高血糖症 高血糖症の概要

高血糖症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 14:21 UTC 版)

英語の hyperglycemia の語源は、ギリシア語でhyper- 過度に、-glyc- 甘い、-emia 血液の状態、である。

原因

糖尿病

空腹時においても持続する高血糖症を慢性高血糖症といい、これは最も一般的には糖尿病によって引き起こされる。また逆に慢性高血糖症は糖尿病の診断基準のひとつになっている。間欠性高血糖症は前糖尿病期にみられることがある。はっきりした原因がないのに高血糖症の急性症状が現れた場合は、進行性糖尿病、もしくは糖尿病の素因を示している可能性がある。

糖尿病における高血糖症は、糖尿病のタイプと進行度に応じて、通常、インスリン濃度低下、および細胞レベルでのインスリン耐性によって引き起こされる。インスリン濃度低下、およびインスリン耐性により、体内のグルコースからグリコーゲン(主に肝臓に貯蔵されるデンプン様のエネルギー源)への転換が抑制され、その結果、血液中の過剰なグルコースの除去が困難、または不可能になる。糖毒性を生じない通常のグルコース濃度では、任意の時点での血液中の全グルコース量は、20~30分間体内にエネルギーを補給するのにぎりぎり十分な量であり、体内調節機能によってグルコース濃度が精密に維持されなければならない。この機能が低下しグルコースが正常値を超えると、高血糖症が生じる。

グルコースはそのアルデヒド基の反応性の高さからタンパク質を修飾する作用(メイラード反応参照)があり、グルコースによる修飾は主に細胞外のタンパク質に対して生じる。細胞内に入ったグルコースはすぐに解糖系により代謝されてしまう。インスリンによる血糖の制御ができず生体が高濃度のグルコースにさらされるとタンパク質修飾のために糖毒性が生じ、これが長く続くと糖尿病合併症とされる微小血管障害によって生じる糖尿病性神経障害糖尿病性網膜症糖尿病性腎症などを発症する[1]

薬剤性

高血糖症のリスクを増大させる薬剤には、βブロッカーアドレナリン、サイアザイド(利尿剤)、コルチコステロイドナイアシンペンタミジン、プロテアーゼ阻害薬、L-アスパラギナーゼ[2]、一部の向精神薬[3]などがある。アンフェタミンなど覚醒剤の一時的な投与は高血糖症を引き起こすのに対し、慢性的な使用は低血糖症を引き起こす。

急性疾患との併発

脳卒中心筋梗塞のような急性疾患を発症する患者は、糖尿病と診断されていなくても、高い比率で高血糖症を進行させていることがある。この場合の高血糖症は良性ではないこと、また、急性疾患に併発する高血糖症は、脳卒中や心筋梗塞後の死のリスクの高さと関連することが、ヒトおよび動物を使った試験で示唆されている[4]

糖尿病がなく、血漿グルコース値が120 mg/dLを超えているときは、敗血症が疑われる。

生理的反応

高血糖症は感染時や炎症時に自然に発症する。身体にストレスがかかると、内因性のカテコールアミンが放出され、他の要因ともあいまって、血中グルコース濃度を上昇させるように働く。上昇の程度は個人によって、また炎症反応の種類によって異なる。よって初めて高血糖症を示した患者に先在する疾患がある場合は、糖尿病の診断には慎重でなければならない。空腹時血漿グルコース値、任意時血漿グルコース値、食後2時間血漿グルコース値の測定など詳細な検査が必要とされる。

検査値と定義

グルコース値は以下のいずれかの単位に従って測定する。

  1. 1デシリットルあたりのミリグラム数(mg/dL)。アメリカ、日本、フランス、エジプト、コロンビアなどで用いられる。
  2. 1リットルあたりのミリモル数(mmol/L)。1デシリットルあたりのミリグラム数(mg/dL)を18で割っても得られる。式は、

科学雑誌では mmol/L の使用に移行しつつある。当面のところ mmol/L を優先単位とし、かっこ内に mg/dL を併記する雑誌もある[5]

対応表[6]

mg/dL mmol/L
72 4
90 5
108 6
126 7
144 8
180 10
270 15
288 16
360 20
396 22
594 33

グルコース値は、食前、食後、また一日の各時間によっても変化する。正常値の定義は医師によって異なるが、一般には、大多数の人(空腹時成人)の正常値はおおよそ 80〜110 mg/dL もしくは 4〜6 mmol/L である。継続して126 mg/dL もしくは 7 mmol/L 以上の患者は一般に高血糖症であるとみなされ、 70 mg/dL もしくは 4 mmol/L 以下の患者は低血糖症であると考えられる。空腹時成人では、血漿グルコース値が 126 mg/dL もしくは 7 mmol/L を超えないようにしなければならない。血糖値が高い状態が続くと、血管および血管を通じて血液を供給する臓器を傷害し、糖尿病の合併症を引き起こすことがある。

慢性高血糖症は HbA1c 検査によって診断する。急性高血糖症の定義は研究によって異なるが、8〜15 mmol/L 程度である[7]


  1. ^ http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/aging/doc3/doc3-03-5.html 生体分子に起こる加齢変化 05-異常たんぱく質はなぜ増えるのか?
  2. ^ Cetin M, Yetgin S, Kara A, et al. (1994). “Hyperglycemia, ketoacidosis and other complications of L-asparaginase in children with acute lymphoblastic leukemia”. J Med 25 (3-4): 219–29. PMID 7996065. 
  3. ^ Luna B, Feinglos MN (2001). “Drug-induced hyperglycemia”. JAMA 286 (16): 1945–8. doi:10.1001/jama.286.16.1945. PMID 11667913. 
  4. ^ Capes SE, Hunt D, Malmberg K, Pathak P, Gerstein HC (2001). “Stress hyperglycemia and prognosis of stroke in nondiabetic and diabetic patients: a systematic overview”. Stroke 32 (10): 2426–32. doi:10.1161/hs1001.096194. PMID 11588337. 
  5. ^ What are mg/dl and mmol/l? How to convert?
  6. ^ Mg/dL to mmol/L Conversions
  7. ^ Giugliano D, Marfella R, Coppola L, et al. (1997). “Vascular effects of acute hyperglycemia in humans are reversed by L-arginine. Evidence for reduced availability of nitric oxide during hyperglycemia”. Circulation 95 (7): 1783–90. PMID 9107164. 
  8. ^ Pais I, Hallschmid M, Jauch-Chara K, et al. (2007). “Mood and cognitive functions during acute euglycaemia and mild hyperglycaemia in type 2 diabetic patients”. Exp. Clin. Endocrinol. Diabetes 115 (1): 42–6. doi:10.1055/s-2007-957348. PMID 17286234. 
  9. ^ Sommerfield AJ, Deary IJ, Frier BM (2004). “Acute hyperglycemia alters mood state and impairs cognitive performance in people with type 2 diabetes”. Diabetes Care 27 (10): 2335–40. doi:10.2337/diacare.27.10.2335. PMID 15451897. 


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