物カハノ蔵人
- 〔十訓抄〕一、後徳大寺左大臣、小侍従と聞えし歌よみに通ひ給ひけり、或夜物がたりして、暁帰りける程に、此人の供なりける蔵人といふものに、いまだ入りもやらで見送りたるが、ふりすてがたきに、立ち帰りて、何事にてもいひてことの給ひければ、ゆゆしき大事かなと思へど、程経べき事ならねば、やがて走り入りて、車寄に女の立ちたる前についゐて、申せと候ふとは、左右なくいひはてたれど、何といふべしとも覚えぬに、折しも所の鶏、声声鳴きいでたりければ、ものかはと君がいひけん鳥の音の今朝しもなどか悲しかるらんとばかり言ひかけて、やがて走りつきて、車寄にてかくこそ申して候ひつれと申しければ、いみじくめでられけり。待宵(マツヨヒ)ノ小侍従参照。
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