知多鉄道デハ910形電車 知多鉄道デハ910形電車の概要

知多鉄道デハ910形電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/02 03:15 UTC 版)

知多鉄道デハ910形電車
名鉄モ910形電車
知多デハ910形917
基本情報
運用者 知多鉄道名古屋鉄道[1]
製造所 日本車輌製造本店[2]
製造年 1931年(昭和6年)[2]
製造数 8両[1]
運用開始 1931年(昭和6年)3月[3]
運用終了 1978年(昭和53年)3月[4]
主要諸元
軌間 1,067 mm狭軌
電気方式 直流1,500 V架空電車線方式
車両定員 100人(座席56人)
自重 34.50 t
全長 16,852 mm
全幅 2,714 mm
全高 4,193 mm
車体 半鋼製
台車 D16
主電動機 直流直巻電動機 WH-556-J6
主電動機出力 74.6 kW
(端子電圧750 V時一時間定格)
搭載数 4基 / 両
駆動方式 吊り掛け駆動
歯車比 3.045 (67:22)
制御方式 電空単位スイッチ式間接非自動加速制御(HL制御)
制御装置 HL-272-G-6
制動装置 AMM自動空気ブレーキ
備考 主要諸元は現・名鉄成立後、1956年(昭和31年)現在[5]。主電動機の仕様など一部データは1961年(昭和36年)現在[6]
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デハ910形は、1941年(昭和16年)に形式称号をモ910形と改め[8]、後年の知多鉄道の名古屋鉄道(名鉄)への吸収合併に際しては原形式・原記号番号のまま名鉄へ継承され、その後車種変更を伴う複雑な改造を経て、最終的にモ900形の形式称号が付与された[9]

モ910形の形式称号が付与されていた当時は、名鉄に在籍する吊り掛け駆動車各形式のうち、架線電圧1,500 V線区用の間接非自動進段制御器を搭載するHL車に属した[1]。後年の改造により架線電圧600 V線区用の間接自動進段制御器を搭載するAL車となり、同時に形式称号をモ900形と改め、1978年(昭和53年)まで運用された[1]

以下、本項においてはデハ910形として落成した車両群を「本形式」と記述する。

導入経緯

知多半島東岸地域における鉄道路線敷設を目的として、愛知電気鉄道(愛電)の資本参加により1927年(昭和2年)11月に設立された知多鉄道は[10]1931年(昭和6年)4月に愛電常滑線(現・名鉄常滑線)の太田川より分岐して成岩に至る延長15.8 kmの路線を暫定開業した[11]。本形式はその開業に際して、1931年(昭和6年)3月にデハ910 - デハ914・デハ916 - デハ918の計8両が日本車輌製造本店において新製され、開業と同時に運用を開始した[3]。本形式は車両番号を1ではなく0から起番し、かつ末尾5を欠番としているが、これは親会社である愛電における車両番号付与基準を踏襲したことによるものである[9]

仕様

本形式は、知多半島東岸地域の対名古屋方面への旅客輸送において知多鉄道線と競争関係となる鉄道省武豊線への対抗上[12]、当時としては近代的な半鋼製車体に、現在のグリーン車に相当する鉄道省の2等車並みのシートピッチを確保したクロスシートを備える居住性の高い車両として設計された[12]。基本設計は愛電の最新型車両であったデハ3300形に類似するが、デハ3300形が車体長18 m級であったのに対して、本形式は車体長16 m級の一回り小型の車体を採用したことから、各部に設計変更が加えられている[12]

車体

構体主要部分を普通鋼とした車体長16,000 mm・車体幅2,630 mmの半鋼製車体を備える[2]。前後妻面に運転台を備える両運転台仕様で、妻面中央部に630 mm幅の引き扉構造の貫通扉を設置し、その左右に700 mm幅の前面窓を配した[2]

側面窓配置はd 2 D 10 D 2 d(d:乗務員扉、D:客用扉、各数値は側窓の枚数)と愛電デハ3300形と同様であるが[2][13]、約1,600 mmの車体長の相違を吸収するため、本形式においては客用扉幅を1,000 mm(デハ3300形は1,200 mm)、側窓幅を700 mm(同710 mm)、窓間柱幅を80 mm(同100 mm)とそれぞれ縮小し、その他各部吹き寄せ寸法についても縮小した[2][13]。側窓を含む全ての開閉可能窓は上段固定・下段上昇式の二段窓構造とした[2]。側面窓下段部には2本の保護棒が設置されたが[2]、これは後年全車とも撤去されている[1]。乗務員扉は車内側から見て左側(運転台側)の扉については一般的な556 mm幅の開き扉構造としたが、同右側(車掌側)の扉については開口幅を700 mmに拡幅した引き扉構造とした[2]。これは小手荷物輸送時の便宜を考慮したもので、愛電デハ3300形より継承された設計の一つである[12]。なお、本形式は落成当初より客用扉下部の乗降用内蔵ステップを省略し、客用扉の下端部は車内床面高さと同一に揃えられた[2]

屋根上には前後端部にパンタグラフを各1基備え、その他ガーランド形ベンチレーター(通風器)を1両あたり4基、屋根部中央に一列配置する[2]。車体塗装は愛電保有の旅客用車両における標準塗装であったマルーン1色塗りを踏襲した[12]

車内は愛電デハ3300形と同様[13]、客用扉間の側窓8枚分に相当する箇所に左右計10脚の固定クロスシート(ボックスシート)を設け、その他の座席をロングシートとしたセミクロスシート仕様とした[2]。ボックスシート部の座席間隔は1,610 mmと愛電デハ3300形の1,650 mmより40 mm縮小されているが、前後座面長については逆に愛電デハ3300形の540 mmに対して本形式は550 mmと10 mm拡大されている[2][13]

主要機器

主要機器については愛電保有の旅客用車両の仕様を踏襲し、制御装置はウェスティングハウス・エレクトリック (WH) 製の電空単位スイッチ式間接非自動進段制御器(HL制御器)を[3]、主電動機は同じくウェスティングハウス・エレクトリックWH-556-J6(端子電圧750 V時定格出力74.6 kW、同定格回転数985 rpm)をそれぞれ採用した[14]。駆動方式は吊り掛け式で、歯車比は3.045 (67:22) に設定された[14]台車は愛電デハ3300形同様、日本車輌製造製のD16形鋼組立形釣り合い梁式台車を装着する[3]。制動装置はM三動弁を用いるAMM自動空気ブレーキを常用制動として使用し、手用制動を併設する[3]

その他、集電装置日立製作所製の大型菱形パンタグラフを採用[3]、単行運転時における冗長性確保を目的として1両あたり2基、屋根上前後端部へ1基ずつ搭載した[12]


注釈

  1. ^ ロングシート仕様車の自重は34.30 t[27]
  2. ^ ロングシート仕様車の座席定員は56人[27]
  3. ^ モ904 - モ907(モ904を除き2代)の主電動機はTDK-31-SN[28]。定格出力などスペックは同一[29]
  4. ^ モ904と編成を組成するク2320形2324は車内座席の転換クロスシート化などモ904と同一内容による改造が施工されたが[36]、モ905・モ906(ともに2代)と編成を組成するク2320形2322・2323については車内座席がロングシート仕様のまま存置された[36]
  5. ^ 昇圧に際して余剰となった従来車のうち、モ700形・モ750形およびク2320形の一部については、同じく架線電圧600 V線区である揖斐線系統へ転属した[41]

出典

  1. ^ a b c d e 『私鉄の車両11 名古屋鉄道』 p.100
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 『日車の車輌史 図面集 - 戦前私鉄編 上』 p.241
  3. ^ a b c d e f g 「名古屋鉄道の車両前史 現在の名鉄を構成した各社の車両」 (1986) p.173
  4. ^ a b c d e 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 p.159
  5. ^ 「私鉄車両めぐり(27) 名古屋鉄道 2」(1956) p.34
  6. ^ 「私鉄車両めぐり(46) 名古屋鉄道 補遺」(1961) p.37
  7. ^ 「私鉄車両めぐり(87) 名古屋鉄道 終」(1971) p.58
  8. ^ a b c 「監督局 第289号 電動客車型式、記号番号変更ノ件 昭和16年1月30日」
  9. ^ a b c d e f g h i 「私鉄車両めぐり(87) 名古屋鉄道 2」(1971) p.60
  10. ^ a b 『名古屋鉄道社史』 pp.302 - 303
  11. ^ 「名古屋鉄道のあゆみ -その路線網の形成と地域開発-」 (1986) p.81
  12. ^ a b c d e f g h 「名車の軌跡 知多鉄道デハ910物語」 (1979) p.150
  13. ^ a b c d 『日車の車輌史 図面集 - 戦前私鉄編 上』 p.217
  14. ^ a b 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 p.154
  15. ^ 「名古屋鉄道のあゆみ -その路線網の形成と地域開発-」 (1986) p.73
  16. ^ 『名古屋鉄道社史』 pp.201 - 202
  17. ^ 「名車の軌跡 知多鉄道デハ910物語」 (1979) p.149
  18. ^ 「名古屋鉄道のあゆみ -その路線網の形成と地域開発-」 (1986) p.75
  19. ^ a b c d e f 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 pp.155 - 156
  20. ^ a b 「私鉄車両めぐり(87) 名古屋鉄道 3」(1971) p.65
  21. ^ a b 「名古屋鉄道にみる車体更新車の興味」(1992) pp.21 - 22
  22. ^ 「名車の軌跡 知多鉄道デハ910物語」 (1979) p.151
  23. ^ 「名古屋鉄道にみる車体更新車の興味」(1992) p.16
  24. ^ a b 「名古屋鉄道にみる車体更新車の興味」(1992) p.19
  25. ^ a b 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 p.156
  26. ^ a b c d e f 「名車の軌跡 知多鉄道デハ910物語」 (1979) p.152
  27. ^ a b c d 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 pp.148 - 149
  28. ^ a b c d 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 p.147
  29. ^ a b c d 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 p.157
  30. ^ a b c d 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 p.139
  31. ^ 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 p.144
  32. ^ 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 pp.139 - 140
  33. ^ a b c d e f g h i 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 p.143
  34. ^ 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 p.141
  35. ^ a b 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 pp.158 - 159
  36. ^ a b 「私鉄車両めぐり(87) 名古屋鉄道 2」(1971) p.61
  37. ^ 「私鉄車両めぐり(115) 名古屋鉄道」 (1979) p.92
  38. ^ 「瀬戸線 大変革の頃」 (2006) pp.84 - 85
  39. ^ a b 「名鉄電車 Nostalgic color」 (2009) p.177
  40. ^ a b 『ヤマケイ私鉄ハンドブック8 名鉄』 p.28
  41. ^ 「名鉄モ700、モ750を称え、その足跡をたどる」 (1995) p.112
  42. ^ 『私鉄の車両11 名古屋鉄道』 p.179
  43. ^ a b 「現有私鉄概説 福井鉄道」 (2001) p.103
  44. ^ a b 「私鉄車両めぐり(115) 名古屋鉄道」 (1979) p.111
  45. ^ 「現有私鉄概説 北陸鉄道」 (2001) p.87
  46. ^ a b 『名鉄電車 昭和ノスタルジー』 pp.168 - 169


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