ホウセンカ (映画)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/14 03:42 UTC 版)
| ホウセンカ | |
|---|---|
| 監督 | 木下麦 |
| 脚本 | 此元和津也 |
| 原作 | 此元和津也 |
| 出演者 | 小林薫 戸塚純貴 満島ひかり ピエール瀧 |
| 音楽 | cero(髙城晶平・荒内佑・橋本翼) |
| 制作会社 | CLAP |
| 製作会社 | ホウセンカ製作委員会 |
| 配給 | ポニーキャニオン |
| 公開 | |
| 上映時間 | 90分 |
| 製作国 | |
| 言語 | 日本語 |
『ホウセンカ』(英 : The Last Blossom)は、2025年10月10日公開の日本のアニメーション映画。監督は木下麦、脚本は此元和津也、企画・アニメーション制作はCLAPが手掛ける。木下と此元はテレビアニメ『オッドタクシー』(2021年)以来のコンビとなる[1]。
刑務所で受刑中の無期懲役囚(元ヤクザ)が、独房内に置かれた鉢植えのホウセンカの声を聞き、過去を回想するという内容。
2025年のアヌシー国際アニメーション映画祭長編部門にノミネートされた(受賞はならず)[2]。
ストーリー
無期懲役囚として刑務所に服役する初老の男・阿久津実の独房には、空き缶に入った一鉢のホウセンカが置かれていた。そのホウセンカの声が阿久津に聞こえるようになる。ホウセンカは、かつて阿久津がある女性およびその息子と暮らしたアパートの庭先に以前植えられており、自分たちは個体として死んでも記憶は代々受け継がれると話して、阿久津がアパートに住み始めた1987年からの出来事について会話を始める。
阿久津はそのころ堤というヤクザの舎弟だった。同居する女性の永田那奈やその息子の健介は血縁のある家族ではなかった。それでも阿久津と那奈は休日に揃って町歩きを楽しむなど、つつましく暮らしていた。そんなある日、若手で進取的な組員の若松が、これからは土地で稼ぐ時代だと阿久津や堤に話す。阿久津は若松の言葉に従って土地取引で小金を手にし、舎弟を従える身分となった。民法の「取得時効」の条文を知った阿久津は、所有者と連絡のつかない近所の空き地に名前を書いた空のキャビネットを置いた。
懐が豊かになった阿久津は那奈に何か買ってほしいものがあるかと尋ねたが、那奈は何もねだらず、ただ自分と戸籍を入れてほしいと答える。極道と家族になることを案じる阿久津は、その願いを受け入れなかった。やがて那奈との感情がすれ違い始め、阿久津は自宅に帰らなくなった。
しばらくして久しぶりに帰宅した阿久津は、那奈から健介に異変があると告げられ、診断の結果心臓に重い病気があり、移植以外に治療法がないと判明する。移植手術には海外に行くしかなく、しかも保険が利かないため億単位の金額が必要だった。阿久津は堤に頭を下げて借金を申し込む。話を聞いた堤は、出す金を上積みする代わりに、移植ブローカーに頼んでより早く確実に手術が受けられるよう取り計らうと答え、若松を始末するついでに組の金庫から金を奪う計画を持ち掛ける。組のナンバーツーになった若松は跡目が確実視され、そりの合わない堤には目障りな存在だった。
若松が一人で金庫番をする時間を狙って阿久津と堤は事務所を襲撃する。だがそこで若松が発した言葉に堤は逆上し、計画とは違う手順で殺害してしまう。金を奪って逃走する車中で、罪をかぶって捕まってくれという堤に阿久津は銃を向け、健介への手術実行を約束させる。ブローカーへの支払を見届けてから阿久津は自首して強盗殺人の容疑で逮捕され、無期懲役の判決を受けた。
収監後の阿久津は1年間だけ那奈に手紙を送り、その後那奈とは全く音信不通となる。面会に来た堤は出所したら仕事を紹介すると話すが、阿久津はなぜ自分を破門したのかと問いかけ、山分けする約束だった残りの金のありかは、手術をした証拠を見せなければ教えないと答える。以後堤が面会に来ることはなかった。阿久津は模範囚として勤め、仮釈放の申請を2度出したが受け入れ先がないという理由でいずれも認められなかった。だが阿久津はある確信を持っていた。
登場人物
- 阿久津 実(あくつ みのる)
- 声 - 小林薫(現在)/戸塚純貴(過去)
- 本作品の主人公。ヤクザで若いころから左頬に傷跡を持つ。位置関係が正確な絵を描く才能がある(当人は頭の中に地図が見えるという)。
- ホウセンカ
- 声 - ピエール瀧
- 空き缶に植えられた一輪のホウセンカで、元は阿久津が暮らしたアパートの庭先に生えていたものの子孫。「生まれたてと死にかけの人間」だけが声を聞くことができ[3]、「ろくでもない一生だったな」が阿久津への第一声で[1]、その後も皮肉を交えたぞんざいな口調で阿久津の過去を語る。
- 永田 那奈(ながた なな)
- 声 - 満島ひかり(過去)/宮崎美子(現在)
- 阿久津とともに暮らしていた女性。同居し始めた当時は29歳[3]。
- 堤(つつみ)
- 声 - 安元洋貴
- 阿久津の兄貴分で、公式ウェブサイトの設定では阿久津が18歳の時に自分の元に置いた[3]。
- 若松(わかまつ)
- 声 - 斉藤壮馬
- 組の若手で、公式ウェブサイトによれば阿久津の3歳年下[3]。眼鏡をかけており、株や土地での金儲けを得意とする。
- 林田(はやしだ)
- 声 - 村田秀亮(とろサーモン)
- 阿久津の舎弟の一人。
- 小西(こにし)
- 声 - 中山功太
- 阿久津の舎弟の一人で、林田の弟分。
- 健介(けんすけ)
- 那奈の息子。回想の最初では赤ん坊だが、心臓病を発症したころには幼児となっていた。
スタッフ
- 監督 - 木下麦
- 原作・脚本 - 此元和津也
- 音楽 - cero(髙城晶平・荒内佑・橋本翼)
- キャラクターデザイン - 木下麦
- プロデューサー -
- 配給 - ポニーキャニオン
- 企画・制作 - CLAP
- 製作 -「ホウセンカ」製作委員会
製作
監督の木下によると、『オッドタクシー』の映画版制作が終わった2022年に、CLAPと新作を作る話になって企画がスタートした[4]。『オッドタクシー』で組んだ此元に複数の企画案を見せて、此元が選んだものを二人で議論して練った[4]。木下は「社会の枠組みや循環から少し外れた人間を描きたい」という理由から、当初よりヤクザものと決めていたという[4]。
植物を対話の相手とするアイディアは、「自然のメタファー」「人間の生活を俯瞰して見ているような、ちょっと人知を超えた存在」として、阿久津と対比させる意図があった木下は述べている[5]。その植物にホウセンカを選んだのは、種子が弾けるという特徴に惹かれたためで、作中に様々な「弾ける」モチーフを入れたという[5]。
阿久津を除く主要人物は、木下が特に設定を決めずに描いたキャラクターの絵を渡された此元が設定を作り、木下がそれをさらに補強するという形で作られた[5]。
メインキャストは全員指名(オーディションなし)で決められた[5]。ホウセンカ役をピエール瀧にしたのは「飄々としつつ達観しているトリッキー」な演技を求めたためと木下は述べている[5]。また、収録はすべてプレスコ(先録り)である[5]。現在の阿久津とホウセンカが対話する場面の収録は、ピエールと小林薫の2人きりでおこなわれた[6]。
音楽
劇中使用曲
メディア展開
半田畔によるノベライズ版が、2025年10月3日に集英社から刊行された[8]。映画本編のノベライズに加えてサイドストーリーが収録されているほか、監督の木下によるオリジナルイラストも掲載されている[8]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b 「ホウセンカ:中年、老人を主人公にした理由 「正しさでは測れない感情を時間で証明する物語」 此元和津也インタビュー」『まんたんウェブ』2025年10月19日。2025年11月9日閲覧。
- ^ 「文化往来 大人のアニメ「ホウセンカ」の木下麦監督「過去を取り戻す物語」」『日本経済新聞』2025年10月7日。2025年11月9日閲覧。
- ^ a b c d キャラクター - 『ホウセンカ』公式サイト
- ^ a b c 「「日陰で生きる人間に目を向けたかった」 映画『ホウセンカ』監督・木下麦インタビュー①」『febri』2025年10月15日。2025年11月9日閲覧。
- ^ a b c d e f 「「日陰で生きる人間に目を向けたかった」 映画『ホウセンカ』監督・木下麦インタビュー②」『febri』2025年10月16日。2025年11月9日閲覧。
- ^ 「木下麦×此元和津也が贈るアニメ映画「ホウセンカ」今秋公開、小林薫と戸塚純貴がW主演」『映画ナタリー』ナターシャ、2025年4月24日。2025年11月9日閲覧。
- ^ 「「日陰で生きる人間に目を向けたかった」 映画『ホウセンカ』監督・木下麦インタビュー③」『febri』2025年10月17日。2025年11月9日閲覧。
- ^ a b ホウセンカ - 集英社
外部リンク
- ホウセンカ_(映画)のページへのリンク