大井征とは? わかりやすく解説

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大井征

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/03 10:04 UTC 版)

大井 征(おおい ただす[1][2]1905年明治38年〉1月21日[1][2] - 1960年昭和35年〉4月15日[3])は、昭和のフランス文学者・フランス語学者・翻訳家。筆名は、映画評論で用いた春巴。戦前はアナトール・フランス、戦後はジャン=ジャック・ルソーの作品を主に翻訳したことで知られる。

事績

山口県山口市に生まれ、幼少の頃に東京へ移った。1927年(昭和2年)3月、法政大学を卒業。1929年(昭和4年)1月から法政大学予科でフランス語を講じ、1939年(昭和14年)まで在任した。同年、広島陸軍幼年学校陸軍教授として赴任し、1941年(昭和16年)には東京陸軍幼年学校教授へ転じ、終戦を迎えている。戦後は法政大学に戻り、文学部教授[2]や第二教養部長となった。また、中央大学明治大学でも講師をつとめている。日本フランス文学会と日本フランス語学会[注 1]に所属した[1]

1960年(昭和35年)4月15日、法政大学教授在任のまま、東京都順天堂病院にて肝硬変により死去[3][注 2]。享年56(満55歳)。

逸話・その他

法政大学学生時代は、誰もが認める抜群の学業成績であった。そのため特待生に推されるはずであったが、喫煙家であったため禁煙の規則を破り大学から処罰を受けた経歴を問題視され、特待生を逃したという。酒も相当に嗜んでいた。内田百閒によれば、大井には偏屈な一面があり、他人から何事かを制止されると、わざとそれをしないと気が済まなかったという[4]

内田百閒とは法政大学予科で同僚の教官となった。専門が異なるために師弟関係ではなかったが[注 3]、大井の学生時代から両者は見知っていた仲である。法政騒動により内田が法政大学を離れて以降も、両者の交友は大井が亡くなるまで続いた。内田は大井についての回想を「とくさの草むら」という随筆に書き残している。

歌人の佐藤佐太郎とも交友があり、戦後の混乱期に佐藤が出版業を始めようとした際に、大井は原稿を佐藤の下に持ち込んで原稿料をもらっていた。互いに生活が苦しい状況は明らかだったため、佐藤から原稿料をもらうのは心苦しかった、と大井は内田に漏らしている[5]

安藤徳器(大井より2学年年長)からは「畏友」と呼ばれており、『英米仏蘭聯合艦隊 幕末海戦記』については互いに協力し、知識を補い合いながら苦労して訳出したことが記述されている[6]

作品

〔著作〕

  • 豊島与志雄共著『仏蘭西文学の知識』(非凡閣、1934年)
  • 『世界文芸思潮 -フランス文学-』(法政大学通信教育部、1949年)
  • 『フランス語の基礎』(第三書房、1956年)※1961年、1969年(長谷川克彦共著)に改訂
  • 長谷川克彦共著『フランス語12章』(第三書房、1960年)

〔翻訳〕

  • 『英米仏蘭聯合艦隊 幕末海戦記』(アルフレッド・ルサン著、安藤徳器共訳。平凡社、1930年)
  • 『聖母と軽業師 他4篇 アナトール・フランス短篇集』(岩波書店、1934年)
  • 『メモアール・ダンファンス』(アナトール・フランス著、外語学院出版部、1938年)
  • 『プチ・ピエール物語』(アナトール・フランス著、新潮社、1939年)
  • 『花ざかりの頃』(アナトール・フランス著、白水社、1943年)
  • 『選ばれた男』(マグザンス・ヴァン・デル・メルシュ著、白水社、1944年)
  • 『孤独な散歩者の夢想』(J.J.ルソオ(ジャン=ジャック・ルソー)著、三笠書房、1949年)
  • 『懺悔録』上下巻(J.J.ルソオ著、三笠書房、1950年)
  • 『お梅が三度目の春』(ピエール・ロッチ(ピエール・ロティ)著、白水社、1952年)

注釈

  1. ^ 後に両者は合併して日本フランス語フランス文学会となる。
  2. ^ 1947年頃に、腎臓の摘出手術を受けたことがある(内田(1947)、202-203頁)。
  3. ^ 内田百閒はドイツ語、大井征はフランス語が専門であった。

出典

  1. ^ a b c 日本著作権協議会編(1961)、「第一部 著作者名簿」179頁。
  2. ^ a b c 「訳者略歴」J.J.ルソオ著, 大井訳(1950)、289頁。
  3. ^ a b 「大井 征 氏(法政大学仏文教授)」『読売新聞』1960年4月17日夕刊、7面。
  4. ^ 内田(1961)、191-192頁。
  5. ^ 内田(1961)、200-202頁。
  6. ^ 「本書の訳文に就いて」「自序」ルサン著, 安藤・大井訳(1930年)。

参考文献




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