいると「磯撫でに撫でられたのだろう」といわれたという[4]。
妖怪研究家・多田克己の推測によれば、この磯撫では想像上のものではなく、シャチのことを指しているとしている[5]。しかしシャチには磯撫でのような尾の針などはないが、多田克己は、室町時代頃に日本が中国や東南アジアと貿易し始めたことから、東南アジアに進出した日本人が現地のイリエワニを見て、そのイリエワニの背から尾にかけての突起が、磯撫での尾の針などの表現につながったと推測している[5]。
類話
島根県邇摩郡温泉津町（現・大田市）には「影鰐（かげわに）」という怪魚が伝わる[6]。出雲地方の海に棲む怪魚で、海面に映った船乗りの影を飲み込み、影を奪われた者は必ず死んでしまうという[7]。
影を飲まれそうになった船夫が逆に影鰐を銃で撃ち殺したところ、陸に上がって浜を歩いているとき、影鰐の骨が足の裏に刺さって死んでしまったという[8]。
脚注
- ^ a b c d e 多田克己 『幻想世界の住人たち』 IV、新紀元社〈Truth In Fantasy〉、1990年12月23日、149頁。ISBN 978-4-915146-44-2。
- ^ a b c d e 水木しげる 『妖鬼化』 5巻、Softgarage、2004年9月、79頁。 ISBN 978-4-86133-027-8。
- ^ a b c 村上健司編著 『妖怪事典』毎日新聞社、2000年4月、35-36頁。 ISBN 978-4-620-31428-0。
- ^ 「三重県熊野市荒坂地区ほか」『民俗採訪』通巻昭和34年度号、國學院大學 民俗学研究会、1960年、 5頁、 NCID AN00313874、2021年1月11日閲覧。
- ^ a b 多田克己 編 『竹原春泉 絵本百物語 桃山人夜話』国書刊行会、1997年6月、126-127頁。 ISBN 978-4-336-03948-4。
- ^ かつて日本で「鰐（わに）」はサメも指していた。「隠岐国産物絵図註書」「学研全訳古語辞典」
- ^ 村上 2000, p. 100.
- ^ 山崎里雨「影わに - 犬神・牛鬼・河童」『郷土研究』第7巻第4号、郷土研究社、1933年4月1日、 42頁、 NCID AN00059725、2021年1月11日閲覧。
関連項目
磯撫（いそなで）
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