仮借
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/08 08:42 UTC 版)
仮借(かしゃ)とは、六書の一つで、新たに語を記録する際に発音が同一・近似した既存の字を用いる方法である。
概要
後漢・許慎『説文解字・叙』の説明では、「本無其字,依声託事,“令”、“長”是也」と説明されている。言語中の特定の語が、文字として記録される前に、同音の字を借りてその意味を音によって託すことと解釈される。[1]
この方法で用いられる漢字を「仮借字」あるいは「仮借文字」と呼ぶ[2]。『説文解字・叙』では「令」や「長」がその例であるとされている。しかしこの2つは、特定の語を表記するのにその同音異義語の文字を用いる例(今日「仮借」と呼ばれるもの、後述)ではなく、単に特定の語の意味が拡大した例(いわゆる「引伸」)である。そのうえ『説文解字』の本文では、しばしば前者の例を強引に後者の例として説明している[注釈 1]。したがって漢代の六書の「仮借」とは、文字が当初とは異なる意味を表す現象全般のことであったようである。[3]
一方で現代の漢字研究においては、特定の語を表記するのにその同音・近音の文字を用いることのみを指して「仮借」と呼ぶのが普通であり、これは「引伸」とは区別される。この仮借には大きく分けて「本無其字」タイプと「有本字」タイプのものがある。なお、「本無其字」タイプの仮借のみを「仮借」と呼び、「有本字」タイプの仮借は「通仮」と呼ぶことで両者を区別する研究者もいる。仮借自体の性質としてはこの2種類に大きな違いはない。[2][4]
「本無其字」タイプの仮借は、もともとその語を記す文字が存在しなかったため、同音または近音の文字を借用して表記したものである。例えば、元々「去来」の「来」という言葉を表記する専用の文字は存在しなかったが、それを表記するために、音の近い、元々は「麦」を意味しその形も麦の象形である「来」という字を借りて用いるようになったのがその例である。[1][5]
「有本字」タイプの仮借は、既にその語を表記する文字が存在するが、それとは別の同音または近い音の文字を代わりに使用したもので、文献学における「通仮」と呼ばれる現象とほぼ等しい。「負荷」の「荷」という言葉を表記するのに、元々「何」という文字が存在したが、後に元々は「ハスの葉」を意味する「荷」という字を借りて用いるようになったのがその例である。[6][7]
脚注
注釈
- ^ 例えば、「韋」が「なめし革」と「違える」の両義を持つことについて、なめし革は相違えるものを束ねるものだからであるといった説明をしている。
出典
参考文献
- 裘錫圭 (2013). 文字學概要(修訂本). 北京: 商務印書館. ISBN 978-7-100-09370-5
- 沙宗元 (2008). 文字學術語規範研究. 合肥: 安徽大學出版社. ISBN 978-7-81110-393-9
関連項目
仮借文字
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