砥石 原理

砥石

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/11 10:10 UTC 版)

原理

砥石は、「砥粒」「結合材」「気孔」の3つの要素からできている[2]。砥粒は、鉱物質の結晶粒子で非常に小さく、結合材に固定された砥粒が刃物となって工作物を削る。また、切れなくなると結合材から脱落し、新しい砥粒が表面に出てきて物を削り続ける(=自生自刃作用)。結合材は、砥粒を結合させて保持する土台の役目を果たす。気孔は、研削の際、切り屑が入るポケットとなり、安定した研磨ができる。また、ポケットに入った切り屑は、回転している間に外に排出される。この3つの要素が適切な状態に保たれることで、砥石による安定した切削・研磨が可能となる。砥粒・結合材・気孔の条件が悪いと、刃こぼれや目詰まり、目つぶれといった状態が起こり[3]、加工精度に悪影響を及ぼす。そのため、それら削りカスを除去するために表面に水や油をかけて砥汁の状態で除去する方法が古来から行われている。

種類

一般的な日本の刃物用砥石(水砥石)
オイルストーン(油砥石)
粒子による違い
砥石の粒子の大きさにより、荒砥(あらと)、中砥(なかと、なかど)、仕上げ砥(しあげと、しあげど)の3種に大別される。
天然・人工
天然砥石人工砥石(人造砥石)という分類もある。
人造砥石は19世紀アメリカ合衆国で製造が開始された。均質であり入手も容易であることから、現在では広く流通している。人造砥石の原料は主に酸化アルミニウム及び炭化ケイ素であり、製法と添加物によりそれぞれ数種以上の特性に分かれる。その他ダイヤモンド立方晶窒化ホウ素ガーネットなども原料として用いられる。
天然物は、刃物への当たりが柔らかいことや切れ味が長持ちするなどの理由で、主として仕上げ砥を中心に依然として愛好者が多い。天然砥石の原料は主に堆積岩凝灰岩などであり、荒砥は砂岩、仕上げ砥は粒子の細かい泥岩粘板岩)から作られ、中でも放散虫石英質骨格が堆積した堆積岩が良質であるとされる。
油砥石(オイルストーン)と水砥石(ウォーターストーン)
水砥石(ウォーターストーン)は研ぐときに研ぎ水を使用する物をいう。微小な穴が無数にあるため吸水性があり、柔らかい。そのため研いでいると削られ平坦でなくなる。また、物によってはすぐに吸水して表面に水が溜まらず研げなくなってしまうため、研ぐ前に水に漬け込む必要があるものもある。
オイルストーンは、研ぎ水の代わりに灯油や切削油、ホーニングオイルを染み込ませて使用する。素材として、ノバキュライト英語版酸化アルミニウム炭化ケイ素で使用される。

使用に関して

ナイフを研ぐ様子

主に、金属製の刃物の切れ味が落ちた際に、切断機能を復元するために使用される。また、用途によって種類も多くある。人手で刃物を研ぐ砥石は長方形が多いが、動力を利用するものだと厚みのある円形で、外周端面を使って研ぐものと円形の面を使い水平に回転させて研ぐものがある。砥石は後述のように人類の初期からの道具であるが、現代では切削工具(バイトドリル等)では得られない加工精度を得るための工具としても重用されている。

砥石は、これらの原料の種類、粒度(原料の粗さ)、結合度(原料を結びつける強さ)、組織(原料の密集度)、結合材(粉末の原料を固める材料)などの要因を選定する事により、あらゆる金属、及び非金属を高精度に研削することができる。

古来から石器金属器加工に用いられていることで知られるが、漆器などの漆芸にも砥石が用いられ[4]、用途は硬い無機物の加工に限らず、漆芸家にとっても必需品である。

メンテナンス
砥ぎに使用している場所は凹むため、面直し砥石や平面なコンクリートブロックなどに、対象となる砥石とともに水をかけて全面を砥げば平坦になる。

注釈

  1. ^ 工業用砥石に強いノリタケカンパニーリミテドの2018年3月期の売上が1,000億円を超えているのに対し、角砥石で名前の知られている松永砥石、ナニワ研磨工業、シャプトンなどの売上はいずれも年間60億円に達しない(帝国データバンクのデータによる)。
  2. ^ 例として、鹿児島県中種子町所在の立切遺跡からは、3万1千年前の砥石(長さ11.2センチ)が出土しており[5]、後期旧石器時代にまで遡る。
  3. ^ 例として、宮崎県清武町所在の清武上猪ノ原遺跡からは、1万2千年前(縄文草創期)の砂岩製砥石(台石タイプ)や矢柄研磨器(砥石同士を挟んで使用する)が出土している[6]

出典

  1. ^ 「ノリタケ、海外で大型砥石を生産 中国で鉄鋼向け」日本経済新聞電子版(2018年6月12日)2018年10月20日閲覧。
  2. ^ 砥石のしくみ - 株式会社TKX”. www.tkx.co.jp. 2020年3月20日閲覧。
  3. ^ 研削加工の基礎”. 株式会社ノリタケカンパニーリミテド. 2020年3月20日閲覧。
  4. ^ 佐々木英 『漆芸の伝統技法』 理工学社 1986年、諸々の技法が紹介されている(有機物である漆器においても、荒砥・中砥・仕上げ砥を使い分けている)。
  5. ^ 参考・文化庁編 発掘された日本列島 1998’ 新発見考古速報 朝日新聞社
  6. ^ 発掘された日本列島 2008’
  7. ^ 参考・村上恭通 「シリーズ 日本史のなかの考古学『倭人と鉄の考古学』」 青木書店 1998年 ISBN 4-250-98070-7 pp.87 - 95
  8. ^ 角林文雄 『アマテラスの原風景 原始日本の呪術と信仰』 塙書房 2003年 p.133
  9. ^ 笹山晴生 『古代国家と軍隊 皇軍と私兵の系譜』 中公新書 1975年 p.64
  10. ^ 砥粒”. ノリタケカンパニーリミテド. 2019年8月13日閲覧。
  11. ^ 誠文堂新光社 大工道具研究会編「大工道具・砥石と研ぎの技法」、ニューレジストン株式会社「砥石の基礎知識Ⅱ」など。
  12. ^ 国内唯一、大型MGセメント砥石メーカー独自の混合技術でぴか一の切れ味誇る《刃研》”. フロンティア. 実業之富山. 2019年8月13日閲覧。
  13. ^ 研削といしの基礎知識”. 日本レヂボン. 2019年8月13日閲覧。
  14. ^ かだいおうち Advanced Course”. www.sci.kagoshima-u.ac.jp. 2022年7月4日閲覧。
  15. ^ a b 砥沢の砥石:地質と歴史 著:佐藤興平 書籍名:群馬県立自然史博物館研究報告. (9)
  16. ^ 砥石採掘磨きをかけて 日本文化を陰で支える”. 日本経済新聞 (2022年11月3日). 2022年11月8日閲覧。






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