光イオン化とは? わかりやすく解説

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光イオン化

(光電離 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/19 07:10 UTC 版)

光イオン化(ひかりイオンか、英語: photoionization)あるいは光電離(ひかりでんり)とは、入射光子によって原子イオン分子から一個ないしは複数個の電子が放出される物理過程である。これは、本質的には金属における光電効果に伴う過程と同一のものであるが、気体においてはこの「光イオン化」という用語がより一般的に用いられている[1]

放出された電子は光電子と呼ばれ、イオン化前の電子状態に関する情報を運ぶ。一例を挙げると、一個のみ放出された電子は、入射光子のエネルギー E photon から、放出されたときの状態における電子束縛エネルギー E bind を引いた値に等しい運動エネルギー E kin を持っている(E kin = E photon - E bind)。光子のエネルギーが電子束縛エネルギーに満たないときは、光子は吸光あるいは散乱され、原子やイオンを光イオン化することはない[1]

具体例として、水素のイオン化を考えてみよう。水素のイオン化エネルギー(電子束縛エネルギーに相当)は 13.6 eV であり、入射光子はこれより大きなエネルギーを有していなければならない。これは入射波長が 91.2 nm より短くなければならない、という条件に相当する[2]。光子のエネルギーがこの条件を満たしている場合、放出された光電子のエネルギーは次の式で与えられる。

多光子イオン化の一種である共鳴多光子イオン化英語版(REMPI) のエネルギー準位図。図の例ではエネルギー の光子を3個吸光することでイオン化準位 M+ を上回るエネルギーを得ている。共鳴多光子イオン化では共鳴準位 M*(基底準位とイオン化準位の間にあるいずれかの励起準位など)を経由するため、そうでない場合に比べイオン化の確率が上昇する。

個別にはイオン化閾値を下回るエネルギーしか持っていない複数個の光子が、実際には、原子をイオン化するためにエネルギーを持ち寄ることがある。その確率は、必要な光子の数が増えるに従い急激に減少する。しかし、上述したように、近年は高光強度パルスレーザーの発展によって実現可能となってきた。摂動領域(英語: perturbative regime. 光学的な各振動数において概ね 1014 W/cm2 以下)において、N 個の光子を吸光する確率 P は、レーザー光強度を I としたとき、IN 乗に比例する(PI N[5]

超閾イオン化英語版(または超閾電離英語: above-threshold ionization; ATI)[6]は、多光子イオン化の拡張であり、原子のイオン化に実際に必要な数よりも多くの光子を吸光するという現象である。その超過エネルギーによって放出電子は、閾値直上のエネルギーによるイオン化のような通常の場合よりも高い運動エネルギーを有するようになる。より正確に言えば、光電子スペクトル(光電子の、運動エネルギーに対する個数・頻度の分布)に、光子のエネルギーに相当する間隔を置いて複数のピークが見られる。これは、放出電子が通常の(可能な最小個の光子による)イオン化の場合よりも大きな運動エネルギーを持っていることを示唆している。

出典

  1. ^ a b Radiation”. en:Encyclopædia Britannica Online. 2009年11月9日閲覧。
  2. ^ Carroll, B. W.; Ostlie, D. A. (2007). An Introduction to Modern Astrophysics. en:Addison-Wesley. p. 121. ISBN 0321442849 
  3. ^ Delone, N. B.; Krainov, V. P. (1998). “Tunneling and barrier-suppression ionization of atoms and ions in a laser radiation field”. en:Physics-Uspekhi 41 (5): 469-485. Bibcode1998PhyU...41..469D. doi:10.1070/PU1998v041n05ABEH000393. 
  4. ^ Dichiara, A.; et al. (2005). "Cross-shell multielectron ionization of xenon by an ultrastrong laser field". Proceedings of the Quantum Electronics and Laser Science Conference. Vol. 3. en:Optical Society of America. pp. 1974–1976. doi:10.1109/QELS.2005.1549346. ISBN 1-55752-796-2
  5. ^ Deng, Z.; Eberly, J. H. (1985). “Multiphoton absorption above ionization threshold by atoms in strong laser fields”. en:Journal of the Optical Society of America B 2 (3): 491. Bibcode1985JOSAB...2..486D. doi:10.1364/JOSAB.2.000486. 
  6. ^ Agostini, P.; et al. (1979). “Free-Free Transitions Following Six-Photon Ionization of Xenon Atoms”. Physical Review Letters 42 (17): 1127?1130. Bibcode1979PhRvL..42.1127A. doi:10.1103/PhysRevLett.42.1127. 

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