遺伝的組換え
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/06 20:20 UTC 版)
組換えホットスポット
ホールデンは上述のようにゲノム上のどこにおいても乗換えはランダムに起こると考えた。しかしこの仮定は誤っていたことがわかっているとすでに述べた。ゲノム上で、特に組換えが起こりやすい場所のことを組換えホットスポットと言う。
ヒトゲノムにおいては全ゲノム上における組換えホットスポット分布が確認されている。HapMap[1] の第二相データでは、ヒトゲノム上に32966個の組換えホットスポットが存在することがわかった[2]。特定の染色体により組換えホットスポットが多いということはない。
疾患遺伝子マッピングにおける使用
組換えは連鎖を弱めさせる主要な原因であり、組換えが存在するということそのものが連鎖解析を成立させている。組換え確率の正確な測定と疾患の伝達との関連を見ることにより、疾患の原因遺伝子は一意に特定されてもよいように思われる。しかし組換え確率の推定は前述のように不正確な要素も多く、また組換えホットスポットの存在によって結果として疾患関連領域の位置は大まかにしかわからない。現在現実の疾患遺伝子マッピングでは、むしろ連鎖不平衡のほうがより詳細な領域を同定するために有用である。
DNAレベルの組換え
分子生物学では、連続したDNA分子の中のある部分が切断と再結合により他のDNA分子の一部と混ぜ合わされることを組換えという。上記の染色体内での組換えはこのDNAの組換えによるものであるが、DNAの組換えには、他にもいろいろなタイプがある。
なお分子生物学あるいはバイオテクノロジーの基礎技術である人工的なDNA組換え(遺伝子組換えあるいは遺伝子工学)も組換えと呼ばれるが、仕組みは異なる。
相同組換え
染色体の組換えは普通、相同性のあるDNAの間で行われる。これを相同組換えという。
減数分裂の過程で染色体の乗換えに伴うのが普通であるが、体細胞分裂での乗換えに伴うものもある。
相同組換えであっても、染色体の別の位置(染色体レベルでは相同でない)の間で組換えが起これば、座位の数が変化する。その範囲に遺伝子が含まれていれば、遺伝子の重複または欠失につながる。これを不等組換えといい、不等乗換えに当たる。
これらの相同性があるDNA配列の間での組換え反応(相同組換え)を触媒するのは、組換え酵素(リコンビナーゼ)と呼ばれる酵素である。
大腸菌を含む真性細菌においてはRecAと呼ばれるリコンビナーゼが相同組換えを介してDNA修復や外来DNAの取り込みに関与している。一般にリコンビナーゼは細胞にとって重大な障害であるDNAの二本鎖切断(DSBs)の修復に重要である。大腸菌においては電離放射線やDNA複製の失敗によってDNAの二重鎖が切断されると、RecBCDと呼ばれるヘリカーゼとヌクレアーゼの複合体によりその末端の認識・消化が行われ一本鎖DNAが生じる。通常、生体内の一本鎖DNA領域は一本鎖結合蛋白質 (ssDNA binding protein, SSB) によって保護されているがRecBCDの働きにより一本鎖DNA上にRecAタンパク質が配置される。その後、RecAタンパク質がSSBを除去しながら一本鎖DNA上に重合・伸長することにより右巻き螺旋のヌクレオプロテインフィラメントが形成される。その後RecAフィラメントは染色体上の相同領域を探しあて組換え反応を行う。
酵母やヒトを含む真核生物では2種のリコンビナーゼが知られている。そのうちRad51タンパク質は体細胞分裂および減数分裂での相同組換えに必要である。もう一つのDmc1タンパク質は減数分裂時の相同組換えに特異的に機能する。真核生物ではDNA二重鎖の切断末端はMre11/Rad50/Nbs1 (Xrs2) 複合体によって認識され、さらにこの複合体を中心にその後の修復様式が制御されている。相同組換えを介した修復が行われる際は、ヘリカーゼおよびヌクレアーゼによって一本鎖領域が生じ、さらに一本鎖DNA結合蛋白質 (RPA) によって安定化される。その後Rad52タンパク質等の組換え触媒蛋白質が一本鎖DNA上でRPAを除去しRad51を配置することで、最終的にRecAと同様のヌクレオプロテインフィラメントを形成し相同組換え反応を起こす。
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