ストーカー_(1979年の映画)とは? わかりやすく解説

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ストーカー (1979年の映画)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/22 21:48 UTC 版)

ストーカー
Сталкер
監督 アンドレイ・タルコフスキー
脚本 アルカージー・ストルガツキー
ボリス・ストルガツキー
出演者 アレクサンドル・カイダノフスキーロシア語版
音楽 エドゥアルド・アルテミエフ
撮影 アレクサンドル・クニャジンスキー
編集 リュドミラ・フェイギノヴァ
製作会社 モスフィルム
公開 1979年8月
1981年10月31日
上映時間 164分
製作国 ソビエト連邦
言語 ロシア語
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ストーカー』(ロシア語: Сталкер, 英語: Stalker)は、1979年に公開されたソビエト連邦SF映画アンドレイ・タルコフスキー監督作品。原作はストルガツキー兄弟による小説『ストーカー[1]。犯罪の「ストーカー」とは無関係で、この意味が定着する前に製作された。作中では「密かに獲物を追うハンター」くらいの意味で用いられている。

「ストーカー」と呼ばれる案内人が、2人の依頼者とともに「ゾーン」と呼ばれる謎の地帯を探検し、疲労困憊で帰宅するまでと、その前後の「ストーカー」の家庭生活を通じ、人間の本性や欲望、信仰・愛を通じての魂の救済が描かれる。

スティーヴン・ジェイ・シュナイダーの『死ぬまでに観たい映画1001本』にも掲載されており、Rotten Tomatoesの支持率100%の映画のうちの1つでもある。

ストーリー

ある国。ある地域で「何か」(隕石が墜落したのではないか、と言及されるが、謎は明かされない)が起こり、政府はそこへ軍隊を送るが誰一人戻って来なかった。政府はそこを「ゾーン」と呼んで立ち入り禁止にした。やがて、「ゾーン」内には「入ると願いが叶う部屋」があると噂されるようになり、「ゾーン」近傍の町では、「ストーカー」と呼ばれる、厳重な警備をかいくぐって希望者を「ゾーン」に案内してわずかな収入を得る人々が現れ始めた。

「科学者」と「作家」と名乗る二人の男性が「『部屋』に連れて行ってくれ」とストーカーに依頼し、ある日の夜明け前、3人は出発する。ストーカーは「『ゾーン』には無数の罠が仕掛けられている。何があっても私の指示に従い、勝手な動きをしてはいけない」と告げる。「ゾーン」ではストーカーが告げたとおり、予想のつかない謎の現象がつぎつぎに起こり、「乾いたトンネル」や「肉挽き機」と呼ばれる場所で危機を迎えたが、なんとか切り抜ける。

その道行きの中、3人は、「ゾーン」とは何か、「部屋」とは何か、そして信仰とは何かを論じ合う。教授はストーカーの師であったヤマアラシがゾーンから戻ると大富豪になったが、その一週間後に首を吊ったと語る。自分は『部屋』に入らないのか?とたずねられたストーカーは、自分は今のままでいいと返答した。

3人は「部屋」にたどり着いた。すると、科学者は荷物から小型核爆弾を取り出し、部屋を破壊しようとした。科学者は「『部屋』が何者かに悪用されるのを防ぐためだ」と語った。ストーカーは「ここは地上に残された最後の希望なのです」と叫び、必死で止めようとしてもみ合いになるが、それを見ていた作家はストーカーに向かって「おまえは偽善者だ」となじる。さらに作家は「部屋」は、人の表面上の願いでなく無意識の欲望を実現するの装置だと喝破する。ヤマアラシが自殺したのも我欲に負けたからではなく、「肉挽き機」で死んだ弟を蘇らせたい一心で「部屋」に入ったが、「部屋」から与えられたものは大金であり、自身の本性を突きつけられた彼は、良心や心の痛みは自分の本質ではないと悟った末に首を吊ったのだと推測する。作家はヤマアラシの二の舞になるまいと「部屋」に入らないと宣言する。科学者はゾーンに来た理由がわからなくなり、爆弾を分解し始める。ストーカーは家族でゾーンに移り住む妄想を語る。「部屋」の中には雨が降り始め、科学者は爆弾の部品のいくつかを部屋に投げ込む。その後、3人は「ゾーン」をあとにした。

帰宅したストーカーは「あいつらは信じるための器官が退化しているに違いない。」と妻に不満をぶつけ、部屋を必要としている人はいないと嘆き、もう誰も連れて行かないと告げる。妻は自分にも希望があるから自分が行こうかと提案するもストーカーはもしものことがあったらと心配するが故に申し出を拒絶し、眠りにつく。

ここで妻が映画の観客に向かい、自分とストーカーとの出会いや、娘の足が不自由であることなどについて話し、自分に言い聞かせるように「苦しみがなければ幸せもないでしょうし希望もありませんから」とつぶやく。

ストーカーの娘は部屋でひとり詩集を黙読し、気に入った詩を反芻していた。娘がテーブルの上のコップを見やると、コップはすべるように動き、そのまま床に落ちた。娘はそれが通常のことのように平然としていた。直後、家全体がけたたましく振動し、すぐそばの線路を列車が通過していった。(ここで歓喜の歌が流れる。)

キャスト

製作

タルコフスキーにとって『惑星ソラリス』に続くSF映画であるが、空想科学的な描写や演出はほとんどない。作中においてSF的要素が示されるのは、冒頭の「ノーベル賞受賞者ウォーレス教授がRAI記者に語った言葉」を示す短い字幕だけである。これは、タルコフスキーの構想が着想から公開までに大きく変わった結果である。

タルコフスキーが最初に原作に注目し、副収入を得るべく、他の監督のために脚本化してもいいと考えた1973年初めから、彼自身にとって「最も調和のとれた形式をとりうる」構想と見なし始め、1974年末から1975年初めまでに「合法的に超越的なものに触れる可能性」を見出し、最終的なヴァージョンに至るまでに2度の撮影を経た。本作の撮影はタルコフスキーの全作品中、最も準備不足の状態で始まり、スタッフとの軋轢や脚本の全面的な書き換えもあってトラブル続きであった[2]

タルコフスキーのこれ以前の作品と比べて長回しが多く、現実的な時間の持続を強調している。物語が展開する時間は、明示されているわけではないが、まる1日(早朝から夕方)であると思われる。

タルコフスキーの他の作品同様、「」が重要なモチーフとして登場するが、それまでの作品とは異なり、重油と思われる油が浮いていたり文明の遺物が底に沈んでいたりして、美しくはない。

場面ごとに大きく(モノクロームとカラーの転換)、あるいは微妙に変化する色調や、冒頭でストーカーが登場するシーンのカメラワークに、中世ロシアのイコンの規範が影響しているという研究者[誰?]もいる。

後半にはタルコフスキー作品特有の難解な台詞回しが見られる。

「ゾーン」の描写は、本作公開後の1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故に似ている。アメリカCBSの「60ミニッツ」によれば、チェルノブイリ近辺の立ち入り禁止区域で働いている作業員達は自分らをストーカーと呼んでいると言う。この辺の事情は、ロシアの評論家が、パステルナークの一節、「詩人に欠員が出たら大変な事だ。仮にその席が埋まったにしても。」を引用し、タルコフスキーの『天使性』に言及している[要出典]。ただし、タルコフスキーに預言者的・宗教家的な芸術家像を見ようとする見方自体は、芸術家のメシア的使命を強調する19世紀以来のロシアの文化的伝統にもとづくものともいえ、実証性には欠ける[2]

関連作品および影響

  • 願望機 (МАШИНА ЖЕЛАНИЙ) - 原作者であり映画のシナリオを担当したストルガツキイ兄弟による初期シナリオのひとつ。『願望機』というタイトルは映画化がソ連の映画雑誌に報じられたときの当初のタイトルでもある[3]。日本語版は深見弾訳・群像社・1989年刊。
  • 大江健三郎の小説『静かな生活』の一章「案内人(ストーカー)」は、登場人物が本作について考察するエピソードである。
  • S.T.A.L.K.E.R. SHADOW OF CHERNOBYL - ファーストパーソン・シューティングゲームウクライナのゲーム会社が制作、2007年に発売された。本作の影響を非常に強く受けている。
  • 宮澤伊織による日本の小説およびそれを原作とした漫画・アニメ『裏世界ピクニック』は、ストルガツキー兄弟の『ストーカー』を意識した作品で「ゾーン」という語も作中にある。
  • 岡村天斎による日本のテレビアニメDARKER THAN BLACK -黒の契約者-』に登場する「地獄門(ヘルズ・ゲート)」は、ストルガツキー兄弟の『路傍のピクニック』に登場する「ゾーン」をモチーフとしている。
  • 宮崎駿はテレビ放映時に後半しか視聴しなかったが、「『ストーカー』なんかがそうであるように、目の前で浅い水がゴミを含んでスーッと流れてくショットを観ただけでね、『これは、正座して観なきゃいけない映画だ』というふうに」と本作品を高く評している。なお部屋については「『あっ、俺もあの”ゾーン“っていう部屋には絶対入らんな』と思ってね。まあ俺が入って自分の姿なんか見つけたってしょうがないじゃないかとーーどうせガラクタしか入ってないと思ってるから(笑)」と述べている。[4]

脚注

  1. ^ 『ストーカー』深見弾訳 早川書房 1983.原題は Пикник на обочине=路傍のピクニック(訳表記は訳者あとがきに基づく)
  2. ^ a b 西周成著『タルコフスキーとその時代―秘められた人生の真実』、ISBN 978-4-434-15489-8、アルトアーツ/星雲社、2011年、pp.131-140.
  3. ^ 訳者あとがき P.210
  4. ^ ロッキング・オン『風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡』、2002年7月19日発行 (15、16、32ページ「風が吹き始めた場所 一九九〇年十一月『Cut』創刊号インタヴュー」) 

外部リンク


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