Microsoft Windows Vista
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/03 02:13 UTC 版)
特徴
従来のWindowsにはない新機能が多数搭載され、これまでのWindowsとはかなり異なる印象を受ける。また、Windows XPまで存在した「マイ コンピュータ」や「マイ ドキュメント」などの伝統的なフォルダの名称から「マイ」が外れ、単に「コンピュータ」や「ドキュメント」と呼ばれるようになった。
ユーザインタフェース
- Windows Aero
- 3D グラフィックを使用し、透過ウィンドウ、フリップ3Dなどの視覚効果が可能。詳細は「#視覚スタイル」を参照。
- これらの視覚効果は、従来の画像処理APIであるGDIに代わってDirectXを用いて処理されるようになっており、GPUを使用するようになっている。このため、高性能なGPUを搭載している場合においては、GDIを用いた従来の場合よりも高速な処理を期待できる。反面、パソコンのスペックによっては、Windows Aeroを有効にすることによりパフォーマンスが落ちることがある。また既存のアプリケーションが正常に動作することは保証されておらず、Aeroが有効になっていると描画に不具合が発生するアプリケーションも存在する。
- リボン
- 従来のメニューに代わり、タブで切り替えアイコンを中心としたボタンをクリックすることで操作する手法。同時発売のOffice 2007から採用された。従来のメニューでの操作に慣れていた人からは分かりづらいという批判もある。
- シェル
- スタート メニューが整理され、表示方法やフォルダ ウィンドウの操作性などが変更された。これにより、マウスの移動距離そのものは若干だが少なくて済むようになった。タスクバーの内容がサムネイル表示できるようになった(ウインドウ プレビュー機能)。これによりフォルダの中身を表示したり、アイコンの大きさを自由に変更できるようになったため、ファイルやその内容の確認がしやすくなり可視性が向上した。
- 音声認識
- 音声認識技術の向上によって音声での文字入力および音声でのパソコンの操作が可能である。ただし、オーディオデバイスが正しく起動しないという不具合が多発しているため、使用できなくなることが多い。
- タブレット機能
- Home Premium、Business、Enterprise、Ultimate に搭載。Windows XP Tablet PC Edition から継承した機能。ペンタブレットやタブレットPCで動作する。ペンの動きで簡単な操作を行う「フリック」が追加された。
- 日本語環境の充実
- 新デザインの日本語フォント「メイリオ」が搭載され、JIS漢字コードのJIS X 0213:2004 (JIS2004) に対応した[17]。
- 標準フォントセット(MS ゴシック類3種、MS 明朝類2種)も変更が加えられ、JIS X 0221:2001 の文字集合と JIS X 0213:2004 の追加文字が採用され、字形も旧来の JIS X 0208:1990 から、前記の文字集合・追加文字の2つを合わせた JIS X 0213:2004 に変更された[18]。
- Windows Search
- 検索インデックスサービスが常駐し、ユーザーのインデックスを作成することでファイル検索時に瞬時に結果が表示されるようになった。またdocファイルやテキストファイルはファイルの中身の検索にも対応し、アーティスト名や写真のExif情報を使った検索にも対応する。
セキュリティ
- Windows Update
- Windows XP以前で採用されていたWebベースでのインタフェースが廃止され、コントロール パネルから利用するようになった。
- ユーザーアカウント制御 (UAC:User Account Control)
- Windows Vistaでは管理者アカウントであっても通常は一般ユーザー以下の権限で動作し、管理者権限が必要なときにダイアログでその確認を求めるようになった[19]。これにより、システムに変更を与えるプログラムの動作の可否を確認する手順を設けることができるため、システムに重大な影響のある操作を不用意に行ってしまうことを防止できる。ユーザーアカウント制御は、ほかの管理者ではない標準ユーザーがログインした状態で管理者のパスワードを入力すると再起動の必要なくその場で管理者の権限を得ることができるため、標準ユーザーからでもソフトウェアなどをインストールすることができるようになった。Windows XPなどUACのないバージョンからアップグレードされたWindows Vista環境では、旧環境でインストールされたアプリケーションの動作互換性のために、UACが一部緩和されている。このため、クリーン インストールした環境とアップデートした環境とで、同じWindows Vistaでありながらアプリケーションの挙動が異なるといった事態が起きている。
- Internet Explorer 7の保護モード
- UACの関連機能の一つ。信頼済みサイトに登録されていないサイトを閲覧する場合、Internet Explorerを通常より低い権限で動作させ、悪意あるプラグインなどからコンピュータ内のファイルなどを操作されることを防いでいる。なお、副作用として保護モードで閲覧中はIMEのプロパティ変更や、辞書登録などが行えず、既に辞書登録済みの単語が変換候補に出ない、共有プリンタから印刷ができない[20]等の問題が起きている。なおこの機能は上記 UAC に依存するため、Windows Vista/Server 2008 で動作する IE7 にのみあり、UAC のない Windows XP や Windows Server 2003 用の IE7 にはない[21]。
- Windows リソース保護 (WRP:Windows Resource Protection)
- WRPで保護されたファイルは、削除や変更ができなくなっている。これにより、システムファイルを削除したり改変するような操作の過失や、悪意あるアプリケーションから守られている。この機能は上記UACとは独立して動作しており、たとえ管理者権限を有していたとしても削除や変更が行えない。なお、Windows Updateが行う変更については例外的に許可されている。
- Windows Defender
- スパイウェア(悪意のあるソフトウェア)を検出・削除するアプリケーション。ほかにも、スタートアップアプリケーションの管理やアプリケーションが行った不正な変更の監視なども行うことができる。ちなみに、Windows Defenderのスパイウェア定義ファイルは定期的に自動で最新版に更新される。
- 保護者による制限
- 一部のゲームやアプリケーションの起動、インターネットにおける特定のコンテンツの閲覧を制限させる機能。
- BitLocker
- Enterprise、Ultimateに搭載。Windows XPまでに搭載されている暗号化ファイルシステムに加え、TPMもしくはUSBメモリと組み合わせて用いるBitLockerと呼ばれる暗号化機能が搭載される。
- サービスとドライバのSession 0分離
- Windows Vistaでは、以前のOSとは異なりサービスやドライバの動作するセッションと、フロントエンドのアプリケーションが動作するセッションが切り離された。これにより、ユーザーが実行した(もしくは、知らずに実行してしまった)悪意あるアプリケーションから実行中のサービスやドライバへ介入する手段が制限された。
- カーネル修正の保護
- 64ビット版のWindows VistaはSP1からPatchGuardとして知られるカーネル保護機能がある。これでカーネルを不正な意図で書き換えられるのを防ぐ。コンピュータ セキュリティ企業は、これはセキュリティ対策ソフトなどシステムを防御するソフトの動作を妨げる物だと主張し、機能の改正を求めた。これに応え、マイクロソフトは正当な方法でカーネルにアクセスすることを可能にするAPIを追加すると発表した。これによって、サードパーティーは PatchGuard の動作を回避して、従来通りのセキュリティ機能を提供することが可能となる。ただし、このAPIにアクセスするためにはマイクロソフトと別途契約を結ばなければならない。
システムおよび環境
- .NET Framework 3.0
- Windows Presentation FoundationやWindows Communication Foundation、Windows Workflow Foundation、Windows CardSpaceは安全で高速かつ柔軟なアプリケーションの開発を可能にする。
- Windows SuperFetch
- ユーザーのアプリケーション利用パターンに基づいて必要なデータをメモリ上にキャッシュし、アプリケーションの起動や切り替えの時間を短縮する技術。
- Windows ReadyBoot
- Windows Vistaの起動時のブートプロセスを学習してそのシステムに最適化し、起動のパフォーマンスを向上させる機能。
- メモリが512MB未満のシステムの場合はWindows XP相当のプリフェッチを行い、システムに700MB以上のメモリが搭載されている場合は、メインメモリのキャッシュを利用してブートプロセスを最適化する。過去5回のトレース情報を元に、CPU の空き時間を利用し、次回のキャッシュ計画を生成する[22]。
- Windows ReadyBoost
- フラッシュメモリの記憶領域をキャッシュメモリとして使用し、総合的なパフォーマンスを向上させる。PCに搭載している物理メモリと同じ容量か、それよりも多いものを使用することが推奨されているが、小容量でも効果が出ないわけではない。容量は空き容量が230MB以上のものが必要、設定可能な容量の上限は、32ビットのアドレス長の最大である4GBまで。
- Windows ReadyDrive
- ハイブリッドHDDをサポートするための機能、またハイブリッドHDDを活用した省電力機能。
- DirectX 10.x
- 新しい表現能力とハードウェアの性能をフルに活用したDirectXの新バージョン。マイクロソフトによると、これによってゲームのスピードが向上し、ユーザーは新しい体験を手に入れることができるとしている。
- シャドウ コピー
- シャドウ コピーでは、作業中の任意の時点でファイルのコピーが作成されるため、誤ってドキュメントを削除してしまった場合にそのドキュメントの各バージョンを迅速に復元することができる。
- IPv6
- IPアドレス枯渇問題に対応するためIPv6が最初からサポートされている。
- IPv6のグローバルアドレスが設定されていない場合、マイクロソフトが無償提供しているTeredoによる接続サービスによるトンネリングを自動設定する。
- IPv4のグローバルアドレスが設定されている場合、マイクロソフトが無償提供している6to4による接続サービスによるトンネリングを自動設定する。
- ただし、ホスト名のアドレス解決においてホストにリンクローカルアドレスまたはTeredoアドレスしか割り当てられていない場合、DNSクライアントサービスはIPv4用のAレコードに関するクエリだけを送信するためIPv6アドレスが取得できず、URLで直接IPv6アドレスを指定したりしない限り、指定した相手にIPv6で通信することはない[23]。そのため、IPv6でインターネットを参照できる環境であっても、ホストにリンク ローカル アドレスまたはTeredoアドレスしか割り当てられていない場合、Internet ExplorerにIPv6のIPアドレスを持つサイトのURLをホスト名で指定しても、IPv6でアクセスすることはできない。この仕様は、IPv4を主に使用する環境での性能低下を回避するためのものである。
アプリケーションおよびエンターテイメント
- Windows Internet Explorer 7
- Low-Rights IE、フィッシング詐欺検出機能などによるセキュリティ対策の強化、アルファチャネル PNG への対応や、CSS2 への対応の強化、タブ ブラウズ機能、フィード リーダー機能が追加された。
- Windows メール
- Windows XPまで存在していた Outlook Express に替わってWindowsメールが搭載。迷惑メール対策の強化などが行われている。
- Windows Media Center
- Home Premium、Ultimateに搭載。Windows XP Media Center Editionのメディアセンター機能を継承。映像・音楽の再生や録画をリモコンを使って直観的に行える。これは、マイクロソフトがテレビとパソコンを一体化させた新しいエンターテイメント環境を提供するために制作されたものである。また、地上デジタル放送の録画に対応したWindows Media Centerを提供することをマイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)が発表した。この提供はパッケージ版やWindows Updateでの提供はなく、メーカーからの対応機種の出荷にのみに提供された[24]。
- Windows Media Player 11
- 音楽配信サービスに対応する。同じネットワーク内でのマルチメディアの共有が簡単にできるようになっている。
- Windows フォト ギャラリー
- Windows Media Playerの操作感で写真の表示や編集、管理することができ、DVDなどの記録メディアにまとめることもできる。また、エフェクトを交えながらスライドショーを表示したり、画像などを自動修正することができる。
- Windows ムービーメーカー
- Windows ムービー メーカーの後継版。Windows Vista発売当初には、ムービー メーカーはWindows Aeroに対応した高性能なグラフィック カードを装着していないと実行できなかった。しかし、マイクロソフトは顧客の要望に応えるため、Windows Aeroに対応した高性能なグラフィックカードを装着していなくてもムービー メーカーが実行できるバージョンを発表した。
- Windows DVD メーカー
- Home Premium、Ultimateに搭載。ムービー メーカーで編集した映像などを DVD-Video形式でDVDに書き出せる。メニューも作成可能。
- Windows サイドバー
- サイドバーには「ガジェット」と呼ばれるミニアプリケーションを利用できる。作成されたガジェットは Windows Live で公開されている。このガジェットは個人レベルでも制作可能であり、マイクロソフトはガジェット作成用のソフトウェアを提供している。関連技術としてWindows SideShowがある。SideShowに対応したサブディスプレイに「SideShow ガジェット」からの情報を表示させたり、逆にSideShow対応のリモコンから情報を受け取ることができる。
- Windows システム評価ツール(Windows エクスペリエンス インデックス)
- このプログラムは、CPU、メモリ、Windows Aero、ゲーム用グラフィックス、プライマリ ハードディスクの 5項目に対し、客観的な指標となる数値(サブスコア)を、マシンの処理能力を実測するプログラム(ベンチマーク)によって導き、表示する。また一番低いサブ スコアを基本スコアとして表示する。基本スコアがシステム性能の総合的な評価となり、Windows Vista やアプリケーションを利用する上での指標となる。
- ゲーム
- Windows Vistaでは、プレミアムゲームとして
- インクボール
- Chess Titans(チェスゲーム)
- Purble Place
- Mahjong Titans(上海)
- が新しく収録されている。また従来の標準ゲームも、よりグラフィカルになった。
- Snipping Tool
- Starter、Home Basicを除くエディションに搭載。PrtScrとは違ってポインティングデバイスで指定した画面上の部分的な範囲のスクリーンショットを切り取ることができる。
拡張
- Windows Ultimate Extras
- Windows Vista Ultimateの拡張機能サービス。Windows Updateとともに不定期に拡張機能が提供されている[25]。GPUで再生させた動画 (MPEG,WMV) を壁紙に設定するWindows DreamSceneや[26]、ゲームにHold 'EmやTinkerなどがある。
オーディオ
- オーディオAPIとしてCore Audioが採用された。WASAPIによりオーディオ関係の大半がユーザーモードで動くため、エラー時にもオーディオが停止するだけでOSがブルースクリーンにならない。
- 新しく導入されたオーディオエンジンにより複数のアプリケーションから同時に音声を出力できるようになった[27]。しかし音量が過大になる可能性も増えたことから音量を制御するピークリミッターが導入されたが、リミッターは最大値に達する前に動作してしまうため、音質が劣化することが確認されている[27]。この問題は以降のWindowsにも引き継がれている[27]。
その他
- PCI Expressなどの規格に公式に対応しており、対応ボードが装着してあればそのボードの電力を節約するための設定を行うことができる。
- Windows XP以前のWindows NT系では起動に NTLDRとBOOT.INIが使われていたが、Windows VistaではWindows ブート マネージャ (BOOTMGR) とブート構成データ (BCD) を使うように変更されている。テキストファイルであるBOOT.INIとは違い、BCDはバイナリファイルであり、テキストエディタではなく、BCDEDIT.EXEで編集するようになった。この変更はEFIをサポートするためなどである[28]。
- マイクロソフトがHD DVDを支持する立場をとっていたため、当初よりHD DVDに標準対応している[29][30]。一方でBDは当初はサードパーティーによる[31]一部対応だった[32]。
- ^ a b c ヨーロッパではHome Basic、Business及びEnterpriseで "N"エディションが提供され、Windows Media Playerやその関連コンポーネントとWindows ムービーメーカーは同梱されていない[33][34]
- ^ a b c d e 韓国市場ではStarterを除くすべてのエディションに"K"エディションがあり、これらを標準のエディションとして提供されている。"KN"エディションとは異なり、"K"エディションはWindows Media Playerは含まれているものの、サードパーティーのメディアプレイヤーとインスタントメッセンジャーを入手するためのリンクも提供される[33]。
- ^ a b c Home Basic、Business及びEnterpriseの各エディションで、韓国のみの市場で販売されている"KN"エディションはWindows Media PlayerやWindows ムービーメーカーのHDコンポーネントは提供されていない。ウェルカムセンターでサードパーティーのメディアプレイヤーとインスタントメッセンジャーを入手するためのウェブサイトへのリンクが代わりに提供されている。
- ^ a b c 発売当初、延長サポートは非適用とされたが、2012年2月20日の改訂で変更された[37]。
- ^ 発売当初、BusinessやEnterpriseなどと同じく延長サポート適用とされ、その後2007年4月23日にHome BasicとHome Premiumなどと同様に延長サポート非適用に変更されたが[38]、2012年2月20日に再度変更された[37]。
- ^ a b c Home Basic、Business、EnterpriseではWindows ムービーメーカーの高解像度(HD)ビデオ出力には対応しない[39]。
- ^ a b Chess Titans, Mahjong Titans, Purble PlaceとインクボールはHome PremiumとUltimateで提供され、BusinessとEnterpriseは既定では導入されておらず手動でのインストールが必要となる[40]。
注釈
- ^ 小型(軽量)ノートPCには光学ドライブを内蔵しないものも存在する。要件として外付けの構成も認められている。
- ^ マイクロソフトに申し込むことで、CD-ROM 5枚組版のキットの購入も可能。Windows Vista インストールメディア お申し込みセンター
- ^ Home Basicからは全ての上位エディションにアップグレード可能であるが、Home PremiumからBusinessにすることはできず、その逆もできない。また、Starterからはどの上位エディションにもアップグレードできないため注意が必要。
- ^ UltimateからHome Premiumにしたり、Home Premiumから Home Basicにすることは不可。
- ^ 例えば Windows XP Professionalプリインストール PC + Windows 7 Professionalアップグレードライセンス → Windows Vista Businessへダウングレードという建前で、実質的にWindows XP→ Windows Vistaへアップグレードされる。ボリューム ライセンス版 Windows Vista専用のインストール メディアを別途用意する必要があるが、無論 Windows 7 のインストール メディアを用意する必要はない。
出典
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固有名詞の分類
- Microsoft Windows Vistaのページへのリンク