時間外労働 立入調査等

時間外労働

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/27 07:40 UTC 版)

立入調査等

労働基準監督官による臨検(強制立入調査、第101条以下)が行われた場合、三六協定が未締結であったり、三六協定に定める限度時間を超えて時間外労働をさせている、三六協定の労働者代表の選任方法が妥当ではない等の事実が認められると、36条違反を是正するよう指導される。世間の求めに応じ、近年監督実施件数は増加傾向にある。原則として臨検を拒否することは出来ず、監督官の臨検を拒んだり、妨げたり、尋問に答えなかったり、虚偽の陳述をしたり、帳簿・書類(法定帳簿・書類のみならず、第109条でいう「その他労働関係に関する重要な書類」を含み[5]、使用者が自ら始業・終業時刻を記録したもの、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録も含まれる(平成29年1月20日策定労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン))を提出しなかったり、虚偽の帳簿・書類を提出した場合は、30万円以下の罰金に処せられる(第120条)。

割増賃金

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

○3 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

労働基準法における労働時間に関する規定の多くは、その長さに関する規制について定めている(ことぶき事件、最判平成21年12月28日)。使用者が労働時間を延長した場合、通常の労働時間(休日労働の場合は、労働日)の賃金の、時間外労働については2割5分以上、休日労働については3割5分以上の割増賃金を支払わなければならない(第37条1項、平成12年6月7日政令第309号)。第33条・第36条に定める手続を取らずに時間外・休日労働をさせたとしても、割増賃金の支払い義務は生じる(昭和63年3月14日基発150号)。第37条は強行規定であるので、割増賃金を支払わない旨の労使合意は無効である(昭和24年1月10日基収68号)。

また、使用者が午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域または期間については午後11時から午前6時まで)の間に労働させた場合においては、通常の労働時間における賃金の計算額の2割5分以上(時間外労働が深夜に及ぶ場合は5割以上、休日労働が深夜に及ぶ場合は6割以上)の率で計算した割増賃金を支払わなければならない(第37条第3項、労働基準法施行規則第20条)。なお、休日労働とされる日に時間外労働という考えはなく、休日労働が深夜に及ばない限り、何時間労働しても休日労働としての割増賃金を支払えばよい(昭和22年11月21日基発366号、昭和33年2月13日基発90号)。

時間外労働が継続して翌日の所定労働時間に及んだ場合、たとえ暦日を異にする場合であっても一勤務として取り扱い、その勤務は始業時刻の属する日の「1日」の労働とされる。したがって、時間外労働の割増賃金は、翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して支払えばよい(昭和26年2月26日基収3406号)。一方、翌日が法定休日であった場合は、翌日の午前0時以降の部分は休日労働としての割増賃金を支払わなければならない(昭和23年11月9日基収2968号)。どちらの場合においても、深夜時間帯については、深夜労働に対する割増賃金を合わせて支払わなければならない。

1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることとすることは、事務を簡便にするという考えから第24条・第37条違反として取扱わない。また1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合や、1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることも同様に第24条・第37条違反とはしない(昭和63年3月14日基発第150号)。

年俸制による時間外労働

年俸制の場合でも同法では時間外労働をした場合には年俸とは別に時間外手当を支給しなければならないことになっている。しかし、あらかじめ時間外の割増賃金を年俸に含めて支給することもできる(例:1か月に45時間の時間外労働を含めて年俸制で支給する)。実際に時間外労働が発生しなくても支払われるこの制度を「固定残業制」などと呼び、割増賃金を「みなし残業手当」などと呼ぶこともある。この場合でも、その決定明記した時間外労働時数を超えて時間外労働をした場合については、毎月払いの原則があるため、その差額をその月の給与に加算して支払わなければならない。

国際労働機関

国際労働機関1号条約(工業的企業に於ける労働時間を1日8時間かつ1週48時間に制限する条約日本は未批准)では、例外規定はあるが「家内労働者を除いた工業におけるすべての労働者の労働時間は1日8時間、1週48時間を超えてはならない」と決められている[6]。なお労使合意もしくは政府認可がある場合、一日8時間に満たない日の残り時間を、一日8時間を超える日の超過時間と相殺することが可能(第2条(b))。


注釈

  1. ^ 通常は、就業規則等で定められた所定労働時間を超えて労働することの意味で用いられるが、法的には、所定労働時間を超えても、法定労働時間を超えなければ「時間外労働」とはならない。
  2. ^ これを届け出た場合には、当該協定書の写しを当該事業場に保存しておく必要がある[3]
  3. ^ 1年単位の変形労働時間制は、あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分することにより、突発的なものを除き恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度であり、このような弾力的な制度の下では、当該制度を採用しない場合より繁忙期における時間外労働が減少し、年間でみても時間外労働が減少するものと考えられることから、1年単位の変形労働時間制により労働する労働者に係る限度時間については、当該制度によらない労働者より短い限度時間が定められたものである[3]
  4. ^ 上司や先輩や同僚や部下など周囲がまだ仕事を続けているために、自分の担当する仕事は終わったため定時に帰ろうと思っても、周囲を気にして帰宅と言えずに不必要な残業をしてしまう行為。
  5. ^ 日本の頭脳労働者の生産性は、労働の長さに関わらず、アメリカ合衆国の頭脳労働者の約半分である。

出典

  1. ^ 2018年7月16日中日新聞朝刊11面
  2. ^ 「36(サブロク)の日」制定記念発表会および「熱血教室!36(サブロク)協定編」を開催連合ニュース
  3. ^ a b 労働基準法関係通達”. 重本コンサルティングオフィス. 2023年8月28日閲覧。
  4. ^ 医師の働き方改革の推進に関する検討会 (March 2019). 医師の働き方改革に関する検討会 報告書 (Report). 厚生労働省.
  5. ^ 「平成22年版労働基準法 下」厚生労働省労働基準局編 労務行政
  6. ^ 1919年の労働時間(工業)条約(第1号)”. ILO. 2012年4月8日閲覧。
  7. ^ 死ぬまで働く日本の若者 「karoshi」の問題」『BBCニュース』。2023年8月25日閲覧。
  8. ^ 【残業に関する調査】残業するため“ダラダラ仕事をする人”がいる…49.7% 残業している方が稼いでるのでは?…「そう思う」65.7%”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES (2023年7月11日). 2023年8月25日閲覧。
  9. ^ 「女性はなぜ活躍できないのか」 p2033, 大沢 真知子,2015年
  10. ^ 仕事はきっちり、ダラダラ残業とはおさらば! | 働き方改革ラボ | リコー”. 働き方改革ラボ. 2023年8月25日閲覧。
  11. ^ 残業するために”ダラダラ仕事をする人”…2人に1人が「会社にいる」と回答 残業したい人の理由とは(まいどなニュース)”. Yahoo!ニュース. 2023年8月25日閲覧。
  12. ^ 残業するためにダラダラ仕事をする人、約5割が「いる」-“残業したい”派の理由は…”. マイナビニュース (2023年7月13日). 2023年8月25日閲覧。
  13. ^ a b http://zangyo-trouble.com/zangyo-faq01.html
  14. ^ http://www.sr-kawachu.jp/category/1510908.html
  15. ^ https://gakumado.mynavi.jp/freshers/articles/35503 約7割の社会人が「付き合い残業」した経験あり! 「先に帰ると上司のイヤミが……」
  16. ^ http://www.bbc.com/news/business-34667380
  17. ^ [1]「未払い残業代請求対応労務管理対策室」
  18. ^ [2]
  19. ^ a b Wages and the Fair Labor Standards Act” (英語). アメリカ合衆国労働省. 2023年5月25日閲覧。
  20. ^ ビジネス特集 ドイツ自動車業界の苦悩 - NHK
  21. ^ ハンガリーの「奴隷法」成立、続く抗議 労組はゼネストの構え”. AFP (2018年12月30日). 2019年4月1日閲覧。
  22. ^ 隐形加班”. japanese.cri.cn. 2024年3月27日閲覧。
  23. ^ 24小时待命不许关机:下班后,你还在“隐形加班”吗?”. www.xhby.net. 2024年3月27日閲覧。






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