市房ダム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/24 05:24 UTC 版)
諸問題
市房ダム完成後の1965年(昭和40年)7月、当時の計画高水流量を超える洪水により、1,281戸の家屋が損壊ないし流失し、床上浸水も2,751戸に及んだ[13]。この際、市房ダムで緊急放流が行われて被害が拡大したとする誤解が地域に広がり、市房ダムへの不信感が増大することとなった[14]。
その後、1971年(昭和46年)8月、1982年(昭和57年)7月の洪水で市房ダムは満水近くまで貯水し、流入量のピーク後に放流量を増やして無調節とする操作を実施している[8]。2020年(令和2年)7月の豪雨(令和2年7月豪雨)では事前に予備放流を実施しながらも、緊急放流寸前まで追い込まれた[15]。
下流の人吉市では市房ダム建設以降、急な河川の増水が見られるようになったとして、洪水時のダム操作を疑問視する声が上がっているが、事業者はピーク時の流入量よりも放流量を抑えているため、被害を悪化させることはないとしており、特に被害の大きかった1965年7月の洪水時の要因は支流の川辺川からの流入が大きかったことによるものと説明している[8]。
1965年7月の洪水を受け、基本高水のピーク流量が人吉で7,000立方メートル毎秒、萩原で9,000立方メートル毎秒へと引き上げられ[13]、対策として流域内の施設で洪水調節を行い、人吉で4,000立方メートル毎秒、萩原で7,000立方メートル毎秒に抑える計画があったが[16]、川辺川ダム建設事業は2009年(平成21年)9月に中止となった[17]。また、2019年(令和元年)の台風19号(令和元年東日本台風)を機に策定された「既存ダムの洪⽔調節機能の強化に向けた基本⽅針」により、球磨川水系では2020年度の出水期から瀬戸石ダム、油谷ダム、内谷ダム、清願寺ダム、幸野ダムの5基の利水ダムが治水に協力することとなっていたが[18]、2020年7月の豪雨時は突発的なものであったとして、各利水ダムでは事前放流を実施しなかった[19]。過去には市房ダムのかさ上げや放流設備の増設といったダム再開発事業や、人吉盆地を迂回もしくは川辺川上流から球磨川下流へと洪水を流す放水路の建設が検討されたが、効果や費用面で多くの課題を残している[20]。
- ^ 右岸所在地は「ダムカードを配布します!」より市房ダム管理所所在地を記した。ダム湖名は『角川日本地名大辞典 43 熊本県』144ページ、堤体積は「市房ダムの概要」、電気事業者・発電所名は「水力発電所データベース」、その他は「ダム便覧」による(2020年7月28日閲覧)。
- ^ 右岸所在地は「幸野ダムの概要」、堤高・堤頂長・堤体積・総貯水容量・有効貯水容量・電気事業者・発電所名は「水力発電所データベース」、その他は「ダム便覧」による(2020年7月26日閲覧)。
- ^ a b c 「角川日本地名大辞典」編纂委員会、竹内理三 1987, pp. 144–145.
- ^ a b c d e f “ダムの書誌あれこれ 市房ダム(球磨川)の建設”. 日本ダム協会. 2020年7月26日閲覧。
- ^ 熊本県企業局 2019, p. 40.
- ^ a b “ダム便覧 市房ダム”. 日本ダム協会. 2020年7月26日閲覧。
- ^ “ダム便覧 幸野ダム”. 日本ダム協会. 2020年7月26日閲覧。
- ^ a b c “第44回河川整備基本方針検討小委員会 資料2 市房ダムの洪水調節”. 国土交通省. 2020年7月26日閲覧。
- ^ 日立製作所 1964, p. 132.
- ^ “市房ダムの概要”. 熊本県 (2014年6月19日). 2020年7月26日閲覧。
- ^ 熊本県企業局 2019, p. 4.
- ^ 九州電力 2007, pp. 773.
- ^ a b 国土交通省 2007, p. 3.
- ^ “川辺川ダム問題 住民が心配する緊急放流 熊本県知事「市房ダム改良」表明に波紋”. 毎日新聞 (2020年11月15日). 2020年11月5日閲覧。
- ^ “市房ダム 緊急放流、寸前で回避 予備放流も”薄氷”の運用”. 熊本日日新聞 (熊本日日新聞社). (2020年7月8日) 2020年7月26日閲覧。
- ^ 国土交通省 2007, p. 10.
- ^ “川辺川ダム建設事業の経緯”. 国土交通省九州地方整備局川辺川ダム砂防事務所. 2020年7月26日閲覧。
- ^ “令和2年2⽉7⽇ 第6回球磨川⽔系⽔防災意識社会再構築会議 資料 球磨川における国土交通省の取組”. 国⼟交通省九州地⽅整備局 ⼋代河川国道事務所. 2020年7月26日閲覧。
- ^ “球磨川水系の利水ダム5基、事前放流実施されず…突発的な豪雨は対象外”. 読売新聞オンライン (読売新聞社). (2020年7月4日) 2020年7月26日閲覧。
- ^ “球磨川治水対策協議会・ダムによらない治水を検討する場 球磨川治水対策協議会の検討に関する意見募集について (1/6~2/6) 別紙4 (5/7) ダム再開発案・放水路案”. 国土交通省. 2020年7月26日閲覧。
- ^ “「やばい…280m超える」寸前で回避された緊急放流、緊迫の所長メモが歴史公文書に”. 読売新聞オンライン (2021年6月29日). 2021年8月13日閲覧。
- ^ “ダムカードを配布します!”. 熊本県 (2020年2月3日). 2020年7月26日閲覧。
- ^ “ダムカードを配布します”. 熊本県 (2019年11月14日). 2020年7月28日閲覧。
- ^ 地球丸 2006, pp. 184–185.
- ^ “『夏目友人帳』の聖地巡礼!熊本県人吉球磨地方に行ってきました!”. にじめん. (2018年9月30日) 2020年7月26日閲覧。
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