環論的な定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/01 22:35 UTC 版)
初等的な議論では自然数に限定したが、環論的な文脈では上の定義を一般の環(ここでは単位的可換環とする)に置き換えることになる。よくある定義では条件2の b ∣ d {\displaystyle b\mid d} が b ≦ d {\displaystyle b\leqq d} となっているので、通常の大小関係が一般には定義できない環には拡張できないことに注意せよ。一般の環では最大公約数が存在するとは限らない。たとえば Z [ x 2 , x 3 ] {\displaystyle \mathbb {Z} [x^{2},x^{3}]} の元 x 5 , x 6 {\displaystyle x^{5},x^{6}} の最大公約数は存在せず、 Z [ − 5 ] {\displaystyle \mathbb {Z} [{\sqrt {-5}}]} の元 6 , 2 ( 1 + − 5 ) {\displaystyle 6,2(1+{\sqrt {-5}})} の最大公約数は存在しない。さらに、存在しても一意であるとは限らない。たとえば有理整数環 Z {\displaystyle \mathbb {Z} } では 4 {\displaystyle 4} と 6 {\displaystyle 6} の最大公約数は ± 2 {\displaystyle \pm 2} であり、多項式環 R [ X ] {\displaystyle \mathbb {R} [X]} では x 3 − x {\displaystyle x^{3}-x} と x 3 + x 2 − x − 1 {\displaystyle x^{3}+x^{2}-x-1} の最大公約数は c ( x 2 − 1 ) {\displaystyle c(x^{2}-1)} ( c ∈ R ∖ { 0 } {\displaystyle c\in \mathbb {R} \setminus \{0\}} ) である。しかし考えている環が整域であれば、最大公約数は存在すれば単元倍を除いて一意なのでそれぞれ単に 2 {\displaystyle 2} や x 2 − 1 {\displaystyle x^{2}-1} と書いてよい。 このように一般の整域でも最大公約数は存在するとは限らないが、すべての二つの元について最大公約数が存在するような整域をGCD整域と言い、特に一意分解整域であればGCD整域である。さらに単項イデアル整域であれば元 a 1 , … , a n {\displaystyle a_{1},\dots ,a_{n}} に対して ( a 1 , … , a n ) = ( gcd ( a 1 , … , a n ) ) = ( a 1 ) + ⋯ + ( a n ) {\displaystyle (a_{1},\dots ,a_{n})=(\gcd(a_{1},\dots ,a_{n}))=(a_{1})+\cdots +(a_{n})} が成り立ち、より強く多項式環やガウス整数環のようなユークリッド整域であればユークリッドの互除法を用いて最大公約数を求めることができる。この観点では自然数 a , b {\displaystyle a,b} の最大公約数が有理整数環 Z {\displaystyle \mathbb {Z} } のイデアル ( a ) + ( b ) {\displaystyle (a)+(b)} すなわち ( a , b ) {\displaystyle (a,b)} の正の生成元であるので、初等的には gcd ( a , b ) {\displaystyle \gcd(a,b)} を ( a , b ) {\displaystyle (a,b)} と書くことが正当化されていると解釈できる。特に、空集合の生成するイデアルが零イデアルであることから、空集合の最大公約数はやはり 0 {\displaystyle 0} である。
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