民俗学 研究対象と資料

民俗学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/27 14:24 UTC 版)

研究対象と資料

  • 生活(衣食住、民具)
  • 風習(家族制度、社会制度、通過儀礼、社会集団、生業と産業、四季の行事、まつり、遊技・競技・娯楽)
  • 説話・歌曲・俗諺(伝説とお伽話、俗曲・俗謡、諺・謎、諺詩・俚諺)
  • 信仰(神道、仏教、霊魂と来世、妖怪変化、予兆と卜占、魔術、病気と民間療法)

上に掲げた伝承されてきたさまざまな民俗事象が、民俗学の研究対象として説明されることが多いが、ドイツの民俗学者ハンス・ナウマンHans Naumann)は、民俗学の研究対象を「基層文化」すなわち、表層文化に対して、素朴で集団的、また類型的な日常的生活文化、伝承性の濃厚な文化としている。いずれにせよ、上に掲げたそれぞれは、民俗学における基本的な資料となっており、その意味から民俗資料と称される。

「民俗資料」の語の使用は、柳田國男が最初であり、折口信夫も用いているが、2人とも当初からはっきりした規定をしているわけではなかった。ただし、柳田は『民間伝承論』のなかで、

  1. 目に映ずる資料<体碑>…たとえば研究者が旅行の途中でも観ようとすれば可能な、形をとった事物行為伝承
  2. 耳に聞こえる言語資料<口碑>…多少とも地元の言葉に通じて、耳を働かさなければつかみ得ない口頭伝承。言語芸術。
  3. 心意感覚に訴えてはじめて理解できる資料<心碑>…旅人ではつかむことの不可能な、同郷人、同国人の感覚によらなければ理解できない類の心意伝承。

という三分法の類別を提示しており、さらにこれを、1.有形文化・生活技術誌―旅人の学、2.言語芸術・口承文芸―寄寓者の学、3.生活解説・生活観念・生活の諸様式―同郷人の学、というように趣旨説明している。

いっぽう折口は、

  1. 周期伝承(年中行事)
  2. 階級伝承(老若制度・性別・職業・生得による区別)
  3. 造形伝承
  4. 行動伝承(舞踊・演劇)
  5. 言語伝承(諺・歌謡・伝説説話)

という民俗資料の分類をおこなっている。

はば広く「民俗資料」の語が一般に定着し、明確な概念規定が法令上なされたのは、1954年(昭和29年)の「文化財保護法」の第一次改正において「衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習及びこれに用いられる衣服、器具、家屋その他の物件でわが国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの」として文化財のひとつとして保護の対象となって以来であった。以後、文化庁文化財保護部(現在の文化財部)によって「無形の民俗資料記録」なども編まれるに至っている。

「民俗資料」の名称とともに、そのなかで資料価値の高いものが文化財となって、保護の対象となりうることの了解が社会で広がり、今日では文化財の分類名称としての「民俗資料」は「民俗文化財」と改称されている。その一方で、現代では、文化財の指定の有無とは関係なく、民俗学において、庶民の生活史の推移の理解のために必要な伝承資料全般を民俗資料と呼称している。


  1. ^ a b 河野眞「民俗学における個と社会 ―20世紀初めのフォルク論争を読み直す(3)」『文明21』No9、2002年
  2. ^ 民俗学の国策化大塚英志『怪談前後―柳田民俗学と自然主義―』角川学芸出版、2007年2月






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