悲しみの聖母 (モラレス)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/26 01:36 UTC 版)
ロシア語: Скорбящая Богоматерь 英語: The Virgin Mourning (Mater Dolorosa) |
|
![]() |
|
作者 | ルイス・デ・モラレス |
---|---|
製作年 | 1570年代 |
種類 | 板上に油彩 |
寸法 | 82 cm × 57 cm (32 in × 22 in) |
所蔵 | エルミタージュ美術館、サンクトペテルブルク |
『悲しみの聖母』(かなしみのせいぼ、露: Скорбящая Богоматерь、英: The Virgin Mourning)は、スペインの画家ルイス・デ・モラレスが1570年代に板上に油彩で制作した絵画である。1814年にアムステルダムでW・コースフェルト (W. Coesvelt) から購入されて以来[1]、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に所蔵されている[1][2][3]。
作品
エル・グレコと同時代人であったモラレスは、スペインのマニエリスム様式を代表する画家の1人である。彼の絵画はラファエロとロンバルディア派の画家たちに強い影響を受けたが、聖書の物語と聖人の描写、神聖な主題により[1]「聖なるモラレス」と呼ばれた[1][2]。
イタリアの画家たちの聖母子が人生への愛を伝えているのに対し、モラレスの聖母子はどことなく悲劇的な調子を帯びている[4]。この悲劇性は、聖母マリアを描いた本作にもはっきりと現れている[4]。彼女は修道女を思わせる白い頭飾りと灰色がかった紫色の衣服を纏い、緑色のケープを身に着けている。左肩の方を向いている、青白い、やせ細った顔には悲しみの表情が浮かび、その頬には涙が流れている。胸の前に合わせられている手は骨と皮ばかりである[1]。その手を通して表現されている聖母の苦悩は、ピカソの「青の時代」の悲痛な母性愛にきわめて近い[2]。ここには慰めとなるものは見られない。寒色の使用、濃い影、画面の滑らかな仕上げのために、本作には一見して生命感が欠如しており、それらが図像の悲劇性を強調したものとなっている[1]。
なお、この図像は本来、イエス・キリストの磔刑像の傍らで立ち尽くす聖母であったものが独立し、礼拝用に流布したものである[2]。聖母の姿は使徒たちが去った世界に取り残され、悲しみに耐える教会の擬人像でもある。対抗宗教改革時代のスペインでは特に画家たちに好まれ、「ラ・ソレダー (La Soledad)」 (孤独の聖母) と呼ばれた[3]。
脚注
- ^ a b c d e f “The Virgin Mourning (Mater Dolorosa)”. エルミタージュ美術館公式サイト (英語). 2025年9月17日閲覧。
- ^ a b c d NHK エルミタージュ美術館 3 近代絵画の世界、1989年、153頁。
- ^ a b “Mater Dolorosa”. Web Gallery of Artサイト (英語). 2025年9月17日閲覧。
- ^ a b NHK エルミタージュ美術館 3 近代絵画の世界、1989年、151頁。
参考文献
- 五木寛之編著『NHK エルミタージュ美術館 3 近代絵画の世界』、日本放送出版協会、1989年刊行 ISBN 4-14-008625-4
外部リンク
- 悲しみの聖母 (モラレス)のページへのリンク