ハーンの分解定理の証明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 14:15 UTC 版)
「ハーンの分解定理」の記事における「ハーンの分解定理の証明」の解説
準備: μ は −∞ の値を取らないものと仮定する(そのような値を取る場合は、−μ について考えることとする)。上述のように、Σ 内のある集合 A が負集合であるとは、そのすべての Σ 内の部分集合 B に対して μ(B) ≤ 0 が成立することを言う。 主張: Σ 内のある集合 D に対して μ(D) ≤ 0 が成立すると仮定する。このとき、μ(A) ≤ μ(D) を満たすようなある負集合 A ⊆ D が存在する。 主張の証明: A0 = D とする。帰納的に、自然数 n に対してある集合 An ⊆ D が構成されているものとする。今、 t n = sup { μ ( B ) : B ∈ Σ , B ⊂ A n } {\displaystyle t_{n}=\sup\{\mu (B):B\in \Sigma ,\,B\subset A_{n}\}} は、An 内のすべての可測部分集合 B についての μ(B) の上限を表す。この上限は先験的に無限大であることもあり得る。tn の定義において、空集合 ∅ も B であり得るため、μ(∅) = 0 であることから、tn ≥ 0 が従う。tn の定義より、次を満たすような Bn ⊆ An が Σ 内に存在する: μ ( B n ) ≥ min { 1 , t n / 2 } . {\displaystyle \mu (B_{n})\geq \min\{1,t_{n}/2\}.} 今 An+1 = An \ Bn とする。また A = D ∖ ⋃ n = 0 ∞ B n {\displaystyle A=D\setminus \bigcup _{n=0}^{\infty }B_{n}} を定める。集合 (Bn)n≥0 は互いに素な D の部分集合であるため、符号付測度 μ のσ-加法性より μ ( A ) = μ ( D ) − ∑ n = 0 ∞ μ ( B n ) ≤ μ ( D ) − ∑ n = 0 ∞ min { 1 , t n / 2 } {\displaystyle \mu (A)=\mu (D)-\sum _{n=0}^{\infty }\mu (B_{n})\leq \mu (D)-\sum _{n=0}^{\infty }\min\{1,t_{n}/2\}} が従う。この不等式より μ(A) ≤ μ(D) が従う。今 A は負集合ではないと仮定する。すると Σ に属する A の部分集合 B で μ(B) > 0 を満たすようなものが存在する。このとき、すべての n に対して tn ≥ μ(B) が成立するため、右辺の級数は +∞ へと発散するが、これは μ(A) = –∞ を意味し、はじめの μ の定め方に矛盾する。したがって、A は負集合でなくてはならない。 分解の構成: N0 = ∅ とする。帰納的に Nn が与えられたとし、次を定義する。 s n := inf { μ ( D ) : D ∈ Σ , D ⊂ X ∖ N n } . {\displaystyle s_{n}:=\inf\{\mu (D):D\in \Sigma ,\,D\subset X\setminus N_{n}\}.} これは X \ Nn 内のすべての可測な部分集合 D についての μ(D) の下限である。この下限は先験的に –∞ となることもあり得る。D は空集合であることもあり、μ(∅) = 0 であるため、sn ≤ 0 となる。したがって Σ に属する Dn で、Dn ⊆ X \ Nn および μ ( D n ) ≤ max { s n / 2 , − 1 } ≤ 0 {\displaystyle \mu (D_{n})\leq \max\{s_{n}/2,-1\}\leq 0} を満たすようなものが存在する。上述の主張より、μ(An) ≤ μ(Dn) を満たすようなある負集合 An ⊆ Dn が存在する。Nn+1 = Nn ∪ An を定める。また N = ⋃ n = 0 ∞ A n {\displaystyle N=\bigcup _{n=0}^{\infty }A_{n}} とする。集合 (An)n≥0 は互いに素であるため、μ の σ-加法性より、Σ に属するすべての B ⊆ N に対して μ ( B ) = ∑ n = 0 ∞ μ ( B ∩ A n ) {\displaystyle \mu (B)=\sum _{n=0}^{\infty }\mu (B\cap A_{n})} が成立する。特にこのことは、N が負集合であることを意味する。今 P = X \ N を定義する。もし P が正集合でないのなら、Σ に属するある D ⊆ P に対して μ(D) < 0 が成立する。このとき、すべての n に対して sn ≤ μ(D) が成立することから、 μ ( N ) = ∑ n = 0 ∞ μ ( A n ) ≤ ∑ n = 0 ∞ max { s n / 2 , − 1 } = − ∞ {\displaystyle \mu (N)=\sum _{n=0}^{\infty }\mu (A_{n})\leq \sum _{n=0}^{\infty }\max\{s_{n}/2,-1\}=-\infty } となるが、これは μ の定め方に矛盾する。したがって、P は正集合である。 一意性の証明: ( N ′ , P ′ ) {\displaystyle (N',P')} を X {\displaystyle X} の他のハーン分解とする。このとき P ∩ N ′ {\displaystyle P\cap N'} は正集合でもあり、負集合でもある。したがって、この集合に含まれるすべての可測な部分集合の測度は 0 である。同様のことが N ∩ P ′ {\displaystyle N\cap P'} に対しても成り立つ。今 P △ P ′ = N △ N ′ = ( P ∩ N ′ ) ∪ ( N ∩ P ′ ) {\displaystyle P\,\triangle \,P'=N\,\triangle \,N'=(P\cap N')\cup (N\cap P')} であることから、証明は完成される。Q.E.D.
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